第11話 正しいことを言うな
村を出てから、
パーティの空気は重かった。
誰も、口を開かない。
責める言葉も、慰めもない。
それが、逆に耐えがたかった。
「……なあ」
沈黙を破ったのは、カイルだった。
前を歩きながら、
振り返らずに言う。
「昨日の判断」
「俺は、納得してない」
分かっていた。
来ると、思っていた。
「村は守れた」
カイルは続ける。
「でも、仲間が怪我をした」
それは、事実だ。
「俺が前に出ていれば」
「もっと早く斬っていれば」
「被害は、抑えられたかもしれない」
正論だった。
俺は、反論できない。
「……だから」
俺は、慎重に言葉を選ぶ。
「戦えば、もっと被害が出る可能性も――」
「それだ」
カイルが、足を止めた。
振り返る。
その目は、怒っていない。
だが――冷たい。
「お前は、いつもそうだ」
「“可能性”で、人を動かす」
胸が、僅かに締まる。
「戦わなければ、怪我人が出ない」
「逃げなければ、全滅しない」
「そうやって、“最悪”だけを避ける」
何も、間違っていない。
だが。
「現場にいる俺たちは」
カイルは、低く言う。
「“最悪じゃない不幸”を」
「全部、引き受けさせられてる」
その言葉は、
剣よりも鋭かった。
リナが、口を開きかけ――
だが、閉じた。
今は、入るべきじゃない。
「……じゃあ、どうすればよかった」
俺は、絞り出すように言った。
カイルは、少しだけ黙り――
答える。
「分からない」
即答だった。
「分からないから」
「俺は、剣を振る」
それが、彼の答えだった。
「分からない未来を」
「全部、計算されるのは……嫌だ」
胸の奥で、
何かが、はっきりと割れた。
ああ。
俺は、
選択肢を示しているつもりで
覚悟を、他人に押し付けていた。
「……悪かった」
そう言うと、
カイルは少し驚いた顔をした。
「謝ってほしいわけじゃない」
「分かってる」
謝罪は、解決にならない。
「俺は」
俺は、続ける。
「戦えない」
「だから、考えるしかない」
それは、言い訳でもあった。
「でも」
視線を上げる。
「次は」
「お前が前に出るかどうかも」
「含めて、選ぶ」
カイルは、しばらく俺を見つめ――
短く息を吐いた。
「……それなら」
「まだ、組める」
完全な和解じゃない。
だが、
決裂でもない。
その夜。
野営の火の前で、
リナが静かに言った。
「二人とも」
「正しいこと、言ってる」
それが、一番残酷だった。
「でもね」
彼女は続ける。
「正しさがぶつかる時」
「どっちかが、悪者になる」
視線が、俺に向く。
「今は」
「あなたが、その役」
否定できない。
俺は、黙って火を見つめた。
炎が揺れる。
選ばなかった未来みたいに。
夜更け。
皆が眠った後、
俺は一人、目を閉じた。
視界が、歪む。
分岐が、見える。
だが。
今までより、
数が少ない。
(……削れてる)
選択肢が。
俺が、選び続けたことで。
それが、
能力の代償なのか。
それとも――
世界の、反応なのか。
まだ、分からない。
ただ一つ、確かなのは。
判断役は、好かれない。
それでも、
やめられない。
だって。
選ばなければ、
もっと酷いことになる。
それを、
俺だけは知っている。
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