図書室での出会い
時刻はすでに昼休み。食堂で素早く食事を取った朝香、夜月、明花、波浜は図書室へと向かっていた。
階段で四階まで上がり、4人は朝香を先頭に扉を開けて入った。
「こご図書室ですか……初めて入ります」
そこは当たり前だが、本に囲まれていた。種類別に本が棚へ収まれ、入り口入ってから左側に本棚と読書の為の長机と椅子、右側のすぐそこに受付がある。
「ここに、お2人がいるのですか?」
「学は確実にね。栄太は……可能性が高いだけだからね」
「じゃあ私とななみーでサカえもんを探しておくよ」
明花と波浜は図書室の本棚側へと向かった。
「私達は学ね」
「はい、どちらにいるんでしょうか」
「そこにいるわよ」
「え?」
朝香が向かったのは、受付。そこには本を読む眼鏡をかけた生徒が座っていた。
「学」
朝香が声をかける。
「……」
しかし返事どころか、反応すらない。ただただ本を読み続けている。
「返事がないのですが……」
「いつものことよ。いわゆる本の虫ってやつ。だからこういう物が用意されてるの」
朝香が指さした受付の上に、呼び鈴と一枚のメモが置かれていた。
メモにはこう書かれている。
『声をかけても無反応の場合 これを押してください』
「自分で分かってて用意する辺り、学らしいわ」
メモに従って、呼び鈴を押した。
チン
呼び鈴が鳴ると、今まで動かなかった生徒に変化が起こった。
まずは自らが読んでいた本に栞を挟んでから閉じ、受付の下から一枚の紙、受付の上に置かれたペンケースから一本の鉛筆をセットにして置きながら、
「はい、本を借りるのでしたらこちらの紙に年組番と名前、後は日付と本の題名を…」
ゆっくりと顔を上げて呼び鈴を鳴らした人物を見る。その朝香と目が合うと、
「なんだ、光か」
先ほどのような事務的口調ではなく、砕けたそれに変化した。
「本を借りに来たのか?」
「残念だけど違うわ。今日は言いたいことがあって来たの」
「言いたいこと?」
「ところで、今日栄太は来てるかしら?」
「あ? お前の後ろでずっと本読んでるぞ」
「へ?」
言われて振り向くと、一番近い机にこちらに背を向けて座る見慣れた人物の後ろ姿があった。
「いつの間に……」
「昼休みの途中から、オレがここに来るより前にはそこに座ってたな」
「そう、相変わらず早いわね、栄太は」
「……呼んだか?」
自らの名前を呼ばれた男子生徒は朝香の声に振り返った。
受付に座っている眼鏡をかけた生徒が、浜田学。
今振り返った生徒が、高橋栄太。
共に朝香達と同じクラスで、明花のつけたあだ名は浜田がガクシ。高橋はサカえもんだ。
「とりあえず、揃ったのなら話を始めるわ。私が言いたいのは2つ、1つ目は学と栄太に新メンバーの紹介よ」
その生徒は、本を借りるために受付にむかった。
そこで聞いたのは、
「どうも~、本を借りたい場合はこの紙に年組番と名前と日付と本の題名を―――」
浜田の代わりに受付に座る波浜の声だった。
本来の受付である浜田は現在、受付から一番近い長机に座っていた。隣に高橋、前には朝香、その左右に夜月と明花が座っている。
「新メンバーってのはアンタのことか、夜月。とりあえずは自己紹介だな、オレは浜田学、あだ名はガクシだ。由来は名前の学に氏という呼び方をつけた、学氏、から来てるらしい」
「高橋栄太、あだ名はサカえもん。由来は名前の栄という字からだ」
「では自分も改めて、夜月光です。あだ名は苗字の月からムーンとなりました。浜田さん、高橋さん、どうぞよろしくお願いします」
夜月が深く一礼して、自己紹介は終了。それを見計らって朝香が口を開いた。
「紹介が終わったみたいだから本題に入るわ。まぁ言うまでもないけど、来週からテストが始まる。そこで勉強会を開こうと思ってるのよ」
「すでにコックさんとイチバンには連絡済みだよ」
明花は二人へ送ったメールを見せる。
「2人とも部活が休みになるから大丈夫だってさ」
「もちろん私達も大丈夫。だから後は2人だけよ、どうする?」
朝香の質問に対して、2人は考えることなく、
「まぁ、オレは別にかまわないが」
「確かに、皆でやった方が効率も上がるだろう」
参加を表明した。それを聞いて朝香は、
「決まりね、ちなみに場所は実家通いである稲荷を除いた私達寮生7人の部屋。一日1人の部屋で今日からちょうど一週間、そういうことになってるから」
普通なら先に言うべき重要なことを、さらりと言った。
「ちょっと待て、そういうことは先に言うべきだろ」
高橋も首を縦に振っているが、朝香は悪びれることなく。
「大丈夫よ、今日は最初……一番目ということでイチバンが部屋を提供してくれることになってるし、休日の土、日は私と夜月の部屋に決まってるから。後の余った曜日の好きなところで決めてくれればいいわ」
その時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。