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第5話 エースの終焉

 今回台詞少なめ……。

 棺の中にあったのは遺体などではなく、おびただしいほどの量の武器・兵器であった。

 ナイフ等の小型・中型の刃物から、ハンドガン、マシンガン、バズーカ砲……と、あらゆる兵器がびっしりと、そしてきっちりと、棺の中、扉の内側にホールドされていた。そこらへんの武器屋よりも種類があり、質の良さそうな武器が揃っていた。

 遺体は無くとも、レオナの棺は普通の棺……死者が入る「匣」であり、造りも同じなので中は真っ暗のはずなのだが、レオナの前に立つそれの中身はぼやっと明るかった。店の明りで照らされているのではない。うっすらと、ぼんやりと、赤く、明るかった……。

 その光源は棺の天井部分――遺体があるとすればそのすぐ上――に付けられていた。拳ほどの大きさの「何か」が、ぬらぬらと、気持ち悪く武器を照らし下ろす。その色はルビーの様に紅く、その輝きはダイヤモンドの様でもあった。ただ、その色も輝きも本来の半分以下に抑えられていた。何故ならば、それだけが、その光を放つ「何か」だけが、棺の中のどの武器よりも、一番厳重にホールドされていたからだ。いや、ホールドではない。もはや「封印」に近い形で棺に固定されているのだ。それでもその明るさが漏れてしまっている。それだけ、その光は強いものだった。

 ユエルが棺の中のその光を食い入るように見つめる。瞳は好奇心旺盛の子どもの如く輝いていた。目の前のカウンターテーブルの一部が流れ弾で弾け飛ぶも、ユエルは動じず、ただその光を見つめた。ユエルがその光を見るのはこれで二回目であった。一回目は前回の依頼時で、初めてそれを見たユエルは、あまりの美しさに息を呑んだのを覚えている。帰り道、もう一度あの光を見せてほしいと頼んだが、レオナは絶対に棺を開けなかった。もったいぶったり、面倒くさがったりしてるのではないらしく、レオナ曰く「あれは私達の目には見えないが、人体によくない光線を常に放っているから」らしい。だからあれほど厳重に、封印……しているらしい。あんなに美しいのに……。

 ユエルはもうリボルバーを放つ気はなかった。もうその必要が無いから。

 レオナがあの棺を開けた、ということは……そういうことだ。

 そんなことなど関係なく、掃除屋はまだ銃を撃ち続けていた。その全てが鋼鉄の棺の前に弾かれているのに。

 棺を開けたレオナはその中に手を伸ばし、一つ一つ固定されている手榴弾のホールドを「パチン」と外し、一個手に持った。そしてそれの安全装置を外し、無造作に、何の考えも持っていないような表情で、棺の向こうに、山なりに投げた。前方からは隙間無く弾が飛んでいるので、それに当たらないように投げたのだ。少しすると炸裂音と爆風、それから悲鳴が聞こえてくる。棺のせいで状況は分からないが、無事に着弾したらしい。もろに当たったならば死んだかもしれないし、そうでなくとも生成破片で周囲の連中には被害を与えれたはずだ。どちらにせよ、だが。どちらにせよ、殺すが。

 手榴弾を投げ終えたレオナはその後の反応を待つことなく、再び棺の中に手を伸ばしていた。その先にあったのは、レオナ専用武器庫(棺)の中でも最もゴツく、いかついであろう武器。「ガトリングガン」だった。ほぼ棺と同じ大きさで、静かに棺の中で眠っている。レオナはそれを「今日はこの服を着ていくか」以下の気持ちで手に取る。何重にもホールドされたガトリングをパチンパチン……と素早く外す。

 ガトリングガンにも色々あるが、レオナの持つ物は手に装備させる物だった。とはいっても、それはレオナのような、女性が装備することを想定して作った物ではない。屈強な大男……でも一人では持てないこの武器は、十年前大規模な戦争中に、兵器会社がやっきになって新兵器開発競争を繰り広げていた際に、「D&G社」によって作られた一品であった。無論ほとんど誰も扱えないし、むしろ邪魔になってしまうことが多かったため戦場に出回ることはなかったのですぐに製造は中止された。が、僅かに作られたそれが回りまわって、この、唯一の主と言ってもいい、レオナの元に来たのだった。

 その凶悪極まりない兵器を、右腕全てを包む形で装備するレオナ。棺から出すときガシャンと音がする。そしてそのまま右片手だけで空中に固定する。掃除屋達からすれば、棺の横からガトリングガンのみが現れた形になる。ガトリングガンの多銃身に多くの弾丸がかすっていくが、傷一つつくことはなかった。レオナは前方が見えないので狙いなど全く定めず、ガトリングガンの引き金を引いた。

 すぐにはガトリングガンは火を噴かない。引き金を引きっぱなしにしたまま数秒経つと、小さく……ゥイイイイイイイ――……ンン、と起動音のような音が聞こえ始め、そこから一気に火を噴き咆哮を上げる。

 レオナは狙いを定めずゆっくりと、左右に弾を散らしていく。狙いは定めずとも、ガトリングガンは確実に、簡単に掃除屋の肉を削ぎ、骨を弾き飛ばしていった。たった一人、たった一つの武器だったが、その火力はこの場の全てを上回っていた。前方から降っていた弾丸の雨も次第に止んでいき、そして完全に止んだ。

 引き金から指を離し、ガトリングの銃口を下げる。ウウゥゥ――……ンン……とガトリングも再び眠りに入る。床にはたくさんの薬莢が散らばり、ガトリングの銃身、銃口は高熱になり周囲の大気を歪ませていた。

「やりましたねっ!姐さん!」

 言いながら軽々とカウンターを飛び越えてくるユエル。すぐにレオナの後ろにつく。「楽勝っしたね~」

 棺の向こう側は真っ赤だった。壁一面血と肉がへばり付き、床にもそれが散らばっている。壁には蜂の巣よろしく小さな穴が無数に開き、血の赤に気色の悪い斑点を作っていた。

「あ~あ、原型留めてないですよ。これですよね、これが姐さんの真骨頂ってやつですよね~」けたけたと笑い、心底楽しそうに言った。

 レオナは表情を変えず、ガトリングガンをまた丁寧にホールドしていた。

「さぁ~、このまま仕事終わらせちゃいますか!」

 一段と大きく明るい声を出すと、ユエルは「うーん」と、いっぱいに身体を伸ばす。

 棺にガトリングガンを納め終えると、レオナは一瞬目を閉じた。パシャ、パシャ、パシャ……と、先ほどの光景がスライドショーの様に蘇る。見てもいないのに、人間の肉が飛んでいき、血で染まっていく酒場が見える。そしてそれはいつの間にか別の光景に変わっていく。今まで自分が殺してきた人間や、壊してきた町や村の光景。悲鳴さえも耳の奥で延々とリピートされる。それが終わると今度は「アレ」だ。アレが来る……。


 泣いている。

 ……誰が?

 ……分かってる。

 私だ……。私が、泣いているんだ。二十年前の私。突然村が襲われ、親も、友達も殺されて怖くて仕方がなかった、私。

 そんな私の前にあいつは来るんだ……。返り血一つ浴びてない、あいつが……。そして、そこから全部黒くなる……。


「――――ッ!」

 目を大きく見開く。荒くなった呼吸を整える。軽く頭を振る。

 何だというのだ……。なんだってあの時の光景が蘇るのだ。忘れたつもりだったのに。最近はいつもこうだ。人を殺すと……いつも、こうだ……。

 自分の手を見る。全く汚れていない。それでも、レオナには、血と、血と、血で汚れているように見えた。ずっと遠距離から人を殺せる武器を使ってきたが、それは人を殺す感触が手に残らない……から。子どもの時分でも簡単に人殺しできたから……。それが、今でははっきりと感触が残るのだ。これが、殺人者として一人前になった証なのか、それとも弱くなったのか……分からない。

 マーダーサーカスには感づかれているようだが、この気持ちは隠し通さなければ……。自分が耐えられなくなって壊れそうになっても……。それに今、この状況。ユエルにだけは気取られては……。

 そこまで思い、ふと入り口に目を向ける。

 レオナのその行動は、本当に何となくで、理由なんて何一つ無かった。

 レオナの目が、ゆっくりと見開かれる。思わず息を止める。

 そこには、入り口には……。

 子どもが、いた。小さい子どもだ。幼いので男か女かもはっきりとは判別できない顔立ち。その顔が恐怖で怯えている。

 何故だ……?何故こんな所にいるんだ?子どもは、もう寝る時間だろ。銃声で目を覚まし、特有の好奇心でここまで来たというのか?

 何なのだ!この場所が危険だと、そういう危機察知能力が無いのか子どもというやつは!

 心の中で叫ぶ。レオナは気付いていない。自分が今思ったその気持ちが、殺人者として既に駄目になっている証拠だということに……。

 どうすればいい……!あの子どもを、どうすれば!

 自分がここに何をしに来たのかさえ忘れてしまっているレオナは、頭の中で必死に考えた。自分だけならまだしも、ここにはユエルがいる。ユエルはこんなに小さな子どもであろうと、容赦なく殺す。それをレオナは知っている。だから今必死なのだ。

 レオナも子どもも硬直していた。そこにのんびりとした、それでいて二人をどん底に落とすには十分な声がはっきりと聞こえる。


「あっ!がきんちょ発見!」


 そこからユエルの行動がスローモーに映る。ためらいなくユエルは銃口を子どもに向けようとしていた。

 レオナの目も、子どもの目も、ユエルのリボルバーへと向けられる。

 こいつは引く。何の躊躇いもなく引き金を引く!子どもに弾が当たる高さまで来ると、すぐさま引く!

 ついさっきまで無表情だったレオナの顔が、余裕無く歪む。

 そこでまたフラッシュバック。


 死んだ……。殺された……。死ぬ……。自分も、殺される……。

 あの時の恐怖は一生忘れない。忘れられない。完全に生殺与奪を握られて、気分次第で殺されてしまうあの恐怖……。

 入り口にいるあの子ども、怖いのだろうか。表情はそうだが、どうなのだ?私みたいに怖がっているのだろうか……。

 パシャ――。

 ……私は助かった。だが、あの子どもは死ぬ。このままいけば……。

 そうだ……あれは……。

 あれは……。

 あれは――……!


「あれは私だッ!」


 ズガアーン、と轟音が響いた。

 ――次回!予告!


 暑いよね。蒸し暑いよね。

 ていうか、実家って……やっぱ良いよ。


 期待しててね!

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