謎の声
「いただきます!」
明花の音頭に合わせ、4人は手のひらを合わせた。
手にフォークを持ち、全員がスパゲッティを巻いて口に運んだ。
「おいしい〜!」
美味しさのあまり、明花は声で表現した。
「うん。さすが稲荷ね、とてもおいしいわ」
「とってもおいしいです。稲荷さん」
朝香と夜月も素直な感想を述べる。
「みんなが手伝ってくれたからだよ〜」
「でも最終的な味付けは稲荷じゃない、この味は稲荷によるものよ」
「そうかな? えへへ、ありがとうみんな」
その後は会話も交えつつ食べ、あっという間に全員の皿が空になった。
「よし、片付けるわよ」
4人はそれぞれ使った食器を流しに入れる。
「コレはボクに任せて」
スポンジに洗剤をつけて泡立て、稲荷は食器を洗い始める。その洗われた食器を朝香と夜月が乾いた布巾で拭き、明花は使っていた机を拭いた。
「それにしても、あんだけ弱音言いながら夜月は凄い役に立ったわよね」
朝香が三本目のフォーク、夜月が三枚目の皿を拭いていた時、ふと朝香が言った。
「え? 自分が、ですか?」
「そうよ、ね、稲荷?」
「うん、そうだよ夜月くん。とっても助かったよ」
「あ、ありがとうございます……」
恥ずかしさに顔を俯けながら、夜月はお礼を言った。
その時、授業終了のチャイムが響いた。
「あ……」
瞬間、下げていた顔を上げて夜月は呟いた。
「どうしたの夜月くん?」
「あ、いえ、何でも無いです。すみません」
「そう?」
「ほら、早く食器戻して帰りましょ」
皿を朝香が、サラダの器を明花が持っていって戻した。
皆使ったエプロンを持ち、家庭科室を出ようとしたその時、
「む!」
稲荷が家庭科室の机を見て言った。
「稲荷さん?」
「……ゴメンみんな、先戻ってて」
「え? ですが…」
「夜月、稲荷の邪魔しちゃ悪いわよ」
「は、はい…」
「それじゃあね稲荷、また明日」
「うん、また明日」
稲荷を除いた3人は家庭科室を出た。
「よーし、始めるぞー!」
教室に戻った3人。明花は部活へと向かい、朝香と夜月は帰路に付いた。
その途中、ふと、夜月が言った。
「今晩、現れますよ」
「現れるって……まさか」
「はい、星座です。終業のチャイムと共に分かりました。何が、までは分かりませんけど」
「そうなの!?」
「はい」
「へぇー、ふぅーん」
何か言いたそうに夜月を見る。
「……やはり、来るんですか?」
その意味を知って訪ねる。
「当たり前じゃない!」
ビシッ! 夜月を指差しながら朝香は宣言した。
それを聞いた夜月はため息をつく。
「はぁ……止めても駄目な事くらい分かってました。言わなかったら張り込んでましたよね?」
「分かってるじゃない」
2人は寮に付いた。
「それじゃ、また後でね」
「……はい」
朝香が先に入り、夜月は考え事をしてから入った。
この時、夜月が何を考えていたか、朝香は知るよしも無かった。
「いや〜少しやり過ぎちゃったかな」
稲荷はまだ校内に居た。
それというのも、稲荷は七班分のコンロを拭いていたからだ。
『片付けまでが料理!』という親の言葉と、コンロの汚れ、ほんの些細なものだが、を見つけてしまった稲荷の目がそれを行動に移していたのだ。
稲荷は昇降口へ向かって歩いていた。校内に他の生徒は見当たらず、部活真最中のサッカー部の声だけが聞こえている。
その時、
「もし、そこの人」
「ん?」
何者かの声が聞こえた。そこには稲荷以外の人影は見当たらない。
「ボクの事?」
「はい、あなたです。いきなりですみませんが、力を貸して頂けませんか? 少々、やらなくてはいけない事がありまして」
「力? 別に構わないけど、何をするの?」
「ありがとうございます。では、失礼」
声が聞こえなくなった。
それと同時に、
「え……?」
稲荷の意識は、薄れていった。
「何をするのか、に答えさせて頂きますと……ある人と戦わなくてはいけないのですよ…」