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正体を明かす意味

時刻は午後7時45分。既に日は沈み、電灯の照らす道を、



朝香は走っていた。



「夜月ーーーーー!!」

全力疾走で、夜月の名前を叫びながら。

なぜこうなったのか、それは時を少し戻り、朝香が寮の自室で窓の外を見ていた時だった。

「来ないわね……」

寮の入り口で夜月と別れた後、自室に戻って鞄を机の上に置いてそのまま夜月が降りて来るであろう窓の外を見ていた。

だが、降りて来ないままにそのまま30分が経過した時、

「遅い!」

しびれを切らした朝香は部屋を出た。直接声をかけようと階段に向かっていると。

「あれ? どしたの光?」

「明花」

ちょうど昇ってきた明花と鉢合わせた。

「部活帰り?」

「うん、ところで光」

「なに?」

「何でまだ制服なの?」

「あぁ、それは……!」

その時、朝香は言おうとした言葉を飲み込んだ。言ってはいけないと思ったからだ。

(あ、危なかったわ、こういう秘密とかは一般人にバレると力を失ったりするのが普通よね)

朝香が好んで読む小説の大半がそういう設定を持っていた。

「どうしたの?」

「え、えっとね……」

なんとかごまかそう。そう考えた朝香の口から、

「わ、忘れ物を取りにね!」

と出た。すると、

「へぇ〜、ムーンといい、忘れ物した人多いんだね」

明花は納得したようだ。

「ちょっと待って明花、今なんて?」

「え? ムーンも忘れ物があるって、寮の入り口で会ったよ?」

「へぇ……そう……」

この時すでにスイッチが入っていた。

「光? 何か怖いよ?」

「とりあえず、私も忘れ物取ってくるわ」

「うん、いってらっしゃい」

平静を保って明花と別れ、階段を下り、寮の入り口を出て、そして全力疾走を開始したのだった。

そして今に至る。

朝香は体力は女子の平均以上にはあり、運動神経も悪くない、だが寮から学校へは歩いて約20分の距離。それを怒り任せに全力疾走した朝香は、校門にたどり着いたところでかなり息切れていた。

「はぁ……はぁ……つ、ついた……はぁ……」

ふらふらの足取りで昇降口に向かった。校門には鍵がかかっていなかったが、昇降口の扉もそうだった。

そういえば夜月はどうやって扉開けたのかしら。まぁ本人に聞いてみましょ。

「さて……と」

校舎に入った朝香は先の見えない廊下の中央に立った。

「夜月はどっちに行ったのかしら……」

どちらに行こうと先は暗闇、今はまだ昇降口から漏れる月光で明るいが、向こう側に回れば真っ暗の筈。

「でもあえてそっちに行ってる可能性もあるわね」

とりあえずそちらに向かう。そう思って朝香が歩き出した。

その時、

「おい、そこを行くお主」

謎の声が朝香を止める。

「ん? 私の事?」

声に朝香は足を止めた。

「そうじゃ、そこのお嬢さん。ちとコッチへ来てくれないか」

「コッチって、どっちよ?」

「逆方向じゃ」

「ていうかアンタ誰……」

振り向いて訊ねた朝香の目に、ある物が写った。

「なによ、コレ?」

それは冠だった。よく昔話などの中で王様が被っているような、赤を基調として色とりどりの宝石が散りばめられた冠が、何故か学校の校舎に落ちている。

「なんでこんな所に冠……いや、王冠ねこれは」

近くで見ようと冠に近付く朝香。

そこに、

「ダメです朝香さん!」

「え?」

廊下の向こうから左右で異なる足音を立てて夜月が現れた。

「間に合いました……誰かが空間に入る気配と星座の気配がほぼ同時に現れて慌てて来てみましたが」

「ちょっと夜月! アンタ最初から私を置いてくつもりだったのね! なのにまた後でとか言っちゃって、上から降りてくると思って待ちぼうけたじゃない!」

怒りながら夜月に近付く朝香、その足元に冠があるのを忘れて。

「あ、朝香さん!」

「なによ!」

怒りまじりに訊ねた返すと。

「早くその冠から離れてください!」

「え?」

「バカめ!」

瞬間、冠が天井高く飛び上がった。

「まんまと近づきおって! お主の体を借りるぞ!」

冠は重力に従って落ち、朝香の頭上へ乗っかった。

「な、なによ……コレ……」

すると朝香は、力を奪われたようにふらふらと膝を付いた。

「フハハハ! 我輩は『かんむり座』である! お主がムーンだな!」

「くっ……間に合わなかった」

かんむり座を被った朝香はすっと立ち上がった。

「お主がこの者と話しているところを見たのでな、利用させてもらうぞ」

「卑怯な……」

「何度でも言え! フハハハ!」

かんむり座の高笑いが校内に響いた時、

「……ねぇ、夜月」

「え?」

「なぬ?」

右手を上げ、自分の頭の上に乗ったかんむり座をビシッ! と指差して、

「コレはどういう事よ!!」

怒り口調で朝香は夜月に訊ねた。

「え、朝香さん、平気なんですか?」

「ば、バカな、我輩の操りが効いてないのか?」

とても驚いている夜月とかんむり座に対し、

「平気なんですかってなによ、見ての通りじゃない! 操り? 全然普通に動けるわよ!」

朝香は更に怒りを露にする。

「とりあえず私を置いて行ったのはもういいわ、明花に教えてもらったからね」

「明花さんでしたか、確かに会いました」

「あぁでも大丈夫よ、夜月の正体はバレてないわ」

「自分の正体、ですか?」

夜月は首を傾げた。

「だってそういうものでしょ? 一般人に正体がバレると力を失うとか」

「……」

ぽかんとした表情で朝香の言葉を聞いた夜月は、

「それは無いですけど」

あっさりと否定した。

「はぁ!?」

今度は朝香が驚く番だった。

「よく考えてください。朝香さん、あなたにバレた時にそれが本当ならすでに自分は力を失ってます」

「あ……」

「まぁなるべく気付かれないようにしていますが、最悪生徒全員にバレても仕方ないと思っています……それぐらいの気持ちが無いと学校で戦うなんて出来な……あ、朝香さん?」

朝香はショックのあまり体育座りをして床にのの字を書いていた。頭上にはまだかんむりが乗っている。

「そう言えばそうよね……別に私は特別な人間じゃないし、それなのに私ったら……はぁ」

深いため息を聞いて、夜月はおそるおそる声をかける。

「あのー朝香さん?」

「なにか?」

「すみません。少し言い過ぎました。お詫びと言っては何ですが、少し月の力についてお話しします」

「月の力!?」

さっきの落ち込みはどこに行ったか、朝香はがばりと勢いよく立ち上がった。

「そう、じゃあ聞かせてもらおうじゃない。月の力について」

「はい」

この時、夜月は思った。



熱しやすく冷めやすいというか……朝香さん、とっても分かりやすいですね。


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