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第18話 アオイの暗殺

 ……最近、ライトノベルをすっげー読んでますね。ええ。

 大体、五巻くらいまで出てるやつを一気に買って、一気に読む感じで……。

 皆さんそれが驚くことに全部、「ラブコメ」系なんですよ!ww

「ラノベなんてそんなジャンルばっかじゃん」と思われるでしょうが、オレみたいな人間がそれをニヤニヤしながら読んでるのが問題なんですよ!ww

 しかも、そういったジャンルを読んでも、あまりこの小説には反映できないんですよね。

「あ、あの……えと、本当ですか?依頼達成、て……」

 身を乗り出し、ユニへと顔を近づけるアオイ。驚いている、というより焦っているようだった。

 ユニはというと、アオイの顔から遠ざかるように、再び背中だけで座る姿勢へと戻る。表情はやはり分からないが、どうやら呆れているようであった。

「アオイさん……。毎回毎回疲れませんか?いい加減自分の暗殺というものを理解……」そこまで言って、ユニは突然言葉を切った。

「?えと……ユニ殿?」

 目を瞑り、小さく息を吐くユニ。

「……いいえ。何でもありません」そう、小さく、しかしアオイにはっきりと聞こえるようにユニは言った。

 アオイは少しだけ不思議そうな顔をしたが、すぐに得心がいったような表情へとなる。

「ああ!やはり、またなのですね!また、見ず知らずの方が、代わりに暗殺してくれたに違いません!」

 ……そんな訳ないだろう。妄想の人物に感謝するアオイを見て、ユニは呆れると同時に頭が痛くなるのを覚えた。

 エイジルを暗殺したのは間違いなくアオイだ。それがユニには分かっている。だが、それを直接アオイに言ったりはしない。先ほど言い止まったように、この娘にそれを言う必要はない。

「暗殺したという自覚」が無いからこそ、アオイの暗殺は完璧となり、アオイ自身の暗殺者としての質をも高めることに繋がる。

 暗殺する側としては、一番必要な感覚かもしれない。ユニはそう思う。それを、アオイは無意識に行っている。ユニはそう考えていた。

 そして、それができる最大の要因は――――――。

 ユニはアオイの腰に目を向ける。

 ――――あの「刀」だ。ユニの目に暗黒の色が光る。好奇の目。

 あの刀は普通の刀ではない。珍しい「刀」という武器の中でも、極めて珍しい「妖刀」という物だ。

 銘を「影葵」。

 妖刀とは、何をして妖刀と呼ぶのか。どのように分類すれば良いのかは、非常に難しい。だが、アオイのあの刀は妖刀と呼ぶに相応しい物だと、ユニには分かる。感覚的にも、あの刀は自分と近いものがあるし、何よりユニは、それを実際に目撃していた。


 アオイの存在を知ったユニは、早くからその奇妙さに注目していた。「暗殺を失敗した」と言う人間が、あろうことか、暗殺課にいる。しかも、頻繁に失敗している、と。

 最初はユニも「どうでもいい」と思っていた。序列十位にも入っていない人間など「ジャンク・ジャンク」では居て居ないようなものなのだ。ユニは課長ではあるが、暗殺課……強いて言えば「ジャンク・ジャンク」の沽券に係わることではない。

 しかし、依頼主から苦情等が来ることはなかった。

 だが、「暗殺を失敗した」暗殺者の噂は絶えることはなかった。

 それでも依頼主は何も言ってこない。どころか、その暗殺者に一時依頼が殺到したりもした。

 ついにそいつは序列十位に入ってきた。名前はミツバ・アオイ。

 興味を持ったユニは、暗殺課課長としてアオイと顔を会わせた。

 名前の通り、珍しいジパング出身の「女」だった。第一印象は、「何の取り柄もない、どんくさそうな女」と思った。

 おそらく。アオイに依頼が集中し、なおかつクレームの一つが来ないのも、全てはアオイがジパング出身のサムライだからだろう。ユニはそう推察した。サムライは極めて珍しいし、刀での暗殺も集める(「ジャンク・ジャンク」の全課を見ても、ジパング出身者、しかもサムライなんて人は暗殺課のミツバさんだけですから。超レアですよ。それでいて女のサムライとか……どこにもいませんよ)。

 裏の世界でも、そういったブランドが人気を取る。

 実に下らないことだ。サムライなど、(表の世界でも目立つのに)この世界では目立ちすぎる。暗殺に派手さは要らない。今まではそれで良かったのだろうが、序列上位者となればそうはいかない。どうせすぐに落ちるだろう。そう思い、ユニはアオイの名前も顔も、ろくに覚えようとしなかった。

 しかし、ユニの考えはことごとく外れた。

 アオイは未だ「失敗しましたぁ……」と、ユニに泣きついたりしてきたが、ユニのところに来るのは依頼主からの依頼達成を伝える報せだけだった。

 さらにアオイは、序列も順調に上げていった。付いた異名が「未殺」。

 本当はもっと別な異名があったのだが、アオイ自身がこの異名に変更したのだ(本来、異名は当人以外の人間に付けてもらいます。主にお客様や町の方々の噂などによって、ですね)。

「未だ殺せず」という意味らしい。

 さすがにおかしいと思い、ユニは暗殺依頼を受けたアオイを監視することにした。好奇心だった。アオイという殺人者を、生で見たかった。

 アオイは相変わらずサムライスタイルのまま、人の溢れる街中を歩いていた。目立ってしょうがない。せめて顔は隠すべきだろう。しかも刀で人を殺めるのだとしたら、かなり近距離での暗殺となる。失敗すればその場で全てが終わる。……まぁ、アオイはそうなっていないから不思議なのだが。

 殺人者としてまだまだ未熟なアオイを見つめ、ユニはウンザリしていた。このような殺人者がいると、暗殺課の評価が落ちるのではないか?

 そして、ユニは信じられない光景を目の当たりにする。

 なんと、アオイが刀の柄に手をかけたのだ。

「まさか……」

 そのまさかだった。アオイは刀を抜き、ターゲットに刃を向けたのだった。

「うそでしょう?」

 信じられない。アオイからわずかに離れた場所で、ユニは驚きを通り越して呆れていた。まさかこんな真昼間に殺るなんて。夜中に殺るとばかり思っていた。見ろ、たくさんの人間が何事かと注目している。

 結果、暗殺は失敗。ターゲットは刃を向けられたことに怒り、アオイは泣き顔で慌てて逃げて行った。

 目を覆いたくなる光景。何人かの素人さんに笑われているではないか。これはそのまま「ジャンク・ジャンク」の暗殺課が笑われたも同じ事。つまりは、ユニ自身が笑われているのだ。少なくともユニはそう思っていた。

「……しょうがない。お仕置きですね」

 これまでは目を瞑ってきたが、もうそれは終わりだ。序列上位に入ったからには、けじめってやつをつけてもらわないと。冷静で感情を滅多に表さないユニに、珍しく怒りが沸いてくる。

 逃げるアオイを捕まえようと、ユニもその場を離れようとする。

 ……が、そこで違和感を感じた。

 アオイは確かに暗殺を失敗した……。だが、アオイの刀はターゲットに届いていなかったか?離れた場所で、そして居合いを見るのも初めてだったのでユニにはよく分からなかったが、刃の先端は届いていたように思える。死に至る傷でなくても、血が出たり服が破れたりしないか?

 今追うべきはアオイではなく、ターゲットの方ではないか?

 ユニは反転し、人ごみの中ターゲットを捉え、後をつけた。

 数分が経過した頃、異変が起きた。

 数メートル先を歩くターゲットが急に立ち止まったかと思うと、その場に崩れ落ちたのだ。大量の血飛沫とともに。

 パニック状態になった人々の悲鳴があちらこちらに聞こえる中、ユニだけは冷静に状況を見つめた。

 若干の興奮と驚き。

 確証はないが、これがアオイの仕業だということは何となく分かった。それ以外何が考えられるだろうか。そして次々と理解していく。

 これがアオイの「暗殺」であること。アオイが暗殺を失敗したと思っているのは、ターゲットが別の場所で死ぬから。

 だが、何故?何故そのようなことができるのだ。

 未だ騒然とする現場を遠くから見ていると、ポケットに入れていたケータイ(ケータイ。そう携帯電話ですよ。形状や機能はそちらの世界と何ら変わらないとお思い下さい。こちらのケータイも日々進化しています)が震えた。視線は正面のまま、ケータイを取り出す。着信を確認し、フラップを上げて通話ボタンを押す。

「……はい」

「あ、ユニさん!ついさっきアオイさんの依頼達成が確認された、と、依頼主から電話入りました!」

 電話の向こうからはやたらと明るい声が聞こえてきた。

「……了解です」

「ユニさん、本当にマジメですよね?いちいち課の殺人者の依頼結果を知らせてくれ、なんて。ユニさんぐらいですよそんなの」

 他の課長と違い、ユニは「暗殺課」に属する者の依頼結果を全て自分に知らせるようにしていた。だが、そんなことで自分がマジメだとは思わない。

「暗殺課」は他の課とは多くの面で異なるのだ。別に、暗殺は「ジャンク・ジャンク」に頼まなくても、本業の「暗殺者(アサシン)」にだって頼めるのだ。客をそういった連中から奪うには、絶対の信頼性が必要になってくる。依頼の成功、失敗を知るのは、「暗殺課」の信頼度を最低限保つためにやっていることだ。

 通話を切ろうとすると、「あっ!待って!待ってください!」と、必死にそれを止める声が聞こえてきた。

 何か緊急の事でも起きたのかと思い、再びケータイを耳に当てる。

「何か?」

「あのぅ、ユニさん。今度遊びにでも行きませんか?あ、飲みに行くでも良いですよ?私、ユニさんとはそんなにちゃんと話したことないですし。あ、ほら!私達って同じは」

 ピッ。

 全く関係ないことだったのでユニはフラップを閉じ、通話を切った。

 ターゲットを囲むように野次馬が次々と集まってくる。

「……お仕置きは、見送りですね」

 けれど、まだアオイへの評価を変えた訳ではない。

 今度はどのようにしてこのような殺し方をしているのかを突き止めなくては。評価はその後だ。

 ユニはターゲットの死体にはもう興味を無くしたように、その場を静かに去った。

 次回!予告!!


 ポケモンを厳選し始めてしまった作者。今日も橋の上で羽集めつつ卵を孵す……。


 次回も期待しつつ最高の個体値を待ってろよ!

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