"真夜中"
屋敷の広間の床は大理石だが、いまだけは紅い
「なんでだよ」
尖った石片を持った色白の、一糸纏わぬ少年が
同じような歳頃で同じ姿をした、活発そうな少年を殴打しながら泣いて居る
「抵抗しろよ」
石による殴打は繰り返されるが、殴られる側の少年は手で頭を庇いこそしても、絶対に反撃はしない
もしかすれば、彼はこのまま殺される自分の姿を求めて居るのかも知れなかった
「頼む、なあ」
「お願いだ………」
先に心が折れたのは、殴って居た側の少年だった
血がべっとりと付いた石片を取り落とすと、彼はその場に崩折れ、声を上げて泣き始める
僕は苛立ちながら、少年たちに「殺し合わないなら」「二人とも殺すけれど」と告げる
二人が、弾かれたように僕を視た
歩き寄ると血で紅くなった石を拾い上げ、舌を這わせる
幼い血の粘つくような甘さの中に、絶望の仄かな苦味が味わい深かった
「ちゃんとやらないから、武器は没収」
僕がそう言うと、我慢の限界だったのか、活発そうな方の人間の子供が大声で悪態を吐きながら、僕に殴り掛かってきた
彼の拳が僕に触れるかに思えた刹那、むしろ僕の拳が少年の鼻を打ち、軟骨の割れる音が耳に、感触が打ち付けた指の付け根に伝わってきた
少年は自分の付けた助走の勢いのままに、僕に打擲された事になる
生きているか心配だったが、倒れたあとも彼は断続的に「あっ…あっ……」と声を発し続けた
そうしている間にも彼の顔から、びゅくびゅくと鮮血が床に破棄され続けて居る
損失だ
苛立ちのままに僕が彼を踏み殺そうとすると、もう一人の人間の子供が、踏む為に上げた足にしがみついた
「彼は」
「僕に………っ」
「僕に、殺させて下さい」
涙でぐしゃぐしゃになった声で、それでも少年が出した提案は双方の実利を備えたものだった
僕は提案を受け入れ、腕組みして彼を視守った
引き攣りながら血を床に捨てるだけの肉になった『死にかけ』に、少年が泣きながら馬乗りになる
殺す側の流す涙が、殺される側の胸の上で血液と合流する
その一雫はまたとない美味に違いなかったが、それでも僕は、この瞬間そのものの与える陶酔の方にこそ酔い痴れて居た
少年が親友の首に両手を掛けて、弱々しく圧迫を行う
───全然だ
全く力が足りて居ない
僕が彼を罰そうかと考え始めた頃、少年はぼろぼろと泣きながら叫び声を上げた
既に生死も解らない状態になって居た彼の親友が、死に瀕した事による反射から、首を絞める両手を潰しそうな程に掴む
しかし、直ぐに躰重を掛けた圧迫が始まった
最初の圧迫で既に生命は奪われて居たようだったが、恐慌を起こした少年はそれに気付かない
金切るような叫び声が、終わりなく繰り返されるように続き
しかし終わりは訪れて
ぼぐん、という音と共に、手の中で喉の構造が砕けると、少年は呆けた表情で、眼を視開いたまま動かなくなった
程無くして、少年の頭上には血で出来た光輪が形成され始める
彼が『僕と同じもの』になった証だった
「これで君も」
「苦悶だけを食べて生きる、けだものになったね」
少年を抱き締め、頬擦りする
彼はもう"友"だ
僕は上着を脱ぐと、彼に羽織らせる
「ハッピーバースデー」
わざと音を立てて、僕は少年の唇を吸った




