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それぞれの動き

「もしもし?」

『あ、稲荷? 私よ』

「光? 電話とは珍しいね」

『まぁね、いきなりだけど明日は何の日か分かる?』

「明日……七夕? ……あ!」

『そういう事だけど、どう?』

「うん、明日はヒマだよ」

『分かったわ、それで、少し手伝ってくれない?』

「何を?」

『場所を確保出来たんだけど、まだ学と栄太とナナに連絡してないのよ。明花と協力して皆に連絡してくれない?』

「お安いご用だよ」

『それじゃあ、時間は7時40分。場所は去年と同じって伝えて』

「りょうか〜い」




一夜明け、7月の7日。本日は七夕だ。

そして土曜日でもあり、寮から学校へ向かうのは部活の練習がある者だけで、寮の管理人が朝一番に声を聞いた生徒は、

「おっはよーございます!」

部活へ向かう前田 一だった。

「おはよう前田くん、いつも早いね」

ほぼ毎週こうして出会う為管理人も前田の名前を覚えてしまった。

「はい! 行ってきまーす!」

前田は寮から走って学校へ向かった。




『もしもし、明花?』

「あぁ光、連絡ついたよ」

『ありがと、それで、どうだった?』

「私が連絡したのはサカエもんなんだけど、用事があるんだって」

『栄太は不参加と……他は?』

「コックさんから、『学くん無理だって』って連絡あったよ」

『学もムリか……ナナは?』

「……それなんだけどさ、光」

『どうしたの?』

「連絡がつかないの」




寮から学校に向かう間に、一軒のコンビニがある。ここは主に学校へ行く、帰る寮生徒達が使う場所で、今そこから夜月が出てきた。手にはビニール袋、今日の七夕祭りに持っていくお菓子等が入っている。

「七夕、ですか……」

日本で生活していた事もある夜月はもちろん七夕の話も知っている。そして、ひょっとしたらそれと関係があるのかもしれないと思っていた。

その時、

「あっ……」

夜月の頭の中に光が過った。2つ、星の形をしたような光が。

「……やはりですか、今日で無くても良かったのに……」

夜月は歩きながら考えた。

朝香さんに伝えた方が良いでしょうか? 伝えないと怒られそうですね。仮に隠れて向かっても、時間に間に合わずバレてしまうでしょう。

「……それに、昨日の今日ですからね…」





夜月がコンビニを出た頃、朝香は寮の自室で電話をかけていた。相手は…

「……出ないわね」

唯一繋がらない波浜だった。

「あの携帯っ子のナナが携帯に出ないなんて……しかも…」

携帯の向こうから聞こえるのは、

『お掛けになった番号は現在電波の届かない所にいるか、電源が入っていません』

というもの。

「電波が届かない所だとしても長すぎるし、ナナが電源切りっぱなしな訳がないわ」

携帯を閉じて机の上に置き、朝香は腕を組んで考えた。

何か事件に巻き込まれたのかしら……? でもそれなら何かしらある筈。

……もしかして、ナナも……

朝香はふと、携帯の隣に置いてある物を見た。それを手に取り、じっくりと眺める。

「改めて見てみると、よく出来てるわね」

裏返して見ていると、携帯が鳴り響いた。ディスプレイには夜月と書かれている。

「夜月……? まさか」

朝香は携帯を取り着信ボタンを押した。

「もしもし、夜月?」




時刻は5時20分。学校で行われていた部活が全て終わらせることを示すチャイムが学校に鳴り響いた。

それを聞きつつ、前田も昇降口に向かって渡り廊下を歩いている。

その時、

「おっす! イチバン」

廊下の向こうからあだ名で呼ばれた。

その人物とは、

「お? どうしたんだよナナ」

「いやー色々あってね、そっちは?」

「見て分かるだろ、部活帰りだよ」

「そうかそうか、じゃあ一緒に行こうぜい」

「だな、行くか」

前田と波浜は並んで昇降口へ向かい歩き出す。

「そういやナナ、お前今日の場所と時間分かってるか?」

「え? 時間……あ、あぁうん! 分かるよ!」

「……?」

妙な間に前田は首を傾げた。

「それにしても、休みの日まで部活なんてサッカー部は大変だねー」

「……え?」

前田は立ち止まった。今の波浜の言葉に、疑問を覚えて。

「なぁ、ナナ? 今何て言った?」

「え? サッカー部は大変だねーって」

「……俺、野球部だぞ?」

「……」

波浜は立ち止まり、前田の方を向いた。

「間違えたのか? ナナにしちゃ珍しいこともある…」



『……ちっ、やはり記憶を見ただけじゃダメか』



今までとは違う声が波浜の口から発せられた。

「!?」

明らかな声の違いに前田は目を丸くする。

『まぁいい、お前はこの者と仲が良いらしい……対の器としては最適だ』

波浜は手を虚空に振る。すると、その手にある物が握られた。

「な、何だよそれ、おいナナ!」

『悪いが、少し眠っていてもらおうか』

波浜が手に持った物を操作すると、前田の意識が遠退き、その場に膝から崩れ落ちた。

「お、まえ……ナナじゃ……な……」

そこまで言ったところで前田の意識は飛んだ。

その状況を、校舎の屋上から一羽の鳥だけが一部始終を見ていた。

鳥は翼を拡げると、2人の下へと舞い降りていった。





時刻は7時6分。稲荷は家を出て寮に向かって歩いていた。手には家で作ったおむすびと卵焼きの入ったタッパーを入れた袋を持っている。

「もう皆集まってるかな、まだ時間あるけど、ボク以外寮生だから当たり前か」

そんな独り言を呟きながら、学校の前を通り過ぎた。

その学校の中に、朝香と夜月はいた。

「すみません、こんな特別な日に」

「別にいいわよ、時間に間に合わせればいいんだから……それより」

朝香は、昨日夜月から借りた物をポケットから取り出した。

「使い方はあんな風でいいの?」

「はい、まずは基本から使い、徐々に応用を覚えていけば……って、聞いてますか?」

夜月が話す隣で、朝香は借りた物を見て目を輝かせていた。夜月の言葉で我に返り、

「え!? あぁ、うん、聞いてるわよ!?」

「……ならいいのですが、朝香さん。忘れないで下さいね」

「分かってるわよ、あくまで、身を守る力、よね」

「はい、なるべく危険にならないよう努力しますが、もしもの時は、お願いします」

「分かってるわよ」

夜月を先頭に2人は歩き続けた。そしてたどり着いた場所は、

「体育館ね」

「ここが体育館ですか」

この学校の体育館は、校舎の二階から繋がっている二階建てで、二階がいわゆる体育館。一階は空手部等が活動する格技場という場所になっている。

2人で体育館の扉を開いて中に入った。

窓から差し込む月の光、それとは別の謎の光源によりうっすらと明るい体育館。一番奥にはステージ、左右にはバスケットゴールが2つずつ、扉の場所からは見えないが、左側の手前には上へ上がる階段がある。

「後は……あのステージには地下があって、そこはバスケ部が使ってるわ。ステージ奥には左右に階段があって、上るとあの左右に上がれるわ」

「なるほど……大体分かりました。ありがとうございます」

朝香による体育館内部の説明が終わった。

その時、

『話は終わったかい?』

2人は声のした方向を見た、そこは体育館奥のステージで、2つの人影があった。逆光により顔は見えない。

「また誰か操られていますね……」

「片方は予想がつくわ。でももう一人はいったい……」

人影はステージから降りて2人に近づいてきた。

『お前がムーンだな? 今日という日を待っていたぜ、いざ尋常に勝負しろ!』

男のような声が夜月を指差し、

『ふふっ、彼は一対一を望んでるみたいね。なら隣のあなたは、私と勝負しましょうか?』

女のような声が朝香を見つめた。

2人の顔に光がさし、その姿を表した。

「……やっぱり」

「……」

その2人を見て、夜月と朝香は名前を呼んだ。

「ナナ!」

「前田さん……」

『さぁ! 俺と戦え!』

操られている前田は両手を広げた。夜月との間は距離にして約十メートル、人の手足はもちろん、夜月の剣も届かない距離。




前田はそれを一瞬で詰めた。




ガキィン!


「夜月!!」

「だ、大丈夫……です」

夜月は瞬時に剣を取り出して前田の一撃を防いでいた。

「その姿は……」

夜月は剣越しに前田の姿を見た。

剣と交錯する鋭い爪が両手に。背中に一対の巨大な翼がついている。

答えるかのように、前田を操る星座は正体を明かした。

『俺の名前は『わし座』! お前と戦うのを楽しみにしていた、星座の一つだ!』

前田は再び爪を振り下ろす。

ガキィン!

夜月は剣で受け流した。

「夜月!」

『そこのあなた』

夜月達を見ていた朝香は後ろからの声に振り返った。そこには波浜が立っている。

『アレがムーンらしいけど、あなたは何者?』

「そっちこそ誰よ!」

『ふふっ、知りたいならこちらへ来なさい』

朝香に指さされた波浜は怪しく微笑むと、急に走り出した。

「なっ! や、やってやろうじゃない!」

挑発に乗った朝香は波浜の後を追った。

「朝香さん!」

『よそ見してていいのか!?』

ガキィン!

襲いかかる爪を剣で受け流す。

「くっ……彼女も、星座に操られているのに……」


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