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操られた者

星座がもう一つ居ます。

後を追ってきた朝香に、ため息をついた夜月が言った言葉だ。

「もう一つ?」

「はい、こちらに来てからは初めてですが珍しくはありません。向こうでは同時に3つ現れた事もあります」

「二対一で戦う事もあったのね?」

「過去に数回程。しかし今回はすでに一つ倒したのでおそらく一対一になると思います」

夜月を朝香が追う形で2人は一階の廊下を歩いていく。

その途中ふと、朝香。

「ねぇ夜月」

「はい?」

振り返らずに夜月は返す。

「そのもう一つってのは、道具の可能性はあるの?」

「それは、誰かが操られている可能性、と言い換えても良いですか?」

「そうね、そう言えるわ」

「そうですね……」

夜月は立ち止まった。朝香が隣に来るまで考え、

「今までの経験上では、それもありました。ですが、そうで無かった時も同じくらいあります」

「つまり……分からないって事ね?」

「はい……すみません」

再び歩き出した。

「ただ、操られている場合は少々厄介ですね」

「どういう事?」

「朝香さんのようなケースは究めて稀で、普通なら星座に完全に操られてしまうのです。その場合は、ある月の力……満月の力で星座を引き剥がすという行為が必要になるんですが……満月はその人に触れないといけないんです」

「えっと……それ、今までの言葉を聞いてると、大変な事じゃない?」

「その通りです」

円に収まるだけしか使えない月の力。その満月という事は円そのものと同じ、つまり他の武器との併用が不可能という事だ。

「ですが、今は他に方法はありません。それを使うしか……あ、ここです」

「ここ?」

夜月が立ち止まったのは、家庭科室の前だった。

「中に気配を感じます……入りますよ?」

「大丈夫よ、自分の身くらい自分で守るわ」

「…………はい」

「ちょっと! 今の間はなによ!」

朝香は昨日星座に捕まった事があった。

「いえ、別に……入ります」

しかし、夜月の間はそれとは異なる事だった。

家庭科室……まさか、操られた人って……

後ろ側の扉を開き、2人は中に入った。

「そういえば、鍵とか掛かって無いのね」

「防犯の必要は無いですから」

2人は室内を見回した。電気が付かずに外は夜、しかし見回せる程には妙な明るさのある部屋の中に星座は見当たらない。

その時、

「来ましたか、ムーン」

「!?」

声のした方向、ホワイトボードの方を見ると、そこには先ほどまでは無かった人影があった。

制服により、ここの生徒だとは判明したが、闇が遮って顔は見えない。

「私の名は『いて座』。自らは動けない為、この方の体をお借りしています」

礼儀正しい口調で言う生徒の手には、弓が握られている。装飾は施されていず一見質素に見えるが、磨きあげられた弓はその見た目を鮮やかに、夜空に薄く輝かせている。

『いて座』は教卓の上に飛び乗った。すると、窓から差し込んだ月の光が生徒の顔を照らし、2人に明らかにさせた。

「え……」

「うそ……」

2人はその顔を見て言葉を失った。それほどにショックを与えた生徒の名前を、2人は同時に呼んだ。

「稲荷!」

朝香は驚きを込めて。

「稲荷さん……」

夜月は予想が当たってしまった悔しさを込めて。

「ほぅ……この方は稲荷というお名前なのですね」

声こそ佐々木のものだが、口から出る言葉はいて座のものだった。

「ちょっとアンタ! 今すぐ稲荷から離れなさい!」

「それは出来ません。私は1人では戦えない身ですので、それに、彼女も力を貸してくれると承諾していただきました」

「それは、操るという事を伝えた上で、ですか?」

「……」

いて座は口を閉ざした。

「それって、ムリヤリと変わらないじゃない!」

「……そんな事、どうでも良いのです。私はムーンと戦えれば、それで」

「どうでも良くないわよ!」

「……朝香さん、落ち着いて下さい」

朝香を宥めるように夜月は声をかける。

「落ち着ける訳ないでしょ! 早く稲荷を…」

「分かっています。だから、早く助けるんですよ」

夜月は虚空から三日月の剣を取り出し、構えた。

「あなたがムーンですね?」

するといて座は、弓を持たない左手を上に挙げた。そこからすっと下に下げると、手には一本の矢が握られていた。

「おぉ! さすがいて座ね!」

怒っていたことも忘れてその状況を見た朝香は目を輝かせた。

「いざ尋常に……勝負!」

矢を弓にかけ、引き絞り、放った。

放たれた矢は暗がりにも関わらず夜月を目掛けて飛んだ。

「っ!!」

ガキンッ!

剣を横に振るって矢を弾いた。弾かれた矢は地面に落ちることなく虚空で消え去った。

「やりますね、では、これではどうですか?」

いて座は矢を三本持ち、同時に放った。

「朝香さん! 机の裏に!」

「分かったわ!」

2人は前に走って一番近くのテーブルの下に隠れた。そこはいて座からは死角となっていた。

三本の矢が数秒前夜月達のいた場所に届き、


ガガガッ!


床に突き刺さった。少しして矢が消滅するのを見ながら、

「早い上に正確……厄介な相手ですね」

「冷静に分析してる場合じゃないでしょ!」

2人は互いに聞こえるくらいの声量で話し始めた。

「どうするのよ? 満月の力とやらを当てなきゃ稲荷を助けられないんでしょ?」

「そうなのですが、相手は遠くからの狙い打ち。近づくのは容易ではありません何か策を考えないと」

「盾とか無いの? 前に出して正面突破とか…」

「盾はありますが、それは難しいですね」

夜月は床に出来た矢の刺さっていた後を指差した。

「あの威力の矢を、自分の盾では防げて5、6本。その間にこの距離は縮められないでしょう」

「じゃあ、あの時みたいに飛ぶやつは?」

「靴ですか……確かにアレを使えば三足の間に距離を縮められますが、移動の途中を狙われたらアウトですね。稲荷さんが選ばれたのは、この暗がりであの正確さを誇れる目の良さ故にでしょうから、そんな隙を逃しはしない筈です」

「じゃあ、どうするのよ…?」

「……一つだけ、策を思い付きました。この地形を利用して、目には目をです」夜月は剣を終うと、新たに虚空から武器を取り出した。

それは弓だった。弦の部分を含めて、その形はちょうど半円を形作っている。

「だから目には目をなのね」

「上弦の月、ちょうど半分です。コレでどうにかやってみます」

夜月は机の方を向き、膝立ちの体制を取る。

「私になにか出来る事は無い? 稲荷の為ならだいたいの事はするわよ」

「……恐らく、後で頼むかもしれません。それまではここに隠れていて下さい」

「分かったわ」

「では、後ほど」

そして、夜月は立ち上がった。


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