舞妓
願い事のために鳥居をくぐった。
宮崎芳志は、五十歳。
若い頃は、パイロットを試みたが、肝心かなめの最終試験の時に寝坊をするという大失態を犯した。
その後は、いきなりアニメーション制作会社に入社し、若い手腕が認められ、順調に監督まで昇進した。
最近言われるのが、「もうそろそろ、若い者に任せませんか?」という言葉だ。
以前にも一度言われたのだが、その時は、宮崎のアニメが大盛況に終わっていた。
宮崎は言った。
「何の因果があってお前はそう言うのか?!」
祠の前まで来ると宮崎はしゃがんだ。一服は我慢する。
(まずは、願い事じゃが・・・)
宮崎は持ってきたお札をひざに乗せた。
(さて、ペンだが・・・)
宮崎は自分の上着のポケットを探った。
ボールペンと、筆ペンがある。
「さあ、ここからじゃが」
宮崎は、お札をひざに抱えながら手を合わせた。
すると突風が吹いて、バランスを崩しそうになった宮崎は、地面に手をついた。
「おっと!」
筆ペンが転がり落ちて行くのを、すばやく手で止める。
そして、「よーし」と気合を入れると、真っ白なお札に筆ペンで字を書き始めた。
空を飛びたい。
「なにとぞなにとぞ」と、宮崎はそのお札を祠におさめようとした。
「時にじゃが・・・」
いきなり後ろから声がして、宮崎は、「はっ!!」と、飛び上がった。
見ると巫女の恰好をした女が、愉快そうに宮崎を見下ろしていた。
「その祠におさめるより、本殿に行かぬか?なーに、お代はいらぬ」
宮崎は、これは何の引っ掛けかと思ったが、おもしろそうなので立ち上がり、「では、案内を頼む」と言った。
巫女は目を細め、「そう来なくっちゃ」と言ってから、「これはおあずかり」と、先ほどの宮崎のお札を自分の手で持ってひらひらとして見せた。
(なぬ?!!)
宮崎は自分の上着のポケットを探った。
(さっきまでここに・・・)
顔を上げると、巫女と目が合った。
巫女はまたいっそう目を細めて愉快そうな顔をした。
「本気の願いは本殿へ」
巫女はリズムをつけてそう言った。
「や~きゅう~す~るなら~」
舞妓たちが口ずさみながら、廊下などの雑巾がけをしていた。
「こういう~具合にしやしゃんせ~」
静香が続けると、舞妓たちも調子に乗った。
「アウト!」と舞妓たち。
「セーフ!」と静香。
そこでいきなり楠木が、「こらっ!!」と言うと、舞妓たちが、「きゃあ!」と、驚いて逃げて行った。
静香がすまして雑巾がけを続けていると、皆伐が別な部屋から呼んだ。
「おかみ!早く来いじゃけ!」
「へぇ」と、静香は雑巾を台所の片隅に置いてから、部屋に入った。
南座でのいっけんが、尾を引いていた。




