章間~音奏でる物~
学校の四階、その一室から様々な楽器の音色が流れていた。
ある時はクラリネット、ある時は鉄琴、ある時はトロンボーン、またある時はピアノの音が聞こえ、皆一つの歌のリズムを奏でている。
だが少し妙で、それらの音が同時に聞こえ、和音を奏でることがなかった。
その理由は、それらの楽器が全て一人の手によって演奏されていたからだ。
「はぁー……相変わらずよく出来るわね、ナナ」
部屋の中、演奏する者を見ていた生徒が感心したように呟いた。
「へっへー、どんなもんだい」
ナナと呼ばれた女子生徒には、ある特異体質があった。それは、様々な楽器を扱う事が出来る。というものだ。
故に今、彼女の周りには四種類の楽器……先ほど音の奏でられた楽器が並べられており、先ほどそれを一つずつ音を出していた。
「まぁ同時に2つとかは組み合わせ次第だけどね」
「それまで出来たら凄いけど……ところで、今日はナナ早抜けするんじゃなかったっけ?」
「あ! そうだった! 早く片付けないと!」
ナナは自らが使った楽器を一つずつ片付ける。ピアノの蓋を閉じ、鉄琴を聞いていた女子に預けて隣の部屋に置きに行ってもらい、クラリネットを分解して箱に閉まい。
「後はトロンボーンを……ん?」
ふと、部屋の隅にある物を見つけた。
「アレって……」
それは琴だった。特に細かい装飾は無い、どちらかと言えば質素な感じのする琴だが、西洋風の、綺麗な琴だ。
「あんな琴、学校にあったかな?」
学校で貸し出している楽器全てを扱ったことがあるが、その琴は初めて見た物だった。
「ふむぅ……誰かの置き忘れだとしたら、あんな床に無造作に置くとは少々許せないね」
トロンボーンを置き、ナナは琴に近づき、持ち上げた。
次の瞬間、
ふふふ……やはり、予想通りだったわね。
「え?」
謎の声に、ナナは辺りを見回した。だが部屋の中には彼女一人しかおらず、他の部員は隣の部屋に集まっている。
この状況で、ふと思い付いたのは……
「ひょっとして……コレ?」
琴に目を向ける。
すると、
そう、当たりよ。
「!?」
答えが返ってきて、目を丸くして驚いた瞬間、
悪いけど、あなたの体、お借りするわよ。
「え……」
「ナナー? まだいる?」
鉄琴を戻してきた女子生徒が部屋に戻ってくると、
「あれ? もう帰っちゃったのか」
波浜 七の姿は、もうそこにはなかった。
これで、私の体は良いわ
後は、彼の体になる人を探さないとね
ちょうどいいから、この子の記憶からさがしてみましょうかしらね―――――
この話は、3章における『波浜 七がこと座に操られた時』を物語にしたものです。本来の文章中では彼女のこの状況は描いていませんでしたが、物語を分かりやすくするためにこれを描きました。
本来の文章は、もう少しお待ちください。