第9話 カーニヴァル~Ⅱ~
レクターのイメージ像が僕の中で壊れてましたね。
昔観た映画のイメージからしたら、レクターって紳士な人だったんです。でも、映画や小説見直したら……結構ワルだったんですねww
クラリスに対して妙に優しかったからかな~
「別に気に病むことはない」
食事を終えたレクターが、唐突にユエルへそう語りかけてきた。
しばらく間が空いた後のレクターの第一声がそれだったので、ユエルはまたしてもその意味が分からず、「何がですか?」と聞き返していた。
「酒が飲めなくなったこと、レオナを引き留められなかったこと……諸々含めて」
「ああ、そういうことですか……」ユエルは苦笑いする。
別に構わないのだが……ユエルにとってはあまり掘り下げてほしい話題ではなかった。それを見越してこの話を振ってきたのかは分からないが、レクターは口元だけで笑い、椅子の背もたれに体重をかけながらユエルを見つめていた。
「レオナは、君にとって大先輩であり、尊敬に値する人物だった。それが……自分の目の前で裏切りとも言える行動をしたのだ。何も感じない人間なんて、いない。逆に……感じなくなれば、殺人者としては優秀でも、人として駄目になる」
「ここで人間性なんて必要ありませんよ……」
ユエルはため息を吐き、レクターの言葉を否定した。
レクターは面白がっているのか表情を変えず、喉の奥を小さく鳴らすと、落ち着いた声で言った。
「そんなことはない。我々は人間として生まれてきた以上、ある程度の人間性が無くてはならない。そうでないと、野生のモンスター共と差が無くなる……」どこまでも落ち着いた声。
「……そうでしょうか」
「そうさ。事実、レオナはその人間性故に『ジャンク・ジャンク』を抜けた……。そうだろう?」
「……やっぱ要らないじゃないですか、そんなの……」
それを聞き、レクターは小さく目じりにシワを寄せた。
その人間性故に……。
確かにそうであった。
レオナはあの夜、「罪の無い人々を殺すことができなくなった」と言い、ユエルの前から姿を消した。それまで人を殺すことに何の感情も持たなかった冷血な殺人者、「虐殺爆弾」レオナ・ジーンサイドが、だ。
大量殺人課序列二位の殺人者でさえ、自らの人間性を捨てきれなかったのだ。レクターはそのことを言っている。ユエルもそこで再認識する。
「ああ……姐さんも人間だったのか」と。
「結局、レオナとはあの日以来会うことはなかったな」
「ボクと初めて顔合わせした日、ですよね?」ユエルは嬉しそうな、そして懐かしそうな顔をする。
ユエルは二度、レオナと共に仕事をした事があり、その一度目、つまりレオナと初のコンビを組んだ日に、レオナに連れられ序列上位の殺人者のみが入れるバーに行ったことがあった。その時、多くの序列上位殺人者と顔を合わせ、その中にレクターも含まれていたのだ。
レオナにまともに紹介されたのはレクターぐらいで、また、まともに話をしてくれたのもレクターぐらいだった。
「猟奇殺人課」の人間とは思えないほど落ち着いた口調と物腰に、ユエルは驚き拍子抜けしながらも、まだまだ「ジャンク・ジャンク」でも人生でも新米な自分に対して、対等に接してくれるレクターには大いに好感が持てた。
「先生、姐さんと仲良かったんですか?あの時、普段あんまり喋らない姐さんが珍しく多弁になってましたし」
多弁になっていたといっても、ほんの少し口数が増えただけであった。が、それでも珍しいことであった。
「さあ……。仲が良かったかどうかは分からないが、付き合いは長かったのかも知れない」少し考えるようにして、レクターが言った。
「どれくらいですか?」
「十年だ」
「十年……」
「ジャンク・ジャンク」で十年の付き合いは、とても長いとユエルは思った。人を殺すのが自分達の主な仕事であるが、いつ死んでもおかしくはない世界なのだから。
「私がここに来たのも、十年前だった」
どことなく懐かしそうにレクターは呟く。それにユエルが反応する。
「あ!でも先生って『ジャンク・ジャンク』に来る前から有名だったんですよね!」
瞳を輝かせ、ユエルは身を乗り出してくる。レクターはおかしそうに笑い、訊ねた。「知ってるのか?昔の、私を」
「ジャンク・ジャンク」以前の話となると、ユエルは当時五歳か、まだ生まれてすらいない。それでどうしてレクターのことを知っているというのか。レクターはそんな話をした覚えは無いし、ユエルが時間を割いて調べたとも思えなかった。
「フレディさんに聞いたんです!」
「……なるほど」
レクターは小さく笑った。
ユエルがレクターを尊敬する理由は、序列やその態度からだけではなかった。
レクターの「過去」。
ユエルはそこにもレクターの強さを見出していた。
レクターは「ジャンク・ジャンク」で有名になったのではなく、「表の世界」で有名になりすぎたため、裏の世界へやって来たという経歴を持つ。無論、そんな人間は「ジャンク・ジャンク」には腐るほどいる。ユエルはそういった連中の大体は眼中に入れない。
その中で、レクターは異色だった。
その異色さはユエル本人にしか感じ取れないものなのかもしれないが、簡単に言ってしまえばレクターの「異色さ」は、世にはびこる殺人者の多くとは違い、「何者にも完全には捕まえられない」……というところだ。
ここで述べてしまうと、十数年以上前、無差別な連続殺人事件が起こった。いわゆる猟奇殺人というやつ。まあ……その犯人が、当時名の知れた精神科医、トーマス・レクターだった訳だが。
被害者同士の因果関係が皆無で、しかもレクターの「殺害方法」とその緻密さから、警察機関は容疑者の一人も挙げることができなかった。
――――が。
結果だけ言えばレクターは捕まった。自首をしたわけではない。
一人の、若い刑事に追い詰められ、逮捕された。その時レクターは四発の銃弾を身体に受け、腹を刺されている。
強い正義感と、勇気と、鋭い洞察力を併せ持った素晴らしい刑事だった。ただ、レクターが自らの「趣味」と「嗜好」を殺すことができていたなら、今もなおレクターは表の世界で精神科医をしていたことだろう。それができなかったことが、レクターの敗因でもあったが、それができていれば殺人者など生まれはしない。
レクターを捕らえたその刑事は、一躍英雄扱いされたが、その直後警察を辞めてしまった。ここでその理由は語らない。
その後のレクターの処置は「精神異常犯罪者診療所へ終身拘束」。狭い独房に閉じ込められることとなった……。
冷たい石の壁、床。鉄格子ではなく、極厚の特殊防弾ガラスで外界と隔離された。
隔離された。
何人もの人間を殺した犯罪者。
なのに。
なのにレクターは、料理書からファッション誌まで多数の書籍を購読し、最厳重監視病棟の囚人の身でありながら臨床精神病理学会誌や精神医学会誌に論文を発表するなど、世間に影響を与え続けた。
普通の人間ならこうはいかない。自由は制限される。
しかしレクターはそれを許される。それほどの人物であり、頭脳の持ち主だったのだ。
……無論、レクターが何か違反をしたり反抗をすれば、それも縛られた。本を読むことは許されなかったし、独房に備え付けられていたトイレの便座も奪われた。
奪われた自由の中で、レクターが再び外界と係わっていくのは、自分と同じ人間からだった。
レクターが捕まったところで、殺人者が消えるわけではないのだ……。
次回!予告!!
最近のカード人気は異常だな。アーケード機に子ども達がむらがっているぞ!
ドラクエに!
……すごいよなぁ~ww
次回も期待してていいよッ!