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第7話 壊滅

 一応の区切りです。

 今回、爆発するシーンがいくらかありますが、僕は何かを爆破させる現場を見たことも無ければ、爆発を体験したこともありません。軍人でもなければ自衛隊でもないのです。なので、爆発のすごさってやつを理解できておりません。いつかは体験してみますが、これを書いたときは体験してません。

 なので、「絶対に死ぬだろ!」みたいな場面が多々ありますでしょうが、仏の心で見守ってください。

 はぅ!(はぅ!?)

 違う。そうだよ!あんだけの爆発で無事だったのはレオナが超人だからだよ!そうだよ、仮面ライダーだって爆発で死んだりしないもんネ!「死んだライダーもおる」って思った貴方!……自重して下さい(笑)。

 ふう、言い訳……前書き終了!少しでも楽しんでくれたら嬉しいです。

「ッぐ!あ……!く、ぐ……!」

 ものすごい勢いで体が後ろに吹っ飛んだ。その途中、壁を突き破る「バキィッ!」という音が聞こえたかと思うと、今度は背中に硬い感触とそれに伴った衝撃と痛み。直後、前方から鋼鉄製の棺が相当の圧力を持ってレオナを襲ってきた。

 何が起こったのか咄嗟に考えるレオナ。おそらくは、現在自分は石壁と棺に挟まれているような形になっているのだろう。体の前後に痛みを感じたが、これほどの痛みで動けなくなるほどレオナはやわな鍛え方をしていない。もちろんどこの骨も折れていない。自分の棺にダメージを負わされた格好となったが、この棺が無ければ、今頃自分は酒場の掃除屋のようにただの肉片と化していただろう。

 一瞬にして自分の置かれている状況を把握したレオナは、今度は急いで棺を横に退ける。大したダメージではないが、まともに食らえばひとたまりもない。そして、その原因となった人物は今どこにいるのか。それを真っ先に確認しておかなくては。

 レオナの目の前に広がったのは、大きく穴の開いた酒場の壁だった。ところどころ小さな穴も開いていたので、自分が掃除屋を殺した際にガトリングガンで蜂の巣にした壁だと分かる。

 穴から見える酒場は、ゆらゆらと赤く燃えていた。壁にはまだ火の手は移っていないようだが、店の中央部分はかなり激しく燃えていた。木造なのですぐに酒場全体が炎に包まれるだろう。

 ……ここからユエルの姿は見えない。


 これが……ユエルの「体質」であり「力」。愛用する武器がリボルバー一丁にも係わらず、「大量殺人課」に配属された「理由」……。

 聞かされてはいたが、実際にそれを見、経験するのは初めてだった。

 ユエルは極度に負の感情が高まった時――つまりは、喜怒哀楽でいうところの「怒」と「哀」なのだが……――その「力」が「体質」として現れる。

 先ほどは髪の色と、瞳の色が変わったが、ユエルの髪は元々燃えるような真紅なので、変わるのは瞳の色だけだ。髪を黒に染める理由は知らないが、ユエル自身が本来の色と、この力を嫌っているというのも大きな理由だろう。

 そして、ユエルがそうなった場合、瞳の色以外にも変化が現れる。こちらの変化がユエルの力の本質なのだが……。

 ユエルが限界まで怒ったり、悲しんだりすると、指先……詳しく言えば「指先にある汗腺」からある液体を精製分泌する。先ほどレオナが確認した限りでは、緑色の粘り気のある液体だった……。

 あの液体を簡単に言うならば(「たった一滴」でも「強力」な威力を発揮し、「ちょっとした衝撃」でも「爆発」する、それでいて高い「発火性」も併せ持つ)「液体爆弾」である(もっと分かりやすく言えばそちらの世界での『ニトログリセリン』みたいなもんですね~)。それがレオナに飛ばされ、今この状況という訳である。レオナの見た限りユエルが飛ばしたあの液体爆弾は、本当に一滴だった。一滴で、この威力だ……。

 ここまでユエルの「力」について色々と書き記してきたが、勘違いしてほしくないのは、ユエルのこの力(体質)は「ジャンク・ジャンク」では全く珍しくない……ということである。「ジャンク・ジャンク」の殺人者のほとんどはこういった「異能」の者ばかりだ。

 逆に、レオナにはそういった特殊な力は一切無い。にも係わらず、「ジャンク・ジャンク」を創成期から支え続け、エースとして君臨し続けていた。そういった「純粋な強さ」に憧れる殺人者は少なくない。ユエルもその一人であり、だからこそ尊敬もしていた。

 ……けれども、レオナと「ジャンク・ジャンク」を天秤にかけた場合、ユエルは後者を取ったわけだが……。


 身体のあちこちに痛みを覚えながらも、レオナはいつでも動ける体勢をとった。視線は前方の壁に固定しておく。

 すると。

 ギシ……ギシ――――……ギシ……と、木製の床の軋む音がゆっくりと聞こえてきた。

 そして、ギシリ……と最後の音が聞こえると、ユエルの姿が、レオナの見る壁の穴に現れた。体の力を一切抜いた感じで、立ち止まったとき上半身がゆったりと揺れた。

 夜も深まり外は真っ暗であった。その中で、炎を後ろに立つユエルの体はほとんどが影となり、その炎よりも紅い緋色の瞳が、闇の中に二つ、不気味に浮かび上がっていた。

 もはや別人だな……。

 髪の色と瞳の色が変わるだけで、こうも雰囲気が変わるだろうか。レオナは思わず息を呑む。

 その、闇の中に浮かぶ緋色が、陽炎の様にゆらめきレオナを見下ろす。

「姐さ――……ん……」

 表情も影になって分からなかったが、感情の無い声がユエルの口から発せられる。

「最後通告ですよ姐さん」

 やはり感情も抑揚もない声でユエルが言った。


「さっきのは聞かなかったことにしてあげます。考え直してさっさとこの村潰して一緒に帰りましょう」


 ユエルの言葉に感情は無い……。無いのに……そこには有無を言わせない圧力が感じられた。

 しかしレオナも、これしきで自らの考えを変えるつもりは無かった。それだけの覚悟をして、行動を起こしている。だから、ユエルへの返答も決まっていた。

「断る」

 力強く、はっきりと、そう言った。

 レオナのそのたった一言、でも、だからこそ強い否定を意味するその一言を聞いて、ユエルはどう思ったのか。鬼火の様に浮かび上がる双眸に変化は無かった。

 レオナはユエルの反応を待つ。

 少しすると、ユエルの瞳が消えた。目を瞑ったのだろう、またすぐに浮かび上がる。

「残念です」

 相変わらず感情を感じさせない声でそう言うと、ユエルは屈むようにして床から何かを拾った。

 ユエルが拾ったそれは、ビールジョッキだった。あれほどの銃撃と爆発があったというのに、無傷のままその形を保っていた。中身はこぼれて空っぽで、表面には血がべっとりとくっ付いていた。

 そのジョッキの中にユエルは片手を突っ込む。

 何故そのようなことをするのかレオナは一瞬分からなかったが、すぐに理解する。声には出さなかったものの、表情は苦しそうに歪んでいた。あれは、マズい……と。

 空っぽだったジョッキには、新たに「薄緑色」の液体が注がれていた。既にジョッキの三分の一がそれに満たされている。無論、注がれているのはレオナを吹き飛ばした、あの液体爆弾である。

「じゃあ、『裏切り者』として姐さんをぶっ殺させてもらいます」

 言うと同時にユエルはジョッキをレオナに向かって投げた。ゆったりと山なりに投げられたそれは、レオナ本人でも棺でもなく、レオナのすぐ傍の地面に向かっていた。

 レオナは迷った。この位置ならばジョッキは当たらない……。当たらないが……爆発時のダメージはどうしたって避けられない。

 棺で防ぐ?……おそらく、あの量であってもこの棺は傷一つ付かないだろう。しかし……間に合わない。棺は相当な重量であるし、ジョッキの予測着弾地点と棺の位置は正反対でもある。自分が棺の後ろに移動する時間も無い。

 もう、できることといったら「爆発にしっかりと備える」ことぐらいだ。残り一秒もしない内に強烈な爆発が起こる。しかし、爆弾――この場合はあのビールジョッキ――が、自分の体に直接当たる訳ではない。レオナが着ているコートは、あらゆることに耐性を持ち、着用者の身を守ってくれる。このコートであれば、爆風からも、ジョッキが割れた際に周囲に飛び散るガラス片や、地面にある小石からもレオナを守ってくれる……はずだ。もちろんそれ以外の場所は無防備だし、爆風自体を消せるわけでもないので体は吹っ飛ばされるだろう。酒場での爆発など比べ物にならぬくらいに……。

 けれども「備える」と「備えない」とでは全然違う。レオナはすぐに、両腕を交差させるようにして顔を隠した。棺の鎖はしっかりと手に巻きつけ、握っておく。

 一呼吸も置かず、レオナの耳に炸裂音が聞こえ、体が自分の意思と関係なく宙に浮かぶ。棺もレオナに引っ張られる形で吹っ飛ぶ。

 体が吹き飛ばされている間、太ももの辺りと、手に何箇所か鋭い痛みが走った。前方からは物凄い熱も感じた。爆風は同時に熱風だったし、爆心地点は燃えているのかもしれない。どちらにせよ、今のところ致命傷は負っていない。レオナはこの後のことを考えながら受身を取る。足が着いたとき、何メートルかブーツで地面を抉った。

 問題だったのは棺の方で、レオナが両脚に力を込め踏ん張っていても、未だ棺は爆発の力でレオナを後ろへと引っ張ろうとする。たるんでいた鎖がピンと張る。レオナはありったけの力を込めて棺を戻す。あまりの力に自分が引き摺られそうになるが、どうにか棺を地面へと落す。

 ズシン、と音を立てて棺は地面に横たわった。そのせいで砂埃が起こる。

「はぁ、はぁ……」

 レオナは両膝に手をつき息を整える。信じられないことだが、自分は今かなり疲労している。それを認め自覚している自分自身に、レオナは驚く。たったこれだけのことで?精神面の問題であるかもしれなかったし、感じている以上に爆発のダメージは大きいのかもしれなかった。

 しかし、疲労云々言っている場合ではない。ユエルの行動に集中していなければ……。

 爆発が起こった場所を見ると、地面が爆ぜ、さっきまでレオナが背にしていた石壁は跡形も無かった。地面も壁も、所々焦げていて燃えている所がある。

 そこにまた爆音が響いた。

「ぁぐッ!」

 レオナの体が、すぐ傍の壁に叩きつけられる。

「姐さん……油断しちゃ駄目ですよ?」

「ユ、エル……」

 完全に不意打ちだったので、意外に効いていた。ぶつかった右肩が鈍く痛む。

 それよりも、レオナにとってこの状況は非常に好ましくなかった。ユエルが本来の力を発揮している上、手にはあの改造リボルバーだ。……それだけならまだ良いのだが、問題なのはこちらからユエルに攻撃を加えられないといった点である。

 忘れてはならないのは、ユエルの体質が「ほんのちょっとでも衝撃を与えれば」爆発する液体爆弾を作り出すことだ。分泌するのは指先からだとしても、ユエルの体全体がそのようになっていると考えておいたほうが良い。そうした場合、銃で撃つのはもちろん、何かをぶつけたとしてもマズいのでは……。一滴であれだけの爆発なのだから、もしもユエルに攻撃してしまったら、この村ごと無くなってしまうかもしれない。

 ユエルと自分、どちらが強いと訊かれれば、迷うことなく自分だと言える自信がレオナにはある。しかしそれも「攻撃する」という前提があってこそだ。ユエルは殺したくないし、気絶させようにも今のユエルをどうやって気絶させればいいのだろうか。

 ガンッ!

 苦しそうな表情のまま、レオナが棺を殴った。棺の扉が開き、大量の武器が姿を現す。視線はユエルに向けたまま、中から小型のサブマシンガンを取り出す。

 ユエルはレオナが取り出したそれを視界に捉えるが、慌てることなくレオナに近づいていった。

 今この状況でレオナが自分に危害を加えることは無いと、冷静に判断していた。すれば村ごと自分も死ぬことになる。それに、別にそれでも構わないとユエルは思っていた。もう、どうでも良かった。

 歩きながらリボルバーの銃口を上げ、すぐさま引き金を引いた。

 ガーンッ……!

 銃声を轟かせ、弾丸がレオナに飛ぶ。ユエルの体が反動で大きく反れた。

「チッ……!」

 威力がでかいのは良いことだが、これでは連射ができない。ユエルが忌々しく舌打ちをする(説明となりますが……、「え?ユエルの奴そんな反動受けて大丈夫かよ!爆発すんぞ(笑)」と思われた方。安心してください。ユエルにとって危ない衝撃というのは、あくまで外部からのものであって、手に握った銃なんかの反動は衝撃とはならないんですよ。べ、別にこれっ、あとづけとかじゃないんだからねっ(笑)。お付き合いありがとうございました。本編へどうぞ……)。

 レオナのすぐ傍を弾丸が通り過ぎる。

 ユエルの発砲と同時に、レオナも手に握ったサブマシンガンの引き金を引いていた。

 パラララララララ……と、静かな振動と音。その間、地面とレオナの顔が赤く照らされる。

 レオナが撃ったのはユエルではなく、地面そのものだった。一点ではなく、左右へと弾を散らす。撃てば撃つほど砂煙が立つ。

 レオナが選んだのは、「逃げる」だった。砂煙はそのための「煙幕」。夜中で、しかも周囲の民家からの光はほとんど無いこともあって、人為的に起こした砂煙でも視界を悪くするには十分であった。

「逃がさないですよ!姐さん!」

 レオナの意図に気付き、ユエルは再度引き金を引く。反動など気にも留めず、無理な体勢で一発、二発と撃っていく、が……カチンッ、といきなりあっけない感触が手に伝わる。

「くそッ!」

 リボルバーの宿命、六発という弾数制限。酒場での銃撃戦以降、弾の装填は行っていなかった。

 もはや鉄の塊となったリボルバーを片手に、ユエルは砂煙の向こうへと走った。発砲された弾丸で砂煙には大きく穴が開いていたが、そこからレオナの姿は確認できなかった。

 走りながらユエルは考える。

 レオナに弾は当たっただろうか……。煙のせいで狙いは定められなかったし、ただ乱発したような格好となってしまっていた。

 手ごたえは……無かったが……。


 砂煙が晴れ、視界が幾分かマシになるが、そこにレオナの姿は無かった。

 思わずユエルは奥歯を噛み締める。体の内側が沸騰したように熱くなりかけた、その時だった。地面に黒い何かを発見する。

 血痕だった。

 誰の血なのかなど、考えなくても分かる。

 さっきまでレオナには大した外傷は無かったので、ユエルのリボルバーがレオナを捉えたのだろう。それがどこかまでは分からないが……。出血は、かなりひどく思えた。

 それを見た途端、ユエルの熱が一気に冷め、その場にへたり込んだ。その瞳は緑色に戻り、目には涙が溜まっていた。

「姐さん……無理ですよ……『ジャンク・ジャンク』を、潰すなんて……。『マーダーサーカス(ボス)』を倒す、なんて……。わ、分かってんですか?『ジャンク・ジャンク』には姐さん以上の殺人者が、少なくとも七人はいるんですよ?……その人達が姐さんを狙いに行きますよ……。もう、姐さんに安全な場所なんて……どこにも……」

 地面の砂を両手で握り締め、そこに涙を落としながらユエルは呟いた。もう怒りはどこにも無かった。


 ひとしきり泣き、考えることを止めたユエルは、ふらふらと立ち上がり村を壊滅させた。




「ジャンク・ジャンク」大量殺人課 ユエル・オルティナ

 ――依頼:「ダゼル村の壊滅」 依頼達成


 



 ――――燃える村を、レオナは見下ろしていた。

 最後の一発で抉られた右太ももが痛む。止血は既に終えていたが……、なるほど、改造武器もなかなかやるではないか。遠くからの炎で照らされたレオナの口元が幾分緩んだ。次に会うとき、ユエルはもっとすごい殺人者になっていることだろう。

 ……自分の判断はこれで良かったのだろうか?

 結局は、村人を救うこともできなかった。ユエルを、「ジャンク・ジャンク」から引き離すこともできなかった……。考えてはみるが、答えが出ないように思え、頭を振って思考を停止させた。

 レオナは、しっかりと村の光景を瞼に焼き付けると、棺を担ぎ森の中へと消えていった。


 裏の世界で、「レオナが『ジャンク・ジャンク』を裏切った」という噂が流れたのは、数日後のことであった――――……。

 ――――【次回予告】

 

 怪物は怪物からしか生まれない。ならば、人間が怪物となるその過程には、一体どのような理由が存在するのか。

 妹想いのレクター少年は、何故「ジャンク・ジャンク」の殺人者となってしまったのか……。


 「クラリス……今も羊たちの悲鳴は聞こえるか、それを教えたまえ」


 次回、「ジャンク・ジャンク」

  第8話「カーニヴァル」


 ご期待下さい。

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