一夜明け
『月で願いを、星で試練を』3章の開始です。
今回は、リアルタイムの出来事とリンクするように書いていきます。
「……」
朝、夜月は一人教室へと入った。
「あ、夜月くん。おはよう」
「おっす、夜月」
「おっはよ〜」
「皆さん、おはようございます」
挨拶を返しながら、夜月は自分の席に座って、窓の外を見た。
そして、昨日の事を思い出す。
夜月くんは、朝香の憧れだね?
今のはね! 昔言ったことだから!
そうよね! 夜月、また明日ね!
ちょっとまずかったかな?
明日には戻っているといいのですが……
今日はその明日だった。
朝香と稲荷はまだ来ていず、夜月は教室に入る前から気掛かりで仕方なかった。
しかし、下手に気にしすぎて周りの皆さんに気付かれてはマズイですね。感情がよく顔に出る方ではありませんが、気を付けましょう。
そう思った夜月は、鞄から教科書を取り出して開いた。
その時だった、
「おはよう夜月」
「!!」
不意に後ろから挨拶された。夜月が振り返ると、そこには朝香と稲荷が居た。
「おっはよう夜月くん!」
「おはようございます、朝香さん。稲荷さん」
「昨日はありがとね」
「いえ……」
稲荷と話ながら、夜月は朝香の顔色を伺った。すると、
バンッ!
「今日はまだ分からないの!?」
朝香は机を叩いて夜月に訊ねた。それは昨日と全く同じような感じで、昨日のことは無かったかのようだ。
「え? は、はい、すみません、まだです」
目を丸くしながらも夜月は答えた。
「そう、分かったら教えてよね」
朝香は自分の席に座った。
「はい……」
何だ、何かおかしい……昨日の今日であそこまで元に戻れるものでしょうか……?
夜月が思案顔になった時、
「あのね、夜月くん」
稲荷が耳打ちした。
それは昨夜、寮に入ってからの話だった。
「今日はもう寝る!」
光は部屋に入った瞬間この一言と同時に布団を2つ敷いたの、まさに光の速さの如くだったよ。
それから光は寝間着になって、
「はい、稲荷の分」
ボクに寝間着を貸したら、
「じゃ! お休み!!」
布団に入っちゃったの。
だからボクも着替えて、電気消して、布団に入ったんだ。まぁこうなった原因はボクにある訳だし、早く起きて朝ごはん作ってあげよう……と思ってたんだけどさ。ほら、ボクって眠らされてたでしょ? そのせいなのか眠れなくて、やっと寝て起きた頃には……
「おはよう稲荷」
光、もう制服だったの。
サプライズ失敗しちゃったんだ。
「でも、もう元通りだよ」
「元通り……ですか?」
「うん、さっき学校に来る途中にね、光が……」
『私はね……嫌な事や悪い事、思い出したくない事は寝て忘れる! そう、寝て忘れるのよ!』
「……って言ってたから」
「……」
夜月は朝香を盗み見た。
確かに昨日の朝と全く同じ、唯一違うと言えば、星座が現れるか分からないと言われても落ち込んでいないというところだけだ。
「……ん? どうかしたの夜月?」
朝香に気づかれた。
「い、いえ、すみません」
……本当に、元通りみたいですね。
この学校には、プールが無い。そのため夏でも体育は球技中心に行われている。
3時限目、朝香達のクラスは体育だった。
クラスの生徒達は学校指定の体操着に身を包み、運動場に集まっていた。
そんな中に一人、大声で叫ぶ者がいた。
「ついに来たぜ体育! 待ちにまったぜ体育!」
腕を組んで仁王立ちの状態で叫んだ生徒は、クラス中の視線を一点に浴びた。
そんな彼を見てクラスメイト達は―――――また始まったか……と思っていた。
彼の名前は前田 一。名が体に出ているのか。前田は何かと一番になりたがった。だが勉強はあまり出来ない。変わりに運動神経が良く、前田は学年内において一番の運動神経を持っていた。
その時に明花が名付けたあだ名で、クラスメイトの一人が前田に声をかけた。
「どうしたんだよ、イチバン。何叫んでんだ?」
「よくぞ聞いてくれた! 俺は3日前からこの時を、体育を待ってたんだ!」
前田が返答したが、全く答えになってなかった。
「いや、だから何でだよ」
「あれは3日前……『体操着がまだ無い』という理由で勝負出来なかった転校生……夜月光と勝負するためだ!」
「最初からそう言ってくれ」
前田のテンションが高いように見えるが、普段とあまり変わらない為冷静なツッコミが入った。
「という訳で夜月! 俺と勝負しろ!」
前田は見つけて指をさして宣戦布告をした――――制服のまま、体操着に着替えていない夜月に。
「な!? 何でだよ! 何でまだ制服のままなんだよ!」
「す、すみません前田さん。自分は…」
その時、
「ほら、チャイム鳴ってるから集合しろ」
体育の先生がやって来た。生徒達は先生の前に集合する。
「まず皆に言っておくことが一つある。もう皆気づいてるかもしれないが、夜月」
「はい」
先生に呼ばれて、夜月は先生の隣に並んだ。
「見ての通り、夜月は体育を受けない、もとい受けられないんだ。その理由だが……夜月、いいか?」
「はい」
夜月は躊躇うことなくズボンの右裾を持ち上げて、その理由を見せた。
『!?』
先生達は驚いた。すでに見たことのある朝香を除いて。
夜月の右膝から下は、義足だったのだ。
「見ての通り、夜月は義足により激しい運動は禁止されている。なので夜月は体育を受けられないんだ。分かったか、前田?」
「うっ…………は、はーいっす」
「よし、それじゃあ出席を取るぞ…」
幾久日ぶりに『月で願いを、星で試練を』を更新しました。
前書きにも書きましたが、今回の3章はある出来事の話を書こうと思っていますので、どうにかその日に合うように努力しようと思います。
それでは、