2つの光
ここは、どこかにある高等学校。
遠い所からの学生も多く、学生寮が設けられており、全学生の三分の二が寮生である。
今の時刻、午前8時25分。登校してきた生徒たちが、門を抜けて校舎へと入っていく、今が一番生徒数が多い時間だ。
今、一人の生徒が門を抜けた。
彼女は昨日、学校に2回来ていた。一回目は普通の登校、そして二回目は……
少女は校舎に入り、少し歩いて、立ち止まった。
そこは、校舎の入り口、昇降口と、そこから一番近い階段との中間辺りの廊下。
そこは昨晩、追われた少女が転び、串刺しになった大蛇と出会ったところだ。
そして、黄金色に輝く瞳を持つ人物と出会ったところでもある。
少女は床を見た。そこには小さな、しかし深い傷があった。昨日今日つけられたような、真新しい傷だ。
「……そうか、そうなのね」
床の傷を見つめ、少女は呟いた。その左右を他の生徒に抜かれながら呟き、そして、
「やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
一人、大きな声で喜んだ。
その声に周りの生徒は何事かと少女を見るが、視線が集まる頃には、少女はその場には居ず、階段を上っていた。
「……???」
廊下に少しの沈黙と困惑が続いた。
「やっぱり本当だったのね!」
その原因を作った少女は今、自らのクラスに向かって階段を一つ飛ばしで上がっていた。
少女の名は、朝香 光。この高校の二年生だ。
彼女を知る友達が、朝香を一言で表すと、全員がそろってこう言う。
少し変わった夢を見る少女、と。
朝香はファンタジーに憧れている。とは言っても、赤い糸や青い鳥は信じない。
突然空から、『あなたは選ばれました』とか、倉庫に忘れ去られていた古代の道具が反応して、『戦え、戦うんだ』とか、そう言った現実から離れた日常、非日常を求めているのだ。
「夢じゃなかった! 夢じゃなかったのよ!」
朝香はその喜びを持ったまま階段を駆け上がりきり、自分のクラスの扉をガラガラと大きな音をたてて、
「おはよう!」
挨拶と共に中へと入った。
「おっはよう光、なんだかごきげんだね?」
「そう、そうなのよ! ちょっと聞いてよ明花!」
朝香は自分の席に座り、今呼ばれた少女はその隣、空いている席に座った。
明花と呼ばれた少女、名前は加藤明花。
彼女には、一つの特技があった。それは、あだ名をつけること。
明花のつけるあだ名は、独特でありながらも、その人物をさし、分かりやすいものばかりだ。
そんな明花本人のあだ名は、『あだ名メーカー』である。
ちなみに、『それは長いから』という理由で朝香は普通に名前で呼び、あだ名を知る者の大半も、略してメーカと呼ぶ。
朝香は昨晩の話を明花に話した。
「へぇ〜、蛇に追われたんだ、大変だね」
普通なら怖いことを、あっけらかんと明花は述べる。
「そうよ、そして誰かに助けてもらったのよ」
「良かったね、夢が叶って」
その途端、
「甘い!」
「ふぇ!?」
朝香は机をバンッ! と叩いて立ち上がり、その音に驚いている明花を指さし、
「そういうことがあった。それで終わらせてはいけない、そう、それだけで終わらせてはいけないのよ!」
高々と宣言した。
「必ずあの人物に出会って、その世界に入り込むの! そう、入り込むのよ!」
その時、チャイムが鳴った。
明花は自分の席に戻り、朝香も席に座り直した。
教室に担任が入ってきた。いつもの光景だが、今日は少し違っていた。いつもなら担任は教卓の前に立って自分の荷物を置き『それじゃ、始めるぞ』と言うのがホームルームの始まりだった。
だが、今日の担任は教卓に荷物を置くと、
「いきなりだが、今日このクラスに来た転校生を紹介する」
と言った。
瞬間、クラスがざわついた。
え? 転校生?
今の時期に? 遅くない?
だって今、7月だよな?
後2、3週間で夏休みなのに?
教室内がざわざわと騒がしくなっている中、教室の窓側から二列目、一番後ろの席に座る生徒は一人、考えごとをしていた。
こんな時期に転校? もしかして何かワケあり……ひょっとして、何か謎を持ってるとか……
一人長考していた朝香は、
「じゃあ、自己紹介して」
転校生が教室に入ってくるのを見逃してしまった。
しまった! そう思って慌てて朝香は前を向いた。
そこには転校生の姿と、黒板に書かれた転校生の名前があり。
黒板には、こう書かれていた。
夜月 光
朝香と同じ漢字の名を持つ転校生は、自身の名前を言った。
「親の都合で外国に居ました。夜月 光 です。皆さんどうぞ、気軽に声をかけて下さい。よろしくお願いいたします」
そう言って、黄金色の瞳を持つ夜月は、頭を深く下げた。
謎の転校生、よくあるシチュエーションですね。
ひかりとひかる、2つの光の物語はこうして始まります。
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