決着から疾走
「ナナ!」
弓をその場に落として朝香は波浜に近づいた。顔を見ると、寝息を立てている。
「良かった……大丈夫みたいね」
波浜を仰向けに寝かせて朝香は立ち上がった。
その時、下階から大きな光が発生した。
「そうだ、夜月!」
朝香は階段へ向かった。
時は少し戻り、朝香が階段を昇っていった時、夜月と『わし座』に操られた前田との戦いが激しくなっていた。
『おらぁ!』
ガキンッ!
爪での攻撃を剣で防ぐ、その直後もう片方の爪が夜月を殴り付けた。
「くっ……」
強い一撃に夜月は後ろへ下げられた。
……厄介な相手ですね。両手の爪に加え、翼による飛行で機動力がある。
しかし、攻め中心のタイプ。これなら、策はあります。
『お?』
夜月は剣を消した。無手になった夜月を見て前田は、
『どうした? 降参か? なら……やられな!』
右手の爪を夜月目掛けて降り下ろした。
次の瞬間、
「はぁっ!」
夜月は虚空から武器を出し迫る前田へ投げつけた。
一直線に投げられた武器が前田に迫る。
だが、
『甘いぜ!』
前田は翼をはためかせて、投げられた武器を空中で身を翻して避けてしまった。体育館の奥に武器が飛んでいく。
『どうした? 苦し紛れの賭けでもしたのか? なら残念だな』
「……」
『今度こそ……くらえ!』
上空から爪が襲いかかる。
夜月は動かない。
しかし、
『!?』
前田の爪は、夜月に当たらなかった。
それは夜月の顔寸前で前田が手を止めたから、
それは夜月が前田を睨み付けたから、
それは、ペルセウスが『わし座』を睨み付けたから。
ペルセウスの気配に気付いた『わし座』が、攻撃を止めたからだ。
夜月、ペルセウスが話す。
『久しぶりだな、わし座。お前は相変わらず戦いが好きみたいだな』
「……」
わし座は爪を下ろし、翼を曲げて床に足をついた。
『どうした?』
ペルセウスが訊ねると、
『……ペルセウス! なぜあなた程の人が人間に加勢しているのですか!』
わし座は怒鳴るように質問を返した。
『はっはっ、簡単な事聞くなよ』
『答えて下さい!』
『悪いが、そんな暇は無いんでね』
ペルセウスは虚空から剣を取り出した。
『くっ……ならば、倒して話させるまで!』
わし座は翼を広げた。
『お前にできるか?』
ペルセウスの挑発にわし座は爪を振り上げる。
『覚悟!』
その瞬間、
グサッ!
『え……?』
わし座は体に違和感覚えた。だが最初は分からず、左翼を見てみな、というペルセウスの言葉に左の翼を見て気が付いた。
わし座の左翼に、月の形をした武器が刺さっていた。先ほど、夜月が投げつけた物だ。
『四日月……ブーメランだな、戻って来る気配を感じれなかったのはムリも無い、闇と同化して気配を消せるからな』
『ま、まさか、その為の時間稼ぎを……?』
『そうさ』
ザシンッ
『くわ……』
ペルセウスは答えながら右翼に剣を刺した。
『これで機動力は半減だ。後は、頼むぜ』
ペルセウスが目を閉じる。次にわ目を開いた時には、夜月に戻っていた。
「これで最後です!」
夜月は剣から手を離し、手に円形の力を集めた。その瞬間にブーメランと剣は消えたが、翼の痛みにわし座の反応は間に合わなかった。
「満月波!」
満月の力を前田の腹部へと当てる。すると両手の爪と背中の翼、『わし座』により現れた部分が輝きだし、バチン! という音と共に爪が消え、背中から『わし座』の本体、一羽の鷲が現れた。翼を痛めている為飛べず、床に転がった。
その『わし座』を追いながら夜月は剣を取り出し、横に一線。
『くっ……はっ……』
わし座は消滅した。
「……ふぅ」
消滅を確認した後、一息ついた所で素早く振り返り、
「朝香さん!」
朝香が昇って行った階段に向かい走り出した。その時、
「夜月!」
その朝香が階段を降りてきた。無事な姿を見て夜月は立ち止まる。
「朝香さん無事だったんですね」
「だから言ったでしょ? 私は強いって」
「……はい、そうですね。朝香さんは強いです」
「ふふん、まぁこんなもんよ」
朝香は誇らしげに胸を張った。
「それで、波浜さんは? 操っていた星座も…」
その時、上から何かが2人の間に降ってきた。
それは一匹のおおかみ、背中には波浜を乗せ、口には『こと座』をくわえて上から降りてきたらしい。
「凄い! 偉いわよ狼!」
「『こと座』をこっちへ、お疲れ様」
夜月はくわえられていた『こと座』を受け取り、朝香はおおかみの頭を撫でた。
「そういえば、彼がいたんでしたね」
おおかみを見て呟いた夜月は琴を空中に放り投げ、剣で縦に切り裂く、『こと座』は空中で消滅した。
「これで、今日は終わりです」
「そう、あっ、出てきたわよ『こと座』と『わし座』」
星座早見表に星座が追加されたのを見てから、夜月は眠っている前田と波浜を見た。
「後は、お2人を寮に送れば…」
その時だった、
「ん……あれ? 俺……どうしたんだ?」
前田が目を覚ました。
「ちょ、早すぎない?」
「ひょっとしたら、今までの中でも一番早いかもしれません」
朝香と夜月が驚いてるのを前田が見つけた。
「ん? 光と……夜月? それと……狼?」
前田の視線は朝香、夜月、おおかみへと向けられ、おおかみの上で寝ている波浜を見た時、
「そうだ、俺は部活帰りにナナに会って、一緒に歩いてたらアイツ、俺の部活間違えて、違うぞって言ったら、何か琴みたいなのが出てきて……えっと……」
「もういいわイチバン、大体分かったから」
「そうか、なら……って、光は何してんだ? つうかここ……体育館?」
回りを見て前田は今いる場所を確認した。
「それについては、一からご説明します」
「あぁ、頼むぜ」
「では順を追って、まずは…」
「あ、やっぱちょっと待った」
説明を始めよとした夜月を前田は止めた。
「どうしました?」
「いや、あのさぁ……今何時だ?」
「「あ……」」
朝香と夜月は同時に思い出し、体育館奥の時計を確認した。
時計は、7時33分をさしていた。
「星座の力は、願いの力です」
「願いの力?」
「朝香さんが願った通り、その願いが強ければ強いほど力は強くなります。例えば『いて座』なら、当たれと願えば必ず当たり、『おおかみ座』等なら、願った通りに動いてくれます」
「へぇ、便利な力ね」
「ですが忘れないで下さい。あくまでもそれは、朝香さんの身を守る力、自分から直接戦おうとは思わないで下さい」
「分かってるわよ」
「…………だと、良いんですけど」
「何よ今の間! 信じられないっての!?」
「……まぁ、朝香さんですから」
「何ですってーーー!!」
夜月の予想は本当に当たったのだった。
時刻は7時38分。朝香達4人と一匹は寮に向かっていた。
その間に夜月は前田に説明を終えた。
「大変な事してんだな」
「いえ、これが自分の役目ですから」
「ふ〜ん……しかし、ナナの奴、まだ起きねぇのか?」
波浜はまだ眠ったまま、おおかみの背に乗せて運んでいた。
「人によって目覚めは異なります。それに、倒した順番でも『こと座』は後でしたから」
「だとしても、このままじゃ七夕祭りに行けないぜ」
その時、
「んむ……あれ? アタシ……いつの間に寝てたの?」
波浜が目を覚ました。
「ナナ! 気が付いたか!」
「? イチバンの声が聞こえたけど……何処かにいるの?」
波浜の顔は今もおおかみの背の上にある。
「目が覚めたのね、良かったわ」
「光の声もする……声は聞こえるけど……なんだか……前がふもふもしてて……とても眠たく……」
「寝るなよ! 今まで寝てたじゃねぇか!」
「お〜いイチバ〜ン、ぴかり〜ん、どこに居るの〜?」
「その名で呼ばないでって言ってるでしょ!」
「えっ……と、波浜さん。顔を上げてください、それで見えますから」
「ふぇ?」
波浜はおおかみの背中から顔を上げ、左右を見る。
「お〜イチバン、光、おはよ〜」
「全く……ナナらしいな」
「そうね……起きなかったらどうしようかと思ってたのに」
「え〜と……ここはどこ? それと……あなたは誰?」
波浜の視線は夜月で止まった。
「はじめまして、夜月 光と申します」
「ナナが会いたいって言ってた転校生よ」
「おーあなたが噂の転校生! はじめまして、アタシは波浜 七だよ! よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
「とりあえずナナ、自己紹介が終わったなら走って、間に合わないから」
「走る……? あぁ! ねぇ今何時!?」
「7時、39分になりました」
「後1分、走れば寮には間に合うわ」
「そこから部屋戻って荷物持ってきて……うわ、絶対間に合わねぇ」
「少しでも縮めるわよ」
「皆さん、お先に行ってください。自分は走れないので、それと、狼をどうにかしますので」
「そう、じゃあ後でね夜月」
星座早見表を夜月渡し、おおかみの背から降りた波浜と3人、寮へ向かって走った。