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才能なしと切り捨てられた俺は、選択ミスを避けるだけで最前線に立たされている ~戦えない冒険者の、生き残り判断録~  作者: 蒼月アルト


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第15話 観測は、終わった

 地下に広がる空間は、静まり返っていた。


 灯りは最小限。

 壁に刻まれた紋様が、淡く脈打っている。


「……これで、十分だな」


 フードを被った男が、低く言った。


 円卓の中央には、水晶板。

 映し出されているのは――

 いくつもの地図と、赤い点。


「壊滅、ゼロ」

「死者、ゼロ」


 別の声が、淡々と読み上げる。


「被害は、常に一点集中」

「しかも、事後修復が異常に早い」


 指が、水晶板をなぞる。


 赤点の周囲には、

 “空白”がある。


 本来なら、被害が連鎖してもおかしくない場所。

 だが、何も起きていない。


「……未来を見ているわけではない」


 最初の男が言う。


「だが」

 別の者が続ける。

「最悪に至る経路だけが、消えている」


 誰かが、低く笑った。


「消えている、か」

「正確じゃない」


 水晶板が、切り替わる。


 そこに映ったのは、

 被害が“起きなかった”はずの場所の拡大図。


 歪み。

 微細な欠損。


 普通の人間には、見えないレベルの異常。


「押し込まれている」

 その声は、確信を帯びていた。

「世界の“端”に」


 沈黙が、落ちる。


「分類を上げる」


 円卓の主が、静かに言った。


「観測対象A-17」

「暫定危険資産から――」


 一拍。


「干渉型特異点へ」


 空気が、張り詰める。


「実験段階に入る、ということか」


「そうだ」

 主は、頷いた。

「このまま放置すれば」

「世界の“しわ”が、戻らなくなる」


 別の者が、指を立てる。


「排除は?」


「不可」

 即答だった。

「彼がいなくなった場合」

「蓄積された歪みが、反動として噴き出す」


 それは、

 最悪のシナリオ。


「……つまり」

 誰かが呟く。

「今は、生かして使うしかない」


 主は、水晶板を見下ろす。


「選択を、与える」

「彼が“どちらを切るか”を」

「こちらが、設計する」


 地図が、更新される。


 二つの赤点。

 同時刻。

 距離は、遠い。


「どちらも、見捨てられない条件だ」


 誰かが、息を呑む。


「判断すれば」

 主は、淡々と言う。

「歪みが、どちらに押し込まれるか分かる」


「判断しなければ?」


「……壊滅だ」


 それは、

 彼に選択を強いる配置だった。


「感情因子は?」


「強い」

 別の声が答える。

「仲間への執着」

「責任感」

「自己否定」


 水晶板に、

 一人の少年の姿が映る。


 無表情。

 だが、目は疲れている。


「壊れるか」


「壊れない」

 主は、静かに否定した。

「彼は、壊れる前に選ぶ」


 それが、

 ここまでの観測結果だった。


「……残酷だな」


「だが、必要だ」


 誰も、反論しなかった。


 円卓の中央に、

 最後の指示が刻まれる。


実験開始:段階一

条件:二択同時発生

目標:歪みの移動方向特定


 灯りが、落ちる。


 地下は、再び闇に沈んだ。


 その頃。


 地上の野営地で、

 俺は嫌な夢を見ていた。


 二つの道。

 どちらも、血に濡れている。


 どちらを選んでも、

 誰かが叫ぶ。


 目が覚める。


 冷たい汗。


(……来る)


 理由は、分からない。


 だが――

 次は、今までと違う。


 選択肢が、

 用意されている。


 誰かに。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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