第16話 判断が、裏目に出る
異変は、同時に起きた。
一つは、北の街道。
一つは、南の集落。
距離は遠く、
移動して両方を見ることは不可能。
それでも――
どちらも、見捨てられない。
「……同時?」
リナが、地図を見つめたまま呟く。
「偶然じゃないな」
カイルが、歯を噛みしめる。
分かっている。
これは――
選ばせる配置だ。
胸の奥で、
嫌な感覚がはっきり形を取る。
今まで感じてきた“削られる感じ”。
あれが、初めて明確な刃になった。
(……仕組まれてる)
だが。
それでも、選ばなければならない。
北の街道は、交易の要所だ。
荷を失えば、
複数の町が干上がる。
南の集落は、小さい。
だが、避難が間に合わない。
数字で見れば、北。
感情で見れば、南。
選択肢は、二つ。
そして――
時間は、ない。
「アレン」
カイルが、俺を見る。
「どっちだ」
視線が集まる。
ここで迷えば、
両方が壊れる。
俺は、息を吸った。
(……今までなら)
最悪を避ける。
被害を一点に集める。
それなら――
「北へ行く」
言葉にした瞬間、
胸が、わずかに軽くなった。
数字は、正しい。
合理的だ。
「南は?」
リナが、静かに問う。
「……間に合わない」
それが、
判断だった。
北の街道は、
既に戦場になっていた。
魔獣。
武装した人影。
「来るのが早い!」
カイルが叫ぶ。
俺たちは、全力で介入した。
判断は、冴えていた。
誘導。
撤退路。
被害の集中。
最悪は、避けられた。
死者は、出ていない。
だが――
胸のざわつきが、消えない。
軽すぎる。
北で、
“削られた”感覚がない。
(……南だ)
気づいた瞬間、
血の気が引いた。
急いで南へ向かった。
だが、
遅かった。
集落は、半壊していた。
火の跡。
倒れた家屋。
泣き声。
死人はいない。
だが――
怪我人が、多すぎる。
「……っ」
膝が、震える。
今まで、避けてきた光景だ。
広範囲に散った被害。
被害の集中は、起きていない。
つまり――
俺の判断が、歪みを集めなかった。
「なんで……」
リナの声が、震える。
「あなた、北を選んだのに」
答えは、出ていた。
敵は、
選択を読んでいた。
俺が北を選ぶことを、
前提に配置していた。
だから、
北では“最悪が起きない”。
その分、
南に――
歪みが流れた。
「……俺のせいだ」
言葉が、漏れる。
判断は、間違っていない。
理屈も、通っている。
それでも。
結果は、最悪に近い。
「アレン」
カイルが、俺の肩を掴む。
「お前のせいじゃない」
「こんなの……」
言葉が、続かない。
正論が、通じない。
俺は、立ち尽くした。
分岐は、見えない。
視界は、真っ暗だ。
(……読まれた)
俺の判断は、
利用された。
夜。
南の集落で、
簡易の治療が続く。
俺は、何もできずに座っていた。
選ばなかった未来が、
目の前にある。
それを、
俺が作った。
「……記録」
リナが、かすれた声で言う。
「今回は」
「“空白”がない」
胸が、締め付けられる。
「被害が、全部残ってる」
「集められてない」
それが、
何を意味するか。
分かっていた。
俺は、外された。
歪みを操作する流れから。
判断役として、
“使われなかった”。
だから――
世界は、そのまま壊れた。
夜空を見上げる。
星が、滲んで見えた。
(……次は)
次が、あるのか。
選ぶ資格が、
まだ残っているのか。
胸の奥で、
何かが、静かに崩れた。
それでも。
判断を、やめられない。
やめた瞬間、
全てが、もっと酷くなる。
それだけは、
まだ、見えている。
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