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祭りの後

時が幾分か過ぎ、誰からとも言わず七夕祭りはお開きとなった。

「じゃーねー、また学校でー」

寮生ではない稲荷をまず帰宅させ、

「初めの準備任せちゃったし、明花も先戻っていいわよ」

「え? でも」

「そうだよ明花、片付けはアタシ達に任せてさ」

「うーん……じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな」

明花も一足先に戻らせ、屋上には4人。先ほど学校で戦った4人が残った。

明花が去ったのを確認後、夜月は波浜に星座について説明した。

「ほ〜、それは凄いことやってるんだねー、他にこの事知ってるのはイチバンと光だけ?」

「後は……稲荷もそうね」

「ほぉ〜、そして光は、魔法使いぴかりんになったと」

「そんな名前じゃないわよ! ……まぁ特別な力を得たのは確かよ。私が操られてたナナを助けたんだから!」

朝香は胸を張り誇らしげに言った。

「そうだったのかー、ありがとうぴか…」

「ん?」

朝香はにっこりと笑った。ただし、その後ろには般若のような恐ろしいオーラを惑い、夜月と前田が驚いていた。

「ひ、ひかり……」

慌てて訂正する波浜だった。

「そういえば、ナナはどうして操られてたの?」

笑みとオーラを消してから朝香は訊ねた。

「どうしてって、アタシの性格分かってるでしょ? そして相手はこと座だった。これで分かるでしょう」

「「あー」」

朝香と前田はその言葉で納得した、だが夜月は首を傾げて説明を求めた。

「ナナってね、どんな楽器でも使えるっていう特技を持ってるの。普通トランペットを吹く人はバイオリンは引けないけど、ナナはオールマイティーに何でも出来ちゃうのよ」

「だから楽器を見たらついね、それで学校の廊下に琴なんて落ちてるもんだから拾っちゃったらさ」

「なるほど、そうでしたか」

「これからは用心するよ」

「心配はいりません。一度操られると耐性が付くのでもう操られる事はありませんので……あ、朝香さん。コレを返しておきます」

夜月は星座早見表を取り出し、朝香へと渡した。

「そういえば、おおかみはどうしたの?」

「へー、あのふもふもの狼くんも星座だったんだ」

「中に戻りました。早見表に書かれているはずです」

朝香は早見表を見た。早見表の下の方角に『おおかみ座』が描かれている。

「確かにあるわ。けどさ夜月、コレ私が持ち続けてていいの? 大事な物なんでしょ」

「はい、ですが星座の力を使えるのは朝香さん。あなたの持つ杖があってこそなので、出来れば大切にして頂けると幸いです」

「そう、なら大事に使わせてもらうわね」

「話終わった? ならさっそく片付けようよ」

波浜の合図で4人は七夕祭りの片付けを始めた。

と言っても、各々持ち寄った物の残りを持ち帰り、借りた机を返すだけだ。

「それじゃ、俺達机戻してくるぜ」

「えぇ、よろしく」

前田と波浜が机の両端を持ち、朝香の開いた屋上の扉を抜けて階段を降りていった。

「夜月、アンタも……夜月?」

開けている間に夜月も通そうと声をかけるが、夜月は空を見上げて答えなかった。

あぁ、星を見てるのね。

夜月を真似て空を見上げれば、満天の星空が広がっている。

「えっと……アレが、天の川、よね?」

朝香は夜月に訊ねながら隣に並んでみた。

「はい、天の川、そしてわし座とこと座、はくちょう座の星を繋ぐことで夏の大三角を描きます」

夜月は指を差しながら大三角を示す。『わし座』のアルタイル。『こと座』のベガ。『はくちょう座』のデネブだ。

「やっぱり、星座に詳しいのね」

「そういう訳ではありません。これは、親がよく聞かせてくれていので覚えているだけです」

「ふぅーん……」

そうだ。ちょうど良いわね。

「ねぇ夜月」

「はい?」

空を見ていた夜月は朝香の方を向いた。朝香も夜月を見る。

「七夕祭り、どうだった?」

「それはもう、とても楽しかったですよ。誘って頂いてありがとうございました」

「そう、それでね夜月、ここに来た限りには私達のグループに入るわよね?」

「グループ、ですか?」

夜月は首を傾げた。

「えぇ、ほら、クラスの中でもよく固まってるグループがあるじゃない? だからといって仲が悪いわけじゃない、そんなグループ。夜月、まだ入ってないわよね?」

「はい、そういうものがあるのも初めて知りました」

「だからね、夜月、私達のグループに入らない?」

「……」

夜月は下を向き、空を見て、もう一度下を向き、朝香の方をむいた。

「はい、よろしくお願いします」

大きく頷き、グループ入りを決意した。

「おっけー、ならいきなりだけで、グループ内での決まり事の一つを守ってもらうわよ」

「き、決まり事ですか」

「対したことじゃないわ。それはね……」

「……」

屋上に少しの沈黙が続いた。

その沈黙の中、朝香は右手の人差し指を、 ビシッ! と、自分に向けて差した。

「私を呼ぶ時、名字は禁止」

「え……? えっと、つまりは、その……」

「これからは、私のことを光って呼びなさいってことよ」

「えぇ!? ですが、いえ、あの、その……」

夜月はしどろもどろだ。

「落ち着いて夜月、その理由も今から説明するから」

「は、はい……お願いします……」

朝香は説明を始めた。



まぁ簡単に言えば、私もイチバンみたいな時があったのよ。

「イチバン……前田さんみたいな時ですか?」

そうよ、と言っても何かで一番になりたかったわけじゃなくて、出席番号の話。私名字が朝香だから、大体出席番号は一番になるのよ、そのおかげで得したことが何度もあったわ。面倒なことが最初に終わったりね。

その時の私は、何でかそれに変なこだわりがあって、小学校6年間と中学校3年間、私は一番だったの。けどね、

「今は、一番ではないと」

そうよ、私今、出席番号二番なの。同じクラスに秋本っているじゃない? アイツが一番で、私が二番。この学校クラス替えが無いから高校の3年間はずっと二番なわけよね。

「それで、名前とはどういった関係が……」

「簡単に言えば、気分を変える為ね」

「気分を……変える、ですか?」

うん。高校入って二番になってからね、思ったの。何で私、あんなことにこだわってたんだろう、って。

別に一番で良いことだらけだった訳じゃないし、考えたら小学校や中学校でも同じクラスにならなかっただけで私より早い名前の人いたし。

それで高校入ってから皆に頼んで、光って呼んでくれるように言ったの。一番だった朝香じゃなくて、ね。

「そうだったんですか……」

「そうだったのよ。だからよろしく」

「う……え、えっと……」

夜月は先ほどのように視線を空に上げ、いや泳がせ、一度深呼吸。そして朝香に向き直り。

「ひ……光……」

自らと同じ字で読みの異なる、朝香の名前を呼んだ。

「うん、それで良いわ。ありがとう、そしてようこそ、私達のグループへ」

「は、はい……ひ……」

「なに? 私の名前ってそんなに呼びにくい?」

「い、いえ! そういう訳ではないのですが……」

「別に呼び捨ては強制しないわよ」

「で、では……光、さん」

「なに?」

「……これから、よろしくお願いします」

「えぇ、よろしく。あと、私達のグループは他にまだ4人いるんだけど、まぁ同じクラスだからいずれ分かるわ。おいおい紹介はするだろうけど」

「はい、分かりました」

「さて……言うことは言っちゃったし、夜月はどうする?」

「自分は、もう少し星を見ていきます」

「そう、私も一緒して良いかしら?」

「はい、喜んで」

2人は揃って星空を眺めた。


天の川を中心に、七夕の主役である織姫の『こと座』と、彦星の『わし座』が輝いていた。


これにて、三章の終了です。

今回の星座補足、『わし座』と『こと座』について記します。

ご存じかもしれませんが、この二つは日本における七夕の彦星と織姫の位置にあたり、天の川を挟んだところで互いに輝いています。

ギリシャ神話においては『わし座』はゼウスの使いであった黒ワシ。『こと座』は音楽の名手オルフェウスの愛用した琴をさします。こうすると互いに接点はありませんね。

この二つに『はくちょう座』の星をつないだものが、『夏の大三角』とよばれるものです。


三章はこれで終わりますが、次は新たな章ではなく、この間に語られなかった物語を少し書いてから進もうと思います。

よろしければ、お待ちください。


それでは、

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