第12話 判断役の、代わりはいない
次の依頼で、
俺の名前は外されていた。
掲示板の前で、
それを最初に見つけたのは、リナだった。
「……アレン」
言葉は、それだけ。
依頼書には、こう書かれている。
《街道警戒任務》
※判断役:ギルド指定冒険者(代行)
俺の代わりが、用意されていた。
教官に呼ばれたのは、その直後だった。
「不満か」
前置きもない。
「……いいえ」
嘘ではない。
不満よりも、
納得の方が先に来ていた。
「試す」
教官は、短く言う。
「お前を外した場合の、被害の出方をな」
胸が、静かに冷える。
試験対象は、
俺じゃない。
世界だ。
「俺は、何をすればいいですか」
「待て」
それだけだった。
任務の結果が届いたのは、翌日。
死者は、出なかった。
だが。
「……被害は?」
俺の問いに、
教官は一枚の報告書を差し出した。
魔獣二体、撃破
冒険者一名、重傷
街道施設、一部破壊
「代行判断は、間違っていない」
教官は、淡々と言う。
「だが、遅い」
判断が。
危険を察知するのが。
最悪を避けることはできた。
だが、
最小化はできなかった。
「……俺がいたら」
「結果は、変わっていただろうな」
即答だった。
だが。
「だからといって」
教官は、続ける。
「お前が正しい、とは言わん」
胸に、重く落ちる。
「お前の判断は、冷たい」
「だから、被害が小さい」
それは、褒め言葉じゃない。
「そして」
教官は、目を細める。
「それを好まない人間は、多い」
俺は、黙って頷いた。
分かっている。
その夜。
カイルが、俺の前に立った。
「……悪かった」
短い言葉。
だが、重い。
「今日の任務」
「俺が前に出た」
「それで……」
言葉を探している。
「俺は」
カイルは、拳を握る。
「止まれなかった」
戦えた。
だが、止められなかった。
「お前がいたら」
「止められてたと思う」
それは、
俺が一番聞きたくなかった言葉だ。
「……それでも」
俺は、静かに言う。
「俺がいたら」
「別の誰かが、傷ついてた」
カイルは、何も言わなかった。
否定できないからだ。
「……次は」
彼は、低く言う。
「戻ってこい」
命令でも、懇願でもない。
役割の要請だった。
リナは、火のそばで記録帳を開いていた。
そのページには、
赤線が何本も引かれている。
「……ねえ」
彼女は、視線を上げずに言った。
「あなたがいない現場ほど」
「被害が、分散してる」
胸が、ざわつく。
「一箇所に集中しない」
「だから、全体としては……苦しい」
それは、
数字で見た“現実”だった。
「あなたの判断は」
リナは、言葉を選ぶ。
「被害を、集めてる」
集めている。
最悪を、
一点に。
「……それって」
「分からない」
彼女は、首を振る。
「でも」
「自然じゃない」
その一言が、
今までで一番、重かった。
翌朝。
俺の名前は、
再び依頼書に戻っていた。
判断役。
外されたのは、
一度きりだった。
だが。
戻ってきた場所は、同じじゃない。
皆が、
少し距離を取っている。
必要とされている。
だが、好かれてはいない。
それが、
俺の立ち位置だ。
教官が、背後から言った。
「代わりはいない」
「だが、理解者もいない」
俺は、黙って頷いた。
「覚悟しろ」
教官は、続ける。
「お前は、これから」
「もっと嫌われる」
胸が、静かに締まる。
それでも。
選ぶしかない。
選ばなければ、
誰かが、もっと酷い目に遭う。
それを、
俺だけが知っている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




