第2話 エースの迷いと新人の不安
またつまらない話です。説明じみてて単調な、鬱陶しい印象を与えるでしょうが、それは広い心で許してネ☆
どうでもいいことですが、ユエルのイメージは「ルパン三世」の次元なのかなって思ってます。最初は男の子で行こう!…そしたら何故か女の子に。一人称が「ボク」なのはその名残りですかね。
「ってか、ダゼルなんて村聞いたことありませんし…。ここまでの道のりから考えて絶対ド田舎ですよ」
ソフト帽を取り、指でクルクルと回すユエル。
「……」
「ジャンク・ジャンク」のある街以外、国も、村も、町も、レオナは知らない。訪れた場所は全て消してきたから……。だから何をもってその村を田舎であるのか、その判断基準も分からない。
その時、一瞬ある場面がレオナの脳裏に過ぎる。「……ッ……!」思わず顔を歪める。
「姐さん……?」
レオナの一瞬の表情を見逃さず、ユエルが心配そうに見上げてきた。
「何でもない……」ユエルを見ず、感情を殺して答えるレオナ。
ユエルも何か言いかけるが、すんでのところでそれを飲み込む。そして空気を変えるかのように「あ!そういえばどうッスかこれ!」と明るい口調で言う。
なにかと思いレオナがユエルを見下ろす。見ると、ユエルはスーツの端を掴み、ひらひらと見せびらかしていた。スーツに付いているタグは、誰でも知っている高級ブランドの物だった。ユエルは小柄だ。そのサイズにぴったりということは、やはりオーダーメイドで作らせた物なのだろう。それほど金も貰っていないだろうに、そんな余裕はあるのか。
レオナが解るのはそのくらいだ。自慢なのか?
「あれ……気付きません?このファッション、フレディさんの真似なんですよ?また怒られるかもしれないですけど、まずはカッコから入ってみたんですよね」
それを聞き、レオナの頬が「ピグリ」と動き、あからさまに嫌そうな顔となる。
「姐さん知ってます?フレディさんがこの格好し始めたのって、姐さんに前のファッションけなされたからなんですって!」レオナの表情に気付いていないのか、ユエルは楽しそうに語り続けている。
「止めろ。あんな奴の格好マネするなんて」
「可愛いですよねーフレディさん。それに課を超えた姐さんの発言力!」
「聞こえなかったか?」
自分の話を全く聞かないユエルに対し、レオナがギロリと鋭い視線を飛ばす。その途端ユエルが体をビクリと硬直させる。どうやら本気で怒っているようだった。そうなったレオナの視線は、下手をすれば簡単に人を殺せるレベル。
ユエルの言葉とその格好のせいで、レオナの頭にフレディが、一瞬だが現れる。
「猟奇殺人課」序列第三位「悪夢」ことフレディ。ファミリーネームはアップル。フレディという名前は本物だろうが、アップルなどというフザけたファミリーネームなど聞いたことがない。そして見た目も性格もフザけている。
レオナとフレディは「ジャンク・ジャンク」でもかなりの古株であり、全く知らない仲でもなかったが、何故かレオナはフレディが嫌いだった。性格が嫌いだったのかも知れないし、生理的に無理なのかも知れなかった。それは初めて会った時から変わらない。少しでも近くに居ると気分が悪くなるのだ。
だが、フレディは強い。そこだけはレオナも侮らなかった。伊達に「猟奇殺人課」第三位・課長代理は名乗っていないのだ。
「姐さん、どうしてそんなにフレディさんのこと嫌ってるんです?『猟奇殺人課』の人って危ない人ばかりと思ってましたけど、フレディさんってそれほど危険な性格してませんよね」
ユエルは「猟奇殺人課」ではフレディと一番会って話をしている。普通ならばフレディのように上位の殺人者には会うことすら難しいのだが、レオナと仕事するようになりユエルにもそういった機会が増えたのだ。……とは言っても、よく会う。変態ないしロリコンだからか?ユエルの中での「猟奇殺人課」へのイメージは既に出来上がりつつあった。
ユエルの言うとおり、フレディは「猟奇殺人課」で、しかも序列第三位であるにもかかわらず比較的まともな性格をしていた。少なくとも「猟奇殺人課」内、では。
「でも、そんなこと言ったら姐さんもまともな性格ですよね」
「……は?」
今何か失礼なことを言われたような気もするが……。レオナは気だるそうな顔でユエルを見る。
「だって、姐さんって子どもの頃から『ジャンク・ジャンク』に居ますよね?どうやったらそこまで健やかに成長するんですか!美人でスタイル良くて性格にも問題無いなんて、異常ですよ!周りには変態の殺人者ばかりで……身体は大丈夫だったんですかっ!…あ。そこはやっぱ『マーダーサーカス』の娘だから大丈夫だった、とか?いやでもそれでも抑えられるもんじゃないですよね、彼らの性欲というやつは……。失礼ですけど、姐さんって初めてはいつ…フゴッ!」
興奮してきたユエルの口を、両頬を押さえる形で黙らせるレオナ。一旦「ぐッ」と力を込めた後、解放する。「何の話をしてるんだ?」
「っはぁ…は、はは。すいません。姐さんこっち系の話嫌いですか?周りそんなんばっかなのに……」苦笑しながらユエルは言った。自分は悪くないのに……そんな感じの口調。
そんなユエルに冷たい視線で一瞥するレオナ。
「……」再び前を向いたまま黙るレオナ。
ユエルも前は向きつつも、時折チラチラと横目でレオナを確認する。困ったような表情。
ユエルの発言の大体は正しい。が、一つだけ大きな誤りがあった。
それは、「レオナが『マーダーサーカス』の娘」である、という点。
レオナは「マーダーサーカス」の実の子どもではないし、義理の娘でもない。
今から二十年前、「マーダーサーカス」は突然レオナの目の前に現れた。当時五歳のレオナの目の前で両親を殺し、友達を殺し、住んでいた村を壊した。泣くことすらできなかった。たった一人の人間に全てを奪われていく様を黙って見ているしかなかった。
ありとあらゆる物を壊していった「マーダーサーカス」だが、何故かレオナだけは殺されなかった。天涯孤独となったその身を「マーダーサーカス」に引き取られ、育てられたのだ。
別に何もされなかったし、お腹が空くこともなかった。勉強も教えられたし、あらゆる兵器・武器の取り扱い、殺人技術を叩き込まれた。
レオナは全てを理不尽に奪われたが、「マーダーサーカス」を恨んでなどいなかった。むしろ感謝しているくらいだ。一応、何の不自由もなく育ててくれたのだから。それに、五歳では何も分からなかったのかも知れない……。両親が死んだことも、人を殺すという行為も。
だが………それでも……。レオナは「マーダーサーカス」のことを親だと思ったことは、これっぽっちもなかった。
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今、ユエルの心はひどく悲しく、寂しいものとなっていた。
それは、自分がレオナを怒らせ、怒られたからではない。
自分と一緒にいて、姐さんをつまらなくさせていないだろうか?
ただそれだけだった。怒られるのは別に構わない。ユエルが恐れるのは、それは、自分という人間に興味を持たれなくなること。ユエル自身が興味のない人間にどう思われてもそれはどうでも良いが、ユエルにとって大きな存在……、この場合、レオナに興味を持たれなくなるのは非常に恐ろしいことだった。
だから必死でレオナが興味のありそうな話を探す。
えーと………んーと……。
ユエルがそんなことで困っていることなど露とも知らず、レオナは無表情で歩いていた。今はもう怒っている様子はない。
「あ!」
突然ユエルが明るい声を出す。表情も明るいものとなり、レオナを見上げる。
「そー言えば、姐さん知ってます?」
「……」無言だが、視線で応えるレオナ。
「なんかぁ~、掃除屋さん達が最近変な動きしているみたいですよ?」ニヤニヤと嬉しそうに話すユエル。
「……ほお」
これまでの話からしたら、幾分興味深そうな話だった。
「あいつら、ボク達が強すぎるから焦ってるんですよ。そりゃそうですよね。『掃除屋』が『殺人者』に負けるなんて、皮肉もいいとこですもん」くっくっく、と笑いがユエルの口から漏れる。
「『掃除屋』が……」
―――「掃除屋」。それは職業の名前。だが、部屋や家の掃除をしてくれる人達のことではない(中にはそういったことをしてくれる人もいるみたいですけどね。ご苦労なことです)。
「掃除屋」とは、賞金首がついた指名手配犯や凶悪犯などのように、この世で「ゴミ」とも言える人間達を「生死問わず」で捕まえ、それによって獲得する賞金で生活をする者達のこと。
「ジャンク・ジャンク」と同じく裏の世界の職業ではあるが、「ジャンク・ジャンク」と決定的に違うのは「表の世界の人間にも広く知られている」といったところか。
「表の世界」、つまり、一般人が暮らす一般の世界。そこで「掃除屋」の存在はわりとメジャーで、「ジャンク・ジャンク」といえばその知名度は皆無だ。なので、「掃除屋」に個人で依頼をしたりする者も多い。
両者がやっていることと言えば、同じ「殺人」であるのに「掃除屋」の方がクリーンなイメージがあるみたいで、あまり恐れられない。子どもの中には「掃除屋」に憧れる子もいるほど。
つまりは、レオナ達「ジャンク・ジャンク」にとって「掃除屋」は、敵とも言える存在なのだ。「ジャンク・ジャンク」には多額の賞金がついた殺人者も多数所属しているし、奴らときたら「殺人者」というだけで襲い掛かってきたりする。「ジャンク・ジャンク」全体からしたら迷惑この上ないことであるし、序列上位の殺人者にしてみれば、「掃除屋」など余程の腕がない限りただの雑魚なので何の問題も無いのだが、困ったことに売られた喧嘩を買ってしまう「殺人者」も多くおり、「ジャンク・ジャンク」と「掃除屋」の仲は非常に悪かった。
「掃除屋」も「ジャンク・ジャンク」と同様に、ギルドといった組織体制をとっていて、その数も組織力も「ジャンク・ジャンク」より上である。それは「ジャンク・ジャンク」が色々な国に点在しておらず、たった一つの存在であるからなのだが……、それでも今のところは「ジャンク・ジャンク」の方が圧倒的に強かった。
だから「掃除屋」などどうでも良かった。少なくともレオナはそう思っていた。しかし、向こうはそう思っていなかったらしい。ユエルの言うように、何か仕掛けてきても不思議ではない。彼らにとって「ジャンク・ジャンク」は邪魔な存在でしかないのだから。
まあ、何をしてきたところで負ける気はしないが。
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隣ではまだユエルが楽しそうに何かを話していたが、レオナは既に興味を無くし、別のことを考えていた。
それは今の自分について。
何故自分は新人のお守りなどしているのだろうか。「ジャンク・ジャンク」に新人教育などというクソ甘な制度は無い。来るものは拒まないが、そこから先は面倒を見ない。仕事の斡旋があり、そこで生きようが死のうが、どちらでもいいのだ。
……やはり見抜かれているのだろうか。自分では隠しているこの気持ちも、他人には案外……。特に「マーダーサーカス」には…。
レオナの脳裏に「マーダーサーカス」と、あの時の光景が一瞬過ぎる。
こんなこと、初めてだった。ばからしいと無視してきたが、もうそんなレベルではない。
負けるぞ。
こんなことでは「掃除屋」にさえ、足元をすくわれるぞ。
もう一人の自分が、二十年積み重ねて出来上がった何かが、レオナにそう言ってくる。
早めに決着をつけなくては。この気持ちに……迷いに。
表情を一切変えず、レオナはただ黙って前を向き、歩いた。
―――次回!予告!
あのボード……。やっぱけっこう売れてるみたい!売り切れたり、人気の色が無かったり!
くそゥ!最近の子どもの遊びはハイレベルだぜ!
……オレも乗ってみたい。
そんな中、オレの前に現れた……
ご期待してろよ!