第2話 仕掛けられた奇襲解散選挙
この政治小説は、あくまでもフィクションです。
小石川麗子は前東都知事選挙に敗退した。
引退の2文字が報道に並んだのも束の間、落選知事に光が当たることはなかった。
無名政党から無名政治家が誕生する世の中、アナログ料亭政治は終焉を迎えた。
料亭の閉店のハガキが届くのも珍しくない。
安物スーツに身を包んだブサメン秘書に、小石川麗子は知事時代から重宝していた。
3期12年に及ぶ知事時代に小石川は資産を増やし続けた。
長期に及ぶ円安ドル高株価高の中で資産が急増した。
外貨預金は売買タイミングを間違え無ければ失敗は皆無だ。
1ドル80円で購入して160円で売れば80円の差益が生まれる。
インサイダーに手を汚す政治屋も珍しくない。
不思議なほどレートチェックはスルーされ相場が暴走する。
円安株高の法則は外人株を引き寄せ株価は鰻上りに跳ね上がり新聞が更新の大見出しで投資家の背中を押した。
輸入企業が大赤字の中、冷酷無残な既得権益政治屋が輸出企業に黒字をプレゼントした。
輸入企業は悲鳴をあげ政治屋は美酒に酔い知れる。
自戒党に復帰した小石川は参議院選挙で国会議員に復活を果たした。
小石川麗子が知事選挙落選のあとで漏らした次の台本は小石川の中で眠っている。
小石川が狙っているのは国の首相だった。
参議院議員では首相になれないことを知っている小石川麗子は秘書の小森を見て微笑んだ。
「小石川先生、自戒党の総裁選挙ですがーー 」
「小森、立候補するわよ。でもそれは次への布石ーー 簡単じゃないことくらい分かっているから」
「はい、小石川先生の悪運の強さは小森が一番承知しています」
「小森、私のは良運なのよ。知らないの」
「はい、口がつい」
「この口が悪いのね。じゃあ小森が大好きなコニャックあげるわね」
下戸の小森は小石川が差し出したバカラのシャンパングラスから鼻を遠ざけた。
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自戒党の総裁選挙が終え、高石百合が総裁に選ばれ、小石川も組閣に参加した。
「小森、台本が始まるわよ」
小森は小石川の耳元で囁くように伝えた。
「先生、衆議院がまもなく解散されます。時期は、おそらく3か月以内かと」
「小森、それじゃあ年度予算どうするのよ」
「あの人はアイドル気取りの総理です。すべて1人で決める性格で味方は1人もいません」
「じゃあ、今頃は」
「おそらくですがーー 大手広告会社でコマーシャルバナーを大量に作成じゃないでしょうか」
「なんでそうなるの。おそらく政権の延命じゃないでしょうか」
「でも小森ーー 知事選挙みたいに投票率が上がったらどうするのよ」
「先生、その場合の決め手が短期決戦と低投票率です」
「どうやって」
「厳冬期の悪天候です」
「でも悪天候なんか分からないわよ」
「ヨーロッパの気象予報システムは14日くらいなら予測可能です。そこに政府の科学チームとメディア担当が加われば可能じゃないでしょうか」
「小森、仮にその解散選挙で衆議院議員になったとして、勝利しても首相にはなれないわ」
「なので、先生は総裁選挙に立候補したじゃないですか」
「小森、どうやって繋がるのよ」
「先生、臨時国会って召集されたら、何がありますか」
「首相を決めるのはーー ええと」
「首相指名選挙ですよ」
小森は、小石川前知事に不正選挙のカラクリを伝えるように饒舌になった。
悪天候、低投票率、3か月で準備された見えない投票箱、すり替え破棄、期日前投票の闇、消える投票用紙。
「でもね、高石百合が勝たせた選挙になった場合、私の出番など無いわよ」
「先生、それがヤバイのですよ。人気は必ず落ちます」
「なるほど、それで、私の出番はどこにあるのよ」
「はい、首相指名選挙で自戒党から造反を仕掛けます」
「小森は、私に造反させるつもりなの」
「先生、自戒党の重鎮が奇襲解散後、高石百合は信用できないと結論したので心配ありません」
「それ、信用できる情報なのーー でもね、なんで私なの」
「先生は前東都知事じゃないですか」
「それだけじゃ」
小石川はバカラのシャンパングラスを持ちながら小森から携帯電話を渡された。
「はい、小石川麗子です。先生、私でよろしいのですか? 」
「江戸の仇を長崎が討つようなものなので心配無用ーー 」
小石川は携帯を小森に帰し、グラスにドンペリを注いだ。
シャンパンがグラスから溢れてクリスタルテーブルに流れて赤いカーペットに染みが広がる。
満月の月光が薄明かりの室内を照らした。
シルクのローブが妖艶な女の背中を滑り落ち、ブサメン秘書小森が慌てて拾い上げ小石川の肩にそっと掛けた。
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三日月未来




