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第17話 暗殺課課長

 課長の名前は某ジャンプ漫画での、マフィアのボスと、某超有名漫画での、暗殺チームリーダーからつけました。

「ジャンク・ジャンク」内にある、序列上位者専用のバー。

 ただし、ここは「暗殺課」の殺人者限定である。

「大量殺人課」、「猟奇殺人課」、「特殊殺人課」は序列上位者であろうと、バーは共有する。しかし、「暗殺課」だけは、別に「隠しバー」が用意されている。その主な理由は「たとえ同じ組織の人間だろうと、顔は見られたくない」といったものだった。暗殺を生業としている以上、自らの情報を外に漏らすのは避けたい、というのは分かるのだが、「暗殺課」内ではそういった注意は皆無のようであった。簡単に言えば、「暗殺課」は非常に注意深くデリケートなのだが、身内(「ジャンク・ジャンク」ではなく「ジャンク・ジャンクの暗殺課」という意味です)同士ではそれが消えてしまうのだった。

 まあ、ただ単に人見知りが多いというのもあるし、現暗殺課課長の意向というのもある。


 ――その隠しバー。一日おきに中の様相が変わる異様な造りで、今日は壁から床まで全て真っ白。部屋全体が清潔に照らされているようであった。バーというより、病院の中にあるおしゃれなカフェみたいである(部屋の大きさは変わらないんですけど、内装やらBGMはその日ごとに変わってるんですって。私も入ったことないんで分かんないですけど。これは序列第一位であり、現暗殺課課長が改造しちゃったり何かしちゃったからで……。仲良さそうで良いですね、暗殺課は)。

 現在その中には一人しかおらず、静かな音楽がBGMとしてかかっている。

 そこに、一人の女がそーっと扉を開け中の様子を窺いながら入ってきた。

「……そ――――……っと。誰も居ないですよねー……?」

「お疲れさまです。アオイさん」

「ひッ!?」

 おそるおそる中へと入ってきた女は、ビクッと体を硬直させ、一瞬ではあるが全ての機能を停止させる。

 声のした方向にゆっくりと、時間をかけて首を向ける。

「あ……ユニ、殿……」

 入り口正面、数メートル先の丸いテーブルを見てみると、先客が椅子に座ってこちらに目を向けていた。座っているといっても、座面に腰はほとんど付けず、背もたれと座面に背中を預けるように……だるそうに座っていた。本人はそうでもないのだろうが、見ている側としては「その体勢、楽なのか」と思いたくなる。

 その人物は室内であるにも係わらず、ニットキャップを深々とかぶり、マフラーで鼻から下を隠していた。そのため、顔で見える部位は目と鼻の辺りくらいである。あとはニットキャップからはみ出たオレンジ色の髪の毛がそれらを少し隠すのみだ。僅かに見える目も、眠そうに半分閉じられていて生気が無い。

 顔が隠れているせいで詳しい年齢は計れないが、服装はかなり若い。

 白地に、袖先がピンクのタイトなTシャツ。正面にはデフォルメされた可愛らしい悪魔の様なキャラクターが描かれている。挑発するように、胸のふくらみが強調されているので一発で女性だと判る。

 下はデニム地のホットパンツ、ピンクと黒のボーダーニーハイソックスという格好。小柄で、見た目は完全に十代前半の女の子に見える。それでいて、スタイルはかなり良い。

「あ……あは……あはははは……」

 アオイと呼ばれたサムライスタイルの女は、必死に笑おうとするが、どうやってもぎこちなくなるだけであった。

 今、一番会いたくない人物だった。


 女の身体は緊張に包まれていた。それなりの広さがある部屋だとはいえ、二人っきりである。完全な静寂ではないが、今は静かに流れるBGMが、逆に憎らしい。

 女は「どうもー……」と軽く挨拶し、入り口に近い席に座ろうとした。

 しかし……。

「どうしてそんな所に座るのです?アオイさんもこちらにお掛けなさい」

 先にこのバーに居た少女(パッと見)がそう言った。マフラーで口を隠しているので、どこから聞こえてくるのか分からない錯覚に陥る。部屋の全方位から聞こえてくるようで、そして、二人しかいないのでよく聞こえてしまう。

「あ、あの……ですね!わ、わた、私は~……」無論、今あの人の傍になど行けるわけもない。この場からだって早く立ち去りたいのに……。

「……」

 ……しかし断れない。この圧力(プレッシャー)……。

 無言でも分かる。「私の言う事が聞けないのか?」と……。そう、言っている。そういう目をしている。

「はい……」アオイと呼ばれた女は、泣く泣く相席する。


「失礼します……」

 正面にはニットキャップの少女(に見える)。じーっとこちらを見つめてくる。

 ……気が気でなかった。

 無理もなく。

 このニットキャップの少女こそ、「ジャンク・ジャンク」暗殺課序列第一位であり課長『夜霧(ナイトミスト)』こと、ユニ・ネエロその人だったのだから。

 何もしていなければここまで緊張することはなかっただろう。しかし、自分はついさっき暗殺を……「仕事」を失敗してしまっていた。アオイと呼ばれた女の胸中には、それだけがぐるぐると回り回っていた。いくら「ジャンク・ジャンク」とはいえ、同課の序列一位となれば、その課の「課長」となる。課長!つまり「上司」と「部下」!仕事を失敗すれば(特に暗殺失敗なんて、暗殺者(アサシン)なら即クビ!ですよ。ですが、我々は殺人者(ジャンク)なので……。どうなることやら(笑))怒られる……どころではない。

 そして暗殺課のモットーは「百発百中!依頼主の信頼は何より大事」である。裏を返せば、依頼主の信頼を失うということ=暗殺課にいらない=この世界では生きていけない。そう思っていい。

 新米や無名の人間には、ユニもこれを適用しようとはしないが、序列上位者は別だ。

 サムライスタイルのこの女、名はアオイ・ミツバ。暗殺課序列第八位、異名は「未殺」。言うまでもなく序列上位者だ。暗殺失敗は、依頼主の信頼を裏切ったも同義。また、課長のユニが暗殺失敗の事実を把握していないはずがない。アオイの手の平が汗で濡れる。


「アオイさん」

「あ、ああ!ユニ殿、こちらをどうぞ!ついさっき買った物で、お口に合うか分かりませんが!」

 ……こうなれば、とことん無駄あがきをするしかない!そう思ったアオイは、たい焼きの袋をテーブルの上に置いた。少しでも機嫌を良くしたいと思い、とった行動だった。しかし、かといってユニに「責任をとれ」と言われれば、腹を切る覚悟くらいアオイにはあった。それだけのことをしたと自覚しているし、失敗は今回だけではなかったから。でも、それでも、アオイはやはり簡単に諦めるわけにはいかなかった。

「……これは?」

 ユニは視線をアオイから袋へと移した。

「あ……ああ!えと、たい焼きというジパングのお菓子です!こちらではなかなかお目にかかれないので大量に買ってしまいました!」早口で説明を済ませるアオイ。笑ってはいるが表情に余裕は無い。

「たい焼き……。本で読んだことがあります。いただきましょう」

 ユニは、静かにそう言った。その言葉にとげとげしさは無い。むしろ嬉しそうだ。眠たそうな目も細くなっている。微笑んでいるようだ。アオイにとっては好感触。

 さすがに今の体勢では袋に手が届かなかったので、ユニは上体を起こし、浅く椅子に座りなおした。そして、袋に手を伸ばし、たい焼きを一つ取り出す。

「まだあったかい」たい焼きを見つめ、ボソリとユニ。

「か、買ったばかりなので!あ、あた、あたたかいうちにどうぞ!」

「いただきます」

 ボソリとそう言い、マフラーを下にずらしてたい焼きを口に運ぶ。十五~六の少女にしか見えない。死んだ目をした、何を考えているのか分からない現代風の女の子。

 もぐもぐ、とアオイを見ながら口を動かすユニ。仕事の上司だが、可愛らしいと思ってしまう。

 が、そこで、アオイは大きな過ちに気付く。

 あのたい焼き……まだ、アオイは食べていない。既に書いたとおり、たい焼きではないたい焼きは多く出回っている。

(いけない……!)

 あのたい焼きが不味ければ、作戦が裏目に出てしまう。そうなれば、もう終わりだ……。

「もぐもぐ、アオイさん。もぐもぐ」たい焼きを咀嚼しつつ、アオイをまっすぐ見据えるユニ。

「はっ、はい!」

 やっぱりダメだったのか!くそっ!何だってこの世界の住人はちゃんとジパングを理解しないんだ!外面だけ見て中身を全く見ようとも理解しようともしない!そのおかげで今、私は殺されかけている!ユニ殿なら間違いなく!間違いなく、そりゃもう冷血に……!

「もぐもぐ。お茶が要りますね、もぐ……もぐ、とても甘いです」

「ふぇ?」

 ユニはたい焼きを口に咥え、指を「パキンッ」と鳴らした。するとどこから現れたのか、テーブルにティーポットとティーカップが二つ乗せられていた。

「おいふぃいでふへー(訳:おいしいですねー)」

 咥えたままそう言うと、ユニは慣れた手つきでカップにお茶を注いでいく。何重にも濾過されたような澄んだ赤色の液体で、カップが満たされる。

「暗黒貴族御用達、『スカーレット』の高級紅茶です。甘いものには良く合いますよ」

 ユニは短く説明すると、もう一度指を鳴らした。またしても、どこからか四つの小さなビンが出現する。

「ミルク、シロップ、レモン、ジャムです。お好みに合わせて使ってください」

「は、はあ……。あの、美味しいですか?たい焼き……」アオイはおそるおそる訊ねてみた。

「美味しいですよ。私、たい焼きってあんこが入ってるって本で見たんですけど、コレにはチョコレートが入ってます。でも、とても合ってます」

 無表情、無感情、生気の無い瞳でユニが答える。答えながらたい焼きの尻尾まで食べ進む。どうやらユニは頭から食べる派らしかった。

「えっ?チョコ?」

「はい」

 たい焼きにチョコ?何なのだそれは!

 アオイは慌てて袋に手を突っ込み、たい焼きを取り出す。食べる。

「ふああああー……!これにはカスタードが入ってます!めちゃくちゃ美味しいですー!」

 涙が出てくる。今日は当たりだった。団子もたい焼きも!やるではないか!この世界とジパングの新たな融合……、ちゃんと理解しているじゃないか!

「紅茶も悪くないですが……、やはり緑茶の方が合うんでしょうか?近いうちに用意しておきますね」

 ユニがそう言うのを耳にしながらアオイは紅茶を啜り、上機嫌になる。ちなみに、緑茶も茶葉の原産がジパングなだけあってその値段はバカ高い。かといって、「ジャンク・ジャンク」暗殺課課長のユニにとっては些末な問題でしかならなかった。何せ、今二人の目の前にある紅茶の銘柄「スカーレット」と言えば、『魔界』でしか手に入らないのであるから……。

(ああー、幸せ。でも何でたい焼き食べてんだっけ?確か、ユニ殿に食べてもらおうと思って……えー……あれ?)

「それでアオイさん。仕事の話ですが」

「あ……」

 一気に現実へと引き戻されるアオイ。

 そうだった……。何故忘れてしまったんだろう。思わずたい焼きを落としそうになる。

 やはり、やるべきことは一つしかない。それしかもう、道は無い!

「ユニ殿!申し訳ありませんでした!」

 ユニが話すより先に、アオイは椅子から床へと膝をつき、額をこすりつけるほどに頭を下げた。ジパング最大の謝意の表し方「ザ・土下座」だった。

 殺されるにしたって謝罪してからでないとあまりに失礼というか、無礼というか。

「何を謝ってるんですか」ボーっとした目のユニ。

「いえ……!暗殺を失敗してしまい……!」

 大きく「はあ」と聞こえた。ユニのマフラーにため息が溜まる。

「またそれですか……。もっと自分の腕に自信を持ってください」

「ですが……」

「先ほど先方から連絡が入りました。エイジルと他一人の死亡を確認した、と。報酬は倍払ってくれるそうですよ?良かったですね」

「え……、ということは?」

「依頼達成、おめでとうございます」

「え、えええええええええええええ!」

 次回!予告!!

 オレはいつまで半そでとサンダルで過ごせる!?


 次回もパンツ一丁でみてくれよな!

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