第3話 止まらない着信音
臣民党の三沢深雪幹事長は野川代表との密談を終えた。
深雪は無言で指定された次の場所に向かった。
紺色の地味なリクルートスーツの女は、携帯電話を左耳に当てながら密談の内容を電話相手に愚痴った。
「先生、私はこの合併案は罠と思います。でも、野川さんは譲らないのです」
「そうだね。そんなに単純なことじゃないね」
「日進派のようなカルトが約束を履行する筈がないじゃ無いですか」
尾上進一郎は、三沢を宥め電話を置いて深いため息を吐く。
三沢の言う通りの罠なら、連立離脱は艤装の可能性がある。
おそらく自戒党が自作自演してメディアを煽り潰しに掛かるだろう。
小川の脳裏には落選後の青写真が浮かんで呟く。
「議員年金で隠居も悪くない」
尾上の運転手が小川に尋ねた。
「先生、それ本当ですか」
「いや、老人の独り言だよ。慌てないようにね」
「失礼しました」
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三沢深雪を乗せた赤い車が、湾岸の倉庫街のレストラン前の暗い駐車場に停車した。
湾に停泊しているヨットの帆が月明かりに照らされて光っている。
時より浦風でレストランの赤い旗がハタハタとざわめいている。
雨上がりの駐車場には三沢の車以外にも公用車が数台見えた。
乱暴に進入して来た白い車が大きなブレーキ音を軋ませ、三沢の車の横に着き静寂が戻った。
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黒いサングラスに白いスカートスーツのピクシーカットの女は、赤い帽子を深く被り夜空を仰いだ。
鈍い光沢のネイビーカラーの車からヤクザ風の顔立ちの要人警護が足早に数人降りた。
セキュリティサービスの男が女の前後左右を素早く囲み鉄板入りの鞄を構えている。
女は雨上がりのアスファルトの水溜りを気にしながら、赤いハイヒールの先を水溜りの中に入れた。
黒い液体が水溜りに広がった。
レストランのスモークガラス窓から漏れるライトが車に映り反射した。
会員制レストランのVIP専用口に、初老の総支配人と筆頭執事が寒空の下に立っていた。
グレー色のスーツの執事は腰を低くしながら、警護のSPと女の間に入り、店の奥へサングラスの女を案内した。
薄明かりのレストランの廊下の裸婦の絵画がライトに浮かび不気味に見える。
セキュリティサービスは、店の出口に残り、女性警備数人が個室の入り口に佇む。
高石百合の携帯電話がブルブルとレストランの個室で踊った。
「はい、高石ですが」
「先生、すべて予定通り順調でございます」
「広告、小道具もね」
「すべて手配済みでございます」
「気象情報が分かり次第、始めるわよ」
「はい、敵側は二重トラップに気付いていません」
「では、後始末をよろしくお願いしますね。お気に入りの靴が汚れてしまったわ」
「はい、お任せください」
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翌日の新聞に臣民党の三沢深雪の食中毒死の記事が小さく報道された。
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派手なシルバーグレースーツの大柄な門田警部補が、三沢事件の報告書を移動中の覆面パトカーの中で、丸山警部に渡して呟く。
「警部、これまたーー トリカブトですよ」
「また、やられたな、これで何人目かな門田」
「多分、3人目かと」
「みんな現役議員ばかりだな」
「ええ、しかも女性議員ばかりが短期間でーー 」
門田は言葉を切り、次のハンバーガーを頬張って咽せた。
「お前な、その食いしん坊の癖なんとかならんのか」
「ええ、まあーー 1日5食で間食もありますし」
丸山警部は呆れた表情を隠しながら事件の続きを門田に促した。
「で、短期間で、どうなった」
「それが不思議なんです」
「不思議ってなんだ。門田、幽霊でも出たか」
「食中毒なのに飲食されていないんです」
「なるほど・・・・・・ 」
丸山は緊急連絡を捜査本部に入れた。
そして、黙り込む。
「門田、捜査本部が閉鎖された」
「警部、それは変ですよ」
「多分、政治絡みの不都合だよ」
「数年前の事件でも同じことがあったな」
「ええ、あれは裏で利権の噂が絶えない事件でした」
「俺たちも、深く首を突っ込むと、大火傷になるぞ」
門田は2個目のハンバーガーを頬張りながら言った。
「警部、大丈夫です。石橋は叩いて渡らない主義なので」
「はあーー 」
「叩いて壊れたら落ちてしまうじゃないですか」
「お前な、まるで繋がってないけど」
門田は丸山にウインクして微笑んだ。
「警部、青信号です」
運転席に丸山警部、助手席には門田警部補が座っている。
丸山はA級ラインセンスを所持するレベルのドライバーで運転が趣味だった。
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三沢深雪事件のあとの解散総選挙の投開票は大雪の中で実施された。
臣民党は歴史的な敗北となり自戒党が大きく躍進した。
不正疑惑の噂が止まない選挙は噂だけを残した。
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小石川麗子はブサメン秘書の運転する車で国会に向かっていた。
「小森、このあと、私はどうなるのかしら」
「先生、明日のスクープは既に決まってます。この選挙と同じですから」
「小森は本当に悪い男ね」
「先生ほどじゃありません」
「小森、国会の国旗が半旗になっているわ・・・・・・ 」
東都から見える白銀の大江戸山脈に夕日が当たっている。
雪面に血溜まりのような陰影が浮かび上がっていた。
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三日月未来




