第33話 奇襲
俺は玄関へ走って行って、叫んだ。
「セラム! 心配したんだぞ!」
「心配?」
夜遅くに帰ってきたラムは頭にハテナを浮かべて答える。
「兄ちゃんのお使いで行ったのに。ヘンなの」
そうだった。
俺の言い方がよくなかったんだったよな。
「悪かった。使者の人と一緒にベネ領へ行ってくれたんだよな?」
「えーと……うん。使者の人と一緒に、だね」
やっぱりヨルセンの言う通りかあ。
今度からセラムのことはヨルセンに相談した方がよさそうだな。
「それより、ちゃんとわからせて来たからね。兄ちゃんがすごく怒ってるってこと……」
「ああ。ご苦労だったな」
そう言えば。
書状はずいぶん強い口調で綴ったのだった。
今はアレを書いた時と状況は違っているけれど……
これは結果的に悪くないかもしれん。
「決めた。ベネ領を攻める」
「アルト!」
「「兄ちゃん!」」
おふくろと弟たちがバンザイする。
「でも兄ちゃん。ボクらがベネ領を攻めるとなると、ライオネがベネ側の救済を口実に敵軍に加わるんじゃないかな」
「ヨルセン。やっぱりお前は頭が回るな」
次男のヨルセンには戦闘の才はそこそこだが、頭脳に光るものがある。
「だからスピードが大事だ。セラムが持って行ってくれた書状を『宣戦布告』とする。後付けだから微妙な書き方だったけど……とにかく無理やりにでも奇襲して、ライオネの援軍が来る前にベネ領を降伏させるんだ。幸いライオネはこのことをまだ知らないからな」
そこで待たせてあったライオネの使者と目が合う。
「ふんじばれ!」
「あ……ひいいっ」
俺が命じると、弟二人が使者を縄で縛りあげにかかった。
「……セラム、ちょっかいかけたらダメだぞ」
「えー? そーなのー?」
ヨルセンとセラムがなんかヒソヒソ言ってる。
このふたりには俺には入れない世界があるんだよなあ。
「ちょっと! どうしたの!?」
「すごい音がしたよー?」
こうしてガタゴトとやっているとリリアとノンナが何事かとやって来た。
緊縛された使者を見てまたキャーっと悲鳴を上げる。
「お前たち、ちょうどよかった。これから戦だから」
「戦!?」
「これからって、いつから?」
「これからはこれからだよ」
俺は革細工師に作らせたプロテクターを装備しながら嫁たちに答えた。
「今夜、今すぐだ」
◇
夜の領地に篝火が灯った。
悪ガキ軍団29名。
攻撃魔法部隊5名。
回復魔法部隊10名
ほぼベストメンバーだが、リッキーが王都の偵察へ行って不在なのが少し痛い。
嫁の中では、ナディアだけはついて来てもらおうと思う。
彼女は名の知られた武人であるから、いるだけで脅しになる。
できれば、敵にはさっさと降伏してもらいたいからな。
それからリリアは弓が、ノンナは回復魔法が使えたが、使者の見張りと領地の守りのために残しておいた。
本当はセラムも残して行こうと思ったんだけど……
「兄さん、セラムも連れていった方がいい」
とヨルセンが言う。
まあ、確かにあまり過保護なのもよくないよな。
セラムも初めての戦場では怖くて何もできないだろうけど、いい経験になるだろう。
……さて。
ダダリには川が一本流れているが、これに沿って南へ進んでいくとベネ領である。
闇の中、軍は進む。
「よし、あれがベネ領主の屋敷だ。いくぞ!」
おおー……!
鬨をあげて駆け出す味方。
派手に夜襲をかけて敵の心胆を寒からしめ、一気に降伏させる。
そういう作戦で全員で正門へ詰めかけるが……
ワー、ワー……!
その時、屋敷の庭に待機していたらしい敵兵が門よりどっと出てくる。
この人数……
夜襲が読まれてたのか?
庭だけでなくあたりの茂みにも待機していたようで、敵は全部で600~700はいそうだ。
「いけない、囲まれてるよ!」
ヨルセンが叫ぶ。
そもそもベネ領は北のガゼット領よりも豊かな領地で、兵も訓練されている。
ひとりひとりが銅の剣や革の盾で武装しており、数頼みではない上に数でも相手が倍以上いる。
「兄さん、ここは危ない。いったん撤退しよう!」
しかし、それでもモタモタしてライオネに参戦されるよりはずっとマシだ。
「あわてるなヨルセン。問題ない」
そう答えた時。
うちの魔法部隊が一斉に火炎魔法を放った。
ゴー! ゴー!……
「魔法だとおお!? ぎゃあああ!」
「バカな! ダダリのくせに……」
魔法の火力は前回よりも上がっている。
さらに……
「カイザー・ガスト!」
俺の風魔法で、燃え盛る火炎を広げる。
火は敵の旗に移り、鎧に移り、牛馬の毛に移った。
「今だ! 突撃ー!!」
敵が魔法に怯んだのを見て、鉄の剣と槍を持った悪ガキ軍団が駆けだす。
敵もまだまだ数が残っているのを頼ってかこれに応戦した。
立ち上る炎の中、激しい斬り合いが展開される。
「うわあ! 剣が折れた!」
「ヤバい、俺もだ!」
だが、しばらくすると敵の剣が折れ始めた。
当然だ。
敵は銅の剣、こちらは鉄の剣である。
そもそも銅というのは硬いが曲がりにくいものだ。
対して、鉄というのは硬いし曲がりやすい。
その上で、鉄の剣と銅の剣が戦ったらどうなるか?
硬くて曲がりにくい銅の剣はポキンポキンと折れてしまうのである。
戦と内政は車の両輪。
これまで鉄の武器を重点的に生産してきたおかげで、戦況はやがて有利に傾いていく。
「……ナディア」
「うむ」
そこで全身鎧の女騎士が馬で駆けて行った。
「なッ!? あれはナディア様」
「ダダリの領主に嫁入りしたってウワサは本当だったのか……!?」
敵兵は劣勢な上にナディアの姿を見て、戦意を喪失していく。
数の上ではまだまだ敵の方が圧倒的だが、これでは戦いにならないだろう。
「兄さん、このまま攻め落とせそうだね!」
ヨルセンがそう喜びの声を上げる。
が、しかし……
話はそう簡単ではない。
というのも、ベネ領には精鋭部隊というのがいるはずだからだ。
そいつらは常に領主の屋敷に詰めており、実力、装備ともに充実しているという。
数こそ10人ほどと聞くが、この精鋭部隊を倒さぬ限り敵は降伏しないだろう。
「おーい! 出てこーい!」
セラムがぴょんぴょん跳ねて、屋敷の方へ呼びかける。
可愛いけど、そんな前に行ったら危ないぞ(汗)
「あ、兄さん! 見て!」
「あ?」
だがその時だ。
ヨルセンが屋敷の方を指さしているので見上げてみる。
するとそこには、屋根の上の夜闇に『白旗』が燦然とはためいていたのだった。




