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その名は、ムーン

夜月は朝香の手に絡まっていた蔓を剣で切って助けた。

「ふぅ……ありがとう、夜月」

「いえ、ご無事でなによりです」

「ところで……」

「はい?」

朝香は視線を下に落とした。

「……蛇、まだついてるんだけど」

「え?」

夜月が朝香の視線を追って下を見ると、右足にまだ蛇が噛みついていた。

「これは……」


ザシンッ


夜月は剣を蛇の上に突き落とした。

足から外れ、身悶えた蛇は煙のように消えた。

「……やはり」

「どうしたのよ夜月?」

「……」

夜月は剣を消し、星座速見表を取り出した。

「あ、それ授業で見たことあるわ、それがどうかしたの?」

「……」

夜月は速見表に視線を落とし、答えない。

「ちょっと、答えなさいよ、もしくはそれを見せなさい」

朝香は夜月の横に回り、速見表を覗き込んだ。

速見表には、先ほど空いていた『へび座』の隣に『へびつかい座』が、その更に隣に再び『へび座』が新たに描かれていた。

「へー、へび座って2つあるのね」

「……」

「さっきからどうしたのよ夜月?」

「……へび座って、2つあるんですね」

「知らなかったの!?」

「はい……星座についての勉強が足りなかったようです」

速見表を閉まった。

「とにかく、今日はこれで終わりのようです。朝香さん、帰りましょう」

「え、う、うん。でも……」

「どうしました?」

「いや……夜月さっき、蛇の毒受けたわよね?」

蛇の牙穴のある右足のズボンを見る。そうでなくとも、夜月は何匹もの蛇に噛まれて所々に傷はあるが、一番重症なのは毒を持った蛇の噛んだそこだろう。

因みに、蛇が噛んでからすでに数分が経過している。

「あぁ、それならご心配なく」

夜月はズボンの裾を上げた。

「!?」

その下にあった物を見て、朝香は目を丸くした。

ズボンの下には、夜月の生の足が……無かった。

生の足ではなく、人工的に作られた義足があった。

「膝から下は義足でして、蛇の毒が体を回る事はありません」

特に表情も変えずに夜月は説明した。

「え……まさか左も?」

「いえ、右だけです……これには、色々ありまして……」

少し声を落として答え、義足を隠した。

「因みにこの噛み傷も、空間を出れば何ともありません。次に入るときには何事も無かった状態に戻っている筈です」

「そ、そう……」

不思議な出来事だ。と普通なら喜ぶ朝香だが、夜月の義足のインパクトがそれに勝っていた。

「さて、帰りましょう朝香さん。お聞きしたいことには、帰り道でお答えしますよ」

「え!」

だがその言葉に、インパクトは何処かへ行ってしまった。




校舎を出て、朝香と夜月は寮へと向かって歩いていた。夜月の姿は、蛇に噛まれた際の傷も開けられた服の穴も全て無くなっている。

その道すがら、朝香は夜月に対して聞きたい事を聞きまくっていた。

「いつからやってるの?」

「今年の4月からです」

「あの跳躍、あれも月の力なのね?」

「はい」

「そう……あ、あと一つ」

「何でしょう?」

「あのへびつかい、夜月の事違う呼び方してなかった?」

「違う呼び方……あぁ」

夜月は思い出したように手を打った。

「ムーン。ですね」

確かにへびつかいは消える間際、夜月の事をムーンと呼んでいた。

「アレは恐らく、外国にいた時の自分の呼び名です。星座達の間でも広まっていたのでしょう」

「ふぅーん」

その時、学生寮の前についた。

「さて、キリが良いですが、どうしますか?」

「うーん……そうね、今日はもう良いかしら」

「そうですか、では朝香さん。また明日、学校で」

夜月は一足先に寮へと入った。

「えぇ、また明日……ね」

軽く手を振りながら、朝香の顔は、悪巧みを考える子供のような、楽しみを残した人のような表情だった。

「ふふふ……また明日……」


その晩、朝香は夜月に聞くべき事を考える為、日を跨ぐまで眠らなかった。





時刻はすでに昼休み。夜月は一人、食堂でそばをすすっていた。

本来ならクラスメイトから誘われていたが、夜月はそれを『すみません。先客がいまして』と言って断り、一人食堂へ来ていた。

そこへ近づく一人の生徒、夜月を見つけると、前の席に座ってバンッ! と机を叩いた。

「さぁ……話して……もらうわ……ふわぁ……」

朝香は大あくび、聞こうとしていた事を考えていた為、睡眠が足りずにこの有り様だった。しかも、結局何一つ思い付かなかった。

「昨晩大方話してしまった気がするのですが……という以前に大丈夫ですか?」

心配そうに夜月は訊く。

「だいじょう……ふわぁ……」

再びあくび、眠気を堪えて授業を四時間受けた結果だ。

その時、

「お〜い! 光〜、夜月く〜ん」

明花が2人を見つけて朝香の隣に座った。

「ちょっと光、すっごい眠そうだけど大丈夫?」

「平気よ……ふわぁ……」

「そうは見えないけど……あ、そうだ夜月くん!」

「はい?」

「夜月くんのあだ名を考えたよ!」

「はぁ……」

そういえば忘れていた。と夜月は思った。

「そういえばそんなこと言ってた……ふわぁ……」

朝香があくびした瞬間、

「ずばり! ムーンですよ!」

指をさして夜月に示した。

「!」

「……」

朝香は完璧に目を覚まし、夜月は目を丸くした。

「どしたの?」

「い、いえ」

「良いんじゃない? 夜月はどう?」

「は、はい、他のよりは」

「良かった〜昨日寝ずに考えたからね〜」

そういえば明花、授業中に寝てたわね……と朝香が思って食堂で買ってきた物に手をつけた。

「そういえばですが、朝香さんのあだ名は無いんですか?」

「え? 光の?」


カターン


それを聞いた途端、朝香は持っていたスプーンを落とした。

「光のか……う〜ん……」

「め、明花? 無理に思い出さなくてもいいわよ?」

「あぁ!」

ぱん、と両手を打った明花は、

「ぴかりん。だよ」

光につけたあだ名を言った。

「うっ!」

朝香は固まってしまった。自分に合わないと思うそのあだ名は、朝香の黒歴史にして、石化の呪文だった。

「ぴかりん………………くすっ」

「ちょっと夜月! アンタ今笑ったでしょ!?」

復活した朝香は夜月をビシッ! と指差した。

「い、いえ、そんな無礼なことしてませんよ」

「嘘言うな! 確かに見たわよ!」

「確かにね〜、私がこのあだ名をつけた時、みんな笑ってたもん」

「明花!」

指の先が明花に変わった。

「ふぇ!?」

「元はと言えばアンタが思いださなければ良かった、そう、思いださなければ良かったのよ!」

「ひぇぇ〜! 光が怒った〜!」

逃げるように、実際に逃げて明花は食堂を後にした。

「ったく……明花の奴」

追いかけたかったが、朝香はまだ昼食を取っていなかった。

「まぁまぁ、朝香さん」

「だって……あれ? 使わないの?」

「はい、嫌がっているようなので」

「そっか……ありがとう」

朝香はスプーンを持ち、オムライスを一口食べた。

「とにかく、これからは私もついていくわよ」

急に切り出す。

「……止められそうにありませんね」

夜月はため息をついて諦めた。

「見てなさいよ夜月、いつかは邪魔になるどころか、逆に助けるくらいになってやるわ」

朝香は身を乗りだし、夜月の顔を正面に見た。

「……やはり、似ていますね」

夜月はぼそりと呟いた。

「なに?」

「いえ……それでは朝香さん。お先に」

いつの間にか食べ終えていたそばの器とお盆を持ち、夜月は席を立った。

「……」

昼休みの中、食堂では生徒達が各々に集まっている中、朝香は一人昼食を取っている。

「……なんにせよ」

そして、一人呟く。

「私は非日常に……ファンタジーの世界に入れた」

スプーンを持つ手が震える。

そして、




「やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」




一人、食堂内に響く大声で喜んだ。

何事か、と食堂にいた生徒が朝香の方を見た。


だが、すでに朝香はお盆を下げて食堂の入り口にいた。


今作に出てきたへび座について、少し補足を。

このへび座ですが、本来はへびつかい座の中に胴体があり、プトレマイオスという人物がその中から頭部と尾部に分け、事実上2つの星座の連合体として扱われています。

つまり、へび座は本来長い一匹のへびですが、へびつかい座から離れている頭と尾はへび座としてどちらにも表記があることがあります。その為、へび座は2つあるように、この話上では表記しました。


そして、この今回で第1章『出会い編』が終了しました。

これからも更に進む朝香と夜月の物語、お楽しみください。

それでは、

感想及評価、お待ちしています。

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