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新月と、満月

「やる気になりましたか?」

立ち上がった夜月にいて座が訊ねた。

「はい…………俺が相手だ」

夜月の言葉に、朝香は一瞬疑問を覚えた。

今、自分のこと俺って言ったような……?

朝香の疑問をよそに、夜月は弓を引き、矢を放った。

パシュッ!

流星のように淡い光を纏って矢が、いて座へ向かう。

「あなたも弓ですか」

いて座も矢を放った。

カキンッ!

いて座が放った矢は、夜月の矢のちょうど中心に当たり、互いの矢を床に落とした。

それを前に見つつ、夜月は机に飛び乗り、再び矢を放つ。

パシュッ

「何度やっても同じです」

いて座も放つ、先ほどと同様矢は相殺され、その間に夜月は前の机へ飛び移った。

パシュッ


カキンッ!

再びの相殺、それと共に夜月は机を飛び移った。

「なるほどね……」

朝香はその行動を机の裏から見ていた。そして理解する。

夜月の策はこうだ。

上弦の弓を持った夜月が矢を放つ、それをいて座は避ける、あるいは相殺を狙い防御行動を取る。その間に夜月は並べられた机を飛び移りながら間合いを詰めるというものだ。

ある意味賭けよね……もし相手が避けたり相殺しなかったらどうするつもりだったのかしら……。

思いながらも、朝香には一つの疑問が浮かんでいた。

「まだまだ!」

パシュッ!

何か……夜月の性格、もとい口調が変わった気がするような……

まさか夜月って、戦闘狂?

パシュッ!


カキンッ!

五本目の相殺と共に、夜月はいて座の立つ教卓へ後机一つを挟んだ距離となった。

「これで決めてやる!」

夜月は弓を収め、一足に机へ飛び移った。膝を曲げて着地すると同時に足に力を入れて更に前へ飛ぼうとした。

その時、

「それでは決まりせんよ。なぜならこの距離に近づかせたのはこちらの作戦なのですから」

いて座が闇に手を振る。するとその手に何本もの矢が握られていた。

それを弓にかけ、

「この距離にその勢い、避けられるものなら避けてみるがいい!」

放った。

前へ飛ぶ夜月に向かって矢の雨が打ち出される。

「夜月!!」

朝香は思わず立ち上がった。

前へと飛ぶ力で夜月は避けられない、仮に横に動いたとしても、矢の雨は横幅三メートルに広がった。容易には避けきれない。

しかし、

「……かわさねぇよ」

夜月は矢の雨に向けて左手を広げた。すると、


ガガガガガッ!


矢は空中で動き止めた。夜月の半径数センチ内の矢だけが、まるでそこにある何かに突き刺さったようにその動きを止められ、夜月に届く事はなかった。

「な!? 何故そうなるのだ!?」

いて座は、正確にはいて座が操る稲荷が目を丸くした。

夜月が使ったのは、盾だ。先ほど矢の威力が強くて、守れて5、6本と言った、新月の力、不可視の盾だ。その盾は前から飛んできた矢を予想通り6本、そのまま進めば夜月に当たる可能性のあったものを全て防いだ。

「油断したな」

「しまっ!」

驚くいて座の前に、夜月は空中で止まるように見える盾に突き刺さった矢を横に見て近づいた。

右手に淡く光る黄色の球体を呼び出し、いて座の、稲荷の腹部分に当てた。

「満月波!」

すると球体は稲荷の体内に入り、手に持った弓が輝きだした。

「こ、これはいったい……力が、抜け……」

瞬間、

バチンッ!

「うわぁ!」

大きな音と共に稲荷の手から弓が弾け跳んだ。

弓は弧を画いて舞い、床に落ち。稲荷は立っていた状態から膝から崩れて教卓の上に倒れた。

「ふぅ…………朝香さん! 稲荷さんをお願いします!」

あれ? 口調が戻ってる?

「分かったわ!」

朝香は稲荷の下へ駆け寄った。

その間に、夜月はいて座の落ちた場所へ向かった。その途中、手に三日月の剣を握る。

「……流石ですね、完敗です。よくあの矢の雨の中を前へ出ましたね」

「……正直な所、あなたが矢を相殺しなければ自分は近づく事が出来ませんでしたけど」

いて座がその気になれば、借り物の稲荷に矢を射させて逃げる事も出来た。しかし、いて座にその気は毛頭無かった。

「人の体を借りているのです。極力傷付けないようにと思いましてね」

「……星座が全て、あなたのような性格なら良いんですが」

「それは無理な話です。我らにも種があり、性格があります……貴方の勝ちです。どうぞ一思いに」

「……はい」

夜月は剣を振り、弓と弦を真っ二つに切り裂いた。するといて座は煙のように消えた。

「……今のが、本当に『いて座』……?」

一人呟き、夜月は剣を収めて朝香の元へ向かった。

「あ、夜月! 稲荷が起きないのよ!」

夜月といて座が会話している間から呼び掛けていたが、稲荷は返事どころか目を開けもしなかった。

しかし夜月は冷静に、

「今まで操られていた方も同じ状態になりました。操られていた間の記憶も、後遺症も無く、早い人は早く、遅い人で明日には目を覚まします」

「そう、良かった……」

朝香は一安心した。

「さて、稲荷さんをどうにかしましょう。ここに置いていく訳にはいきませんし、稲荷さんの家を自分は知りませんし…」

「大丈夫よ、私の部屋に連れていくわ」

「それは助かります」

「ただし……」






「さぁ! あと半分よ!」

「は、はい……」

月が夜空に輝く中、朝香の部屋へ稲荷を連れていく為に、朝香と、稲荷を背負った夜月は寮へ向かって歩いていた。

人を一人背負っているのもあり、行きの倍以上の時間をかけて半分来た。その時、

「ん……? あれ? ここは……」

稲荷が目を覚ました。先に朝香気付き、

「稲荷! 目が覚めたのね!」

「へ? この声は、光?」

「目が覚めたんですね」

「え? 夜月君の声も聞こえたけど……」

姿が見えない夜月を探して首を振ると、まずいつもと違う視界の高さに気付き、それが夜月に背負われてるということに気づいた。

「うわぁ!? どうしてボク夜月君におぶられてるの!?」

「それについてはご説明します。自分で歩けますか?」

「う、うん。多分へいき」

稲荷は夜月から降りて自らの足で歩き出した。三人は並んで歩き、寮へ着く間に稲荷が操られていた事、それを夜月が助けたを説明した。

「えっと……つまりボクはそのいて座ってのに操られてたんだね?」

「簡単に言えばね、そして夜月がいて座を倒したのよ」

「そうなんだぁ、ありがとう夜月君!」

稲荷はにっこりと笑ってお礼を言った。

「いえ、これが役目ですから」

「それにしても、月の力か〜、スゴいな〜」

「稲荷もそう思うでしょ!」

共感者を見つけて朝香もテンションが上がった。


しかし、稲荷の次の一言で、


「そう考えると、アレだね? 夜月君は光の憧れだね」

「なっ!?」

朝香は一瞬の内に混乱した。

ちょうどその時、学生寮の前に辿り着いた。

「なな、何言ってるのよ稲荷!」

「だってそうでしょ? 光、前に『付き合うならファンタジーの人、あるいはファンタジーな力を持ってる人ね』って言ってたよね?」

「たた、確かに言ったけど……けど!」

朝香はビシッ! と夜月を指さした。

「それを本人を前にして言うんじゃ……そう、本人を目の前に言うんじゃないわよ!」

「あ、そっか」

ようやく気づいた稲荷は、ごめんごめんと謝る。しかし朝香の混乱は収まらない。

「あの……朝香さん?」

「っ!?」

夜月に呼ばれてビクッ! と驚きながらも夜月の方を向く、指はさしたままだ。

「あ……えっとね、夜月。今のはその……昔言ったこと……そう! 昔言ったことだから!」

冷静に対応しようとするものの、顔はほのかに赤く、口はぱくぱくと動き、さした指は震えて定まっていない。全く冷静じゃなかった。

それを見た夜月は、冷静に。

「とりあえず落ち着いて下さい。もう夜も遅いですし」

それを聞いて朝香は、

「そ、そうね! そうよね! 夜月また明日! 稲荷行くわよ!」

早口に言うと早足に寮の中へ入ってしまった。

「ちょっとマズかったかな?」

「そのようですね……明日には戻っていると良いのですが…」

「きっと大丈夫だよ。とにかく、夜月君また明日ね!」

「はい、おやすみなさい」

稲荷も後を追って寮の中へ入った。

「……」

夜月は寮に背を向け、空を見上げた。

月が輝く夜の空に、幾つもの星が輝いているのを見つつ、

「……朝香さん。あなたはどこまで似ているんですか……」

空へ向け、誰にも聞こえないよう呟いてから寮へと入った。


ここで、『いて座』について少し補足を

今回現れたいて座は、稲荷の体を操って弓を引いていましだが、実際の星座ではモデルとなったギリシャ神話の賢者、ケイロンが弓を持った姿が本当です。

つまり、夜月のあの言葉には―――――


さて、これにて第2章閉幕、第3章へ向かいます。

これまでの感想、評価、指摘、及び一言、お待ちしています。

ここまで読んで下さったそこのアナタ、何か一言書いていきませんか?


それでは、

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