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才能なしと切り捨てられた俺は、選択ミスを避けるだけで最前線に立たされている ~戦えない冒険者の、生き残り判断録~  作者: 蒼月アルト


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第1話 成長率ゼロと判定された俺は、選ぶしかなかった

この物語は、

「正しい選択」を描く話ではない。


正解を選んでも、誰かが傷つく。

間違えなければ、生き残れるとも限らない。


それでも、選ばなければならない世界で――

強くなれなかった一人の冒険者が、

判断だけを武器に、生き残ろうとする話だ。


派手な力も、万能な才能もない。

あるのは、

取り返しのつかない未来を避け続ける覚悟だけ。


少し重く、静かな物語ですが、

どうか最後まで付き合ってもらえたら嬉しいです。

 ――その水晶は、嘘をつかない。


 冒険者ギルド中央に設置された《適性水晶》は、そう言われている。


 触れた者の魔力量、成長率、潜在スキル。

 それらを数値と文字で明確に示し、未来を“才能”という形で突きつける代物だ。


 俺は、その水晶の前に立っていた。


「次。アレン・クロイス」


 ギルド教官の低い声に呼ばれ、前に出る。

 背中に、刺さるような視線を感じた。


 期待と、好奇心と、そして――

 ほんのわずかな、嘲笑。


 この村で生まれ育った人間なら、全員が知っている。

 今日の適性検査は、ただの通過儀礼じゃない。


 ここで結果を出せなければ、冒険者候補としての道はほぼ閉ざされる。


 それでも俺は、深く息を吸い、水晶に手を伸ばした。


 ひんやりとした感触。


 次の瞬間、水晶が淡く光る。


 ざわり、と空気が揺れた。


「……おっ、魔力量は、そこそこだな」

「スキルは……未覚醒か」


 教官の声に、周囲が少しざわつく。

 ここまでは、想定内だった。


 問題は、その次だ。


「――成長率……」


 教官が、目を細める。


 一拍。


 そして、はっきりと告げた。


「成長率:ゼロ」


 ――静まり返る。


 一瞬、意味が理解できなかった。


 ゼロ?


 成長率が、ゼロ?


「……は?」

「今、ゼロって言った?」

「冗談だろ……」


 周囲から、ひそひそと声が漏れ始める。


 教官は水晶をもう一度確認し、ため息をついた。


「間違いない。成長率ゼロだ」

「前例は……ほとんどないな」


 その言葉で、理解した。


 これは、やり直しのきく結果じゃない。


 魔力量が低い者はいる。

 スキルが未覚醒な者も珍しくない。


 だが――成長率ゼロ。


 努力しても、経験を積んでも、強くならない。

 レベルが上がらない。


 冒険者としては、致命的な欠陥だ。


「……終わりだな」

「可哀想に」

「最初から向いてなかったんだよ」


 誰かが、そう呟いた。


 俺は、笑われても反論できなかった。


 水晶は、嘘をつかない。


 ここでは、それが絶対だ。


「アレン・クロイス」

 教官が、事務的な声で言う。

「冒険者候補としての登録は――保留だ」

「当面は、雑務に回ってもらう」


 雑務。


 冒険者になれなかった者が回される、裏方仕事。

 荷運び、掃除、受付補助。


 戦うことも、成長することも許されない。


「……はい」


 それだけ答えるのが、精一杯だった。


 視線を上げると、同期たちが目に入る。


 俺より後に水晶に触れた連中は、次々と“才能”を示されていた。


「おお、剣術スキルだ!」

「成長率B!? すげえ……!」


 歓声。拍手。祝福。


 さっきまで隣にいたはずの連中が、

 一気に遠い存在になっていく。


 ――置いていかれる。


 そんな言葉が、胸の奥に沈んだ。


 俺は、その場を離れようとした。


 そのとき。


 不意に、胸がざわついた。


 理由は分からない。

 ただ、嫌な予感がした。


 この場にいるのが、ひどく間違っている気がした。


 次の瞬間――


「――っ!?」


 ギルドの外から、悲鳴が聞こえた。


 地鳴りのような振動。


 誰かが叫ぶ。


「モンスターだ! 街の外れに……!」


 ざわめきが、一気に恐怖へと変わる。


 教官が叫んだ。


「冒険者候補は待機! 正式冒険者のみ出動――」


 だが、混乱は止まらない。


 才能あるはずの同期たちが、顔を青くして固まっている。


 その中で。


 俺の胸のざわつきが、強くなっていった。


 ――嫌な予感が、確信に変わる。


(……このままじゃ、まずい)


 理由は、分からない。


 それでも俺は、

 この場に残るべきじゃないと、強く思った。


 選択を迫られている。


 そんな感覚だけが、はっきりとあった。


 悲鳴と足音が、ギルド内に流れ込んできた。


「外れ地区だ! 木柵を壊して――」

「待て、まだ正式冒険者が――」


 教官の声は、混乱にかき消される。


 冒険者候補たちは、その場で固まっていた。

 さっきまで“才能”を祝われていた連中が、今は誰一人、動けずにいる。


 ――違う。


 胸の奥が、強くざわつく。


 このままじゃ、駄目だ。


「アレン! お前、どこ行く!」


 誰かの声が背中に飛んできた。


 俺は振り返らなかった。


 教官の制止も、規則も、頭から消えていた。

 ただ、足が勝手に動いていた。


 ギルドの外に出ると、土埃と悲鳴が入り混じっていた。


 街の外れ。

 簡易的な木柵の向こうで、黒い影が蠢いている。


「ゴブリン……!? いや、数が多すぎる……!」


 正式冒険者たちが応戦しているが、連携が取れていない。

 新人のパーティーが混じっているのが、すぐに分かった。


 その瞬間。


 視界が、僅かに歪んだ。


 ――一瞬だけ。


 正面で剣を振る冒険者。

 次の瞬間、足を取られ、転ぶ映像が重なって見えた。


(……転ぶ)


 思考より早く、体が動いた。


「右! 足元、来る!」


 叫ぶと同時に、冒険者が体勢を崩す。

 だがそのおかげで、致命傷は避けられた。


「な、なんだ……?」

「今の、偶然か……?」


 俺自身が、一番混乱していた。


 次だ。


 視界の端で、別の“ズレ”が走る。


 逃げ遅れた住民。

 背後から迫る影。


 ――このままじゃ、間に合わない。


(……行くしかない)


 正面突破は、無理だ。

 距離も、時間も足りない。


 だから俺は、走る方向を変えた。


 崩れかけた木柵。

 その隙間から回り込めば――


「っ!」


 嫌な痛みが、頭を貫いた。


 視界が一瞬、暗くなる。

 それでも、足は止めなかった。


 結果だけ見れば、偶然だ。


 俺が飛び込んだ瞬間、ゴブリンが振り返り、

 俺の持っていた松明に怯んだ。


 その隙に、住民が逃げる。


「助かった……!」


 膝から力が抜けた。


 同時に、強烈な吐き気が込み上げる。


「……っ、は……」


 地面に手をつき、必死に息を整える。


 ――今のは、なんだ?


 分からない。


 分からないが。


 “選ばなければ、もっと酷い結果になっていた”


 そんな確信だけが、胸に残っていた。


「おい……お前、候補生だろ?」


 振り向くと、正式冒険者がこちらを見ていた。

 驚きと、警戒が入り混じった表情。


「今の判断……誰に教わった?」


「いえ……」


 答えられなかった。


 説明できない。


 俺自身、理解できていない。


 やがて、増援が到着し、ゴブリンは討伐された。


 被害は、最小限で済んだ。


 だが。


「……お前の名前は?」

「アレン・クロイス、です」


 冒険者は一瞬、黙り込み――言った。


「覚えておく」


 それだけだった。


 後で聞いた話だが、

 俺の行動がなければ、死者が出ていたらしい。


 それでも、評価が覆ることはなかった。


「結果は結果だ」

「成長率ゼロは変わらない」


 教官は、そう言った。


 正しい。


 水晶は、嘘をつかない。


 俺は、相変わらず雑務係で、

 冒険者候補としては“保留”のままだ。


 ――それでも。


 あの瞬間、俺は確かに選んだ。


 正解だったかは、分からない。


 だが。


(それでも、選ばなきゃ、何も変わらない)


 そう思った。


 成長できないなら、

 強くなれないなら。


 俺は、選び続けるしかない。

本話をお読みいただき、ありがとうございました!


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