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才能なしと切り捨てられた俺は、選択ミスを避けるだけで最前線に立たされている ~戦えない冒険者の、生き残り判断録~  作者: 蒼月アルト


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第8話 正解だったはずの道

 交易路の空は、やけに澄んでいた。


 雲一つない青空。

 風も穏やかで、視界もいい。


「……嫌なほど、何もないな」


 カイルが、周囲を見回しながら言った。


 その感覚は、俺も同じだった。


 危険を示す兆しはない。

 魔獣の気配も、人の影も感じない。


 だが――


(選択肢が、整いすぎてる)


 胸の奥に、微かな違和感が残っていた。


 街道は、三つに分かれている。


正規の交易路


旧道


村に近い迂回路


 どれも通れる。

 どれも、致命的な危険は感じない。


 だが、逆に言えば――

 どれも、選ばせるために用意されているようにも見えた。


「……正面は、やめよう」


 俺は、そう言った。


 カイルが、理由を聞く前に、続ける。


「見通しが良すぎる」

「隠れる場所が、少ない」


「罠張るなら、逆だろ?」


「だからこそ、だ」

「分かりやすすぎる」


 リナが、地図を見ながら頷いた。


「村側の迂回路は?」

「人目もあるし、異変があればすぐ分かる」


 それは、合理的な判断だった。


 守るべきものがある場所。

 助けを呼べる距離。


「……行こう」


 俺は、村側の道を選んだ。


 その瞬間、

 胸のざわつきが、少しだけ弱まった。


(大丈夫だ)


 そう、思った。


 村に近い道は、静かだった。


 遠くで、子どもの声が聞こえる。

 畑仕事をする人影も見える。


 緊張は、少しずつ解けていった。


 そのとき。


 背後から、

 鈍い音が響いた。


 金属が、ぶつかるような音。


「……?」


 振り返る。


 だが、見えるのは、俺たちが来た道だけ。


 何も、ない。


「今の……」


 リナが、言いかけて口を閉じる。


 嫌な予感が、胸を突いた。


 だが。


(今、戻る理由はない)


 選択肢は、既に選んだ。


 俺たちは、依頼を続行した。


 異変が起きたと知ったのは、

 それから、しばらく経ってからだった。


 村の入り口で、

 血相を変えた男が駆け込んできた。


「た、大変だ!」

「別の隊商が……旧道で……!」


 胸が、冷たくなる。


 旧道。


 俺たちが――

 選ばなかった道。


「襲われたんだ!」

「魔獣か、人か……分からない!」


 俺は、言葉を失った。


 カイルが、即座に動く。


「案内しろ!」


 だが、間に合わなかった。


 現場に着いた時には、

 戦いは終わっていた。


 倒れている荷車。

 散乱した荷。


 人は、生きている。

 だが、何人かは血を流し、動けない。


「……くそ」


 カイルが、歯を食いしばる。


「戦っていれば……!」


 言葉が、続かなかった。


 俺は、立ち尽くしていた。


 視界が、歪む。


 だが、いつもの“分岐”は見えない。


 もう、遅い。


 ここには、

 選択肢が存在しない。


 残っているのは、結果だけだ。


「……アレン」


 リナが、静かに呼ぶ。


 彼女は、地面を見ていた。


 襲撃された位置。

 時間。

 道の分岐。


 それらが、

 頭の中で、一本の線になる。


 俺が、正面を避けたことで。

 俺たちが、村側を選んだことで。


 ――旧道は、空いた。


 守られなかった。


(……俺が、切った)


 誰かを助けるために、

 誰かを切った。


 その自覚が、

 胃の奥を締め付ける。


「……死者は?」


「いない」

 村人が、答えた。

「だが、重傷者がいる」

「荷も、半分以上持っていかれた」


 最悪では、ない。


 だが。


 無傷でも、ない。


 ギルドに戻ると、

 報告は淡々と処理された。


「判断は、合理的だ」


 教官は、そう言った。


 責める口調ではない。


「正面ルートを選んでいれば」

「こちらが襲われていた可能性もある」


 正論だ。


 誰も、俺を責めない。


 それが、余計に苦しかった。


「……だが」


 教官は、続ける。


「全体を守る判断ではなかった」


 胸に、突き刺さる。


「お前は」

「“最悪を避ける”ことはできる」

「だが、“最悪を誰が引き受けるか”までは」

「まだ、見えていない」


 何も、言い返せなかった。


 夜。


 宿舎で、俺は一人、天井を見ていた。


 今日の判断は、間違いだったのか。


 違う。


 正解だったはずだ。


 それでも。


 救えなかったものが、ある。


(……これが、俺の力か)


 見えるのは、

 選ばなかった未来。


 だが、

 その先にいる誰かまでは、見えない。


 リナの記録帳に、

 ペンが走る音がした。


 何を書いているのか、俺は聞かなかった。


 聞くのが、怖かった。


 成長率は、ゼロ。


 それでも、

 俺は選ぶしかない。


 次は――

 誰を切るかまで、考えなければならない。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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