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才能なしと切り捨てられた俺は、選択ミスを避けるだけで最前線に立たされている ~戦えない冒険者の、生き残り判断録~  作者: 蒼月アルト


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第9話 それでも、意味はあった

 翌日。


 俺は、朝の雑務を終えた後、

 倉庫の裏で呼び止められた。


「……あんたか」


 声をかけてきたのは、

 見覚えのある男だった。


 交易路の襲撃で、

 怪我をした隊商の一人。


 腕に包帯を巻いている。


「具合は……」


「悪くない」

 男は、短く言った。

「生きてる」


 それだけで、

 胸の奥が、少しだけ緩んだ。


 だが。


「恨み言を言いに来たわけじゃない」


 そう前置きして、男は続ける。


「話を聞いた」

「あんたらが、別の道を選んだってな」


 言葉が、詰まる。


 何を、どう答えればいいか分からない。


「……結果的に」

 俺は、絞り出すように言った。

「守れませんでした」


 男は、一瞬だけ目を伏せ――

 首を振った。


「違う」


 即答だった。


「俺たちはな」

「“囮”にされてた」


 その言葉に、

 背筋が冷える。


「最初から、狙われてた」

「道を変えなくても、結果は同じだった」


 確信に近い口調。


「ただな」

 男は、視線を上げる。

「あんたらが村側にいたおかげで」

「援助が、早かった」


 胸が、静かに締まる。


「もし、あんたらが正面にいたら」

「こっちは、完全に切り捨てられてた」


 そういうことか。


 俺が、切ったと思っていた未来は、

 最初から――

 用意されていた。


「……それでも」

 男は、言葉を選ぶ。

「全部が、あんたの判断のおかげじゃない」

「でも、意味はあった」


 その言葉は、

 慰めでも、評価でもない。


 事実の確認だった。


「だから」

 男は、最後に言った。

「背負いすぎるな」

「背負うなら、次だ」


 それだけ言って、

 彼は去っていった。


 しばらく、俺は動けなかった。


 頭の中で、

 何かが、ゆっくりと組み替わっていく。


(……全部は、救えない)


 分かっていたはずだ。


 だが、

 理解したのは、今だ。


 俺の力は、

 未来を選ぶ力じゃない。


 被害を、分配する力だ。


 その現実が、

 重く、冷たく、胸に残った。


 ギルドに戻ると、

 リナが待っていた。


 珍しく、記録帳を閉じている。


「……話、聞いた」


「どこから」


「本人から」

 彼女は、静かに言う。

「感謝してた」


「……そうか」


 それ以上、言葉は続かなかった。


 だが、

 彼女は一つだけ、付け加えた。


「ねえ、アレン」

「あなたの判断」

「結果は、残ってる」


 記録帳を、軽く叩く。


「消えてない」

「むしろ……不自然なくらい、綺麗に」


 胸が、ざわつく。


「どういう意味だ?」


「まだ、言えない」

 リナは、首を振る。

「でも」

「“選ばなかった道”の痕跡が」

「薄すぎる」


 それは、

 今まで誰も言わなかった視点だ。


 俺は、何も答えられなかった。


 夕方。


 カイルが、剣の手入れをしながら言った。


「次は」

「逃げない」


 短い言葉。


 だが、強い。


「……ああ」


 俺も、頷いた。


 逃げない、というのは、

 戦う、という意味じゃない。


 向き合うという意味だ。


 その夜。


 俺は、久しぶりに、

 はっきりとした“分岐”を見た。


 右に行けば、

 誰かが傷つく。


 左に行けば、

 別の誰かが傷つく。


 どちらも、避けられない。


 だが――


(……配分は、変えられる)


 初めて、

 そんな感覚があった。


 それが、

 成長なのか。


 それとも――

 更なる地獄への入り口なのか。


 まだ、分からない。


 だが。


 迷いながらでも、

 俺は、選ぶ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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