第4話 大量殺人in酒場
この回の話……映画で観たようなかんじするな~。B級ホラー映画ばっか観てた頃。
「ジャンク・ジャンク」自体それを目指しとるわけですが。
一瞬にして状況が変わる酒場。賑やかだった空気は、凶悪な殺気へと変化していた。
「なん、で……ボク達が『ジャンク・ジャンク』だって……分かったんスか……」状況が信じられないのか、驚きと不安を混じらせた声を出すユエル。
そのユエルの質問に対して、周囲からは大小様々な笑い声が漏れる。
店主……だった男も口元を歪めて笑っていた。「てめえらは自分のことを客観的に見れないマヌケかぁ?」
「……ッ……」男が何を言っているのか理解できない様子のユエル。
対して、レオナは未だ身動き一つ見せずに店主だった男を見つめていた。
「普通の女が、そんなでかい棺背負える訳ねえだろうがッ!」
一瞬ほとんどの視線が、レオナの棺に注がれる。
「それに……」
店主風の男は更に続ける。
「その『黒鋼鉄』の棺を背負っているってことは、お前……レオナ・ジーンサイドだろ?」
得意げに銃口をレオナに向ける。
今度は全員の視線がレオナへと……。ユエルが弱弱しい瞳でレオナを見つめる。
たっぷりと……しかし、ほんの少しの間を空けて、レオナが口を開いた。
「そういうお前達は『掃除屋』か何かだな?」
レオナがそう言った瞬間、場の殺気がまた一つ高まった。それと同時に、店主風の男が銃口をさらにレオナに近づける。笑みは無く、必死の形相だった。「ヘイッ!……勝手に喋ってんじゃねえぞ。言ったろ?状況を見て喋れ、ゴミが」
レオナは男に一瞥をくれると、目を瞑り黙った。その態度に気を良くしたのか、男は再び口元に笑みを浮かべる。かといって、そこに余裕などというものは一切含まれていなかった。
「そうだ。お前の言うとおり、ここに居る人間は全員、この村に雇われた掃除屋だよ」じっとりと額を汗で濡らす男。
「最初はそこのガキだけが来るって聞いてたんだが……まさか、お前みたいな上物まで付いてくるなんてなぁ」
ユエルは男の話など聞いていない様子で、ただレオナに視線を送るだけだった。しかしそのレオナは目を閉じ、何も言わない。そろそろユエルにも限界が来ていた。ここに居る連中全員を殺したい衝動に駆られる。手に握るリボルバーの引き金を引けたら、どれだけ幸せだろう。
……だからといって、勝手はできない。レオナが黙っている今、自分が動くわけにはいかなかった。
「さっさと殺すつもりだったが……こんなチャンス滅多に来ねぇからな……。お前らには色々聞かせてもらうぜ…『ジャンク・ジャンク』のことをな!」
「えっ!」男の言葉を受けユエルが声を出す。「ぼ、ボク達に聞く…って……体にってことですか……?やん!姐さん、ボクら輪姦されちゃいますよ!?」ユエルが体の前を押さえ、恥らうジェスチャをとる。
ユエルの反応。店主風の掃除屋は怒るでもなく、口の両端を醜く上げた。
「そうだな。お前らすぐに殺しちまうには、惜しい体してるからな……。オレら全員の相手してもらおうか?」くくく、と含み笑う。
再びレオナの反応を窺うユエル。レオナは呆れたようにため息を吐き、目を半分開けていた。それがレオナの無言の指示だった。
ユエルの表情に変化が訪れる。にやぁっと口角が上がった。
……ようやくだ。ようやく、こいつらをぶっ殺せる!そして言ってやる。
「そいつはヤ!っすね~……。あんたらみたいな弱い連中のなんて、『粗ちん』に決まってますからねぇ~!!」
完全にバカにしたように笑うユエル。
「おい、いい加減にしろ。私の品性まで疑われるだろう」
やれやれといった感じに大きく息を吐くレオナ。
店主風の男。名前は語らないが、この掃除屋の男。ドライアイスの様に冷めた怒りが、ふつふつと沸いてきていた。
なんなんだ。
なんなんだ、こいつら……。
状況見て喋ってんのか?何だ、アレか?
「……てめ――――ら……。てめ――――――――ら……ほんと……」
それさえも分からない………バカなのか?
「ほんと……てめ――――ら……もう知らねぇ……もうお前ら……ここで死ねぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁ!ごぉぉぉぉぉぉみぃぃぃぃぃぃぃいがぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!」
「ジャンク・ジャンク」の情報?んなもんもうどうでもいいわ。あんなゴミ溜めのゴミ野郎共のことなど知らなくとも、オレら掃除屋が本気出せば、いつだって潰せるんだよ!
引き金を引いた。これでゴミは掃除された。「ジャンク・ジャンク」の上位殺人者、レオナ・ジーンサイドを殺った。く、くくく……これで、オレの名前も明日には全世界に広がる。
はあ。あれ……。
……アれ……?なんだ、これ……。
あ。なんと不思議なことに、男の手首が有り得ない方向に曲がっていた。レオナに向けていた拳銃が、今は自分に向いていた。
男の背筋が一瞬にして凍りつく。
い、いつ……!いつ、自分は……!
「どうした店主?引き金が引きたいのか?」レオナが穏やかな笑みを向けてくる。
油断?油断などしていないッ!目の前にいるのは「ジャンク・ジャンク」の殺人者なのだ。それも一人は上位の殺人者なんだぞ!細心の注意は払っていた……。なのに……それなのに……!どうしてこうなった!これが、これが「ジャンク・ジャンク」の殺人者だというのか!
「しょうがないな。代わりに私が引いてやろう」
レオナがそっと男の手に自分の手を添える。指は引き金に。
「や、やめろ……」ひゅーっ、ひゅーっと息が漏れていく。全身の血の気が失せる。
なおもレオナの笑みは絶えない。人を絶望に突き落とすには十分の微笑みだ。
「あと、余計なお世話かもしれないが……、この村に掃除屋の類がいることは、村に入る前から分かっていた。貴様達の方こそ、自分達を客観的に見れないマヌケか?今度生まれ変わったら、もっと上手く殺気は消すんだな」その場に居る全員に語りかけるように、言った。
レオナから笑みが消える。そして、引き金に力が入れられる。
「待てまてまてまてマテまてまてマテまて!!!!!」
パアーンッ―――……!
乾いた銃声が響く。店主風の掃除屋の眉間には穴が開き、体は力なく後ろへと倒れていく。
ドサッ。
仰向けに倒れた男の頭部を中心に、血が溢れ出す。
「これを料金代わりにしてもらおうか」そう言ってゆっくりと立ち上がるレオナ。手にはさっきまで男が握っていた拳銃。
「ひっ!」
レオナの肩に手を置いてきた男が一瞬後退る。瞬間。
ズガア―――ンッ!
と、轟音が響いた。そして、ゴトッ……と、左半身を削られた死体が出来上がっていた。
ユエルのリボルバーが火を噴いていた。改造銃だけあってその威力は凄まじく、たった一発でも人間の肉体を吹っ飛ばしていた。同様に反動も凄いらしく、ユエルの体は数メートル後ろのカウンター席にまで下がっていた。片手で帽子を押さえていて表情は窺えないが、ヘラヘラと笑っているようだった。
「うっ……!」残ったその他大勢の男達はまだ何が起こったか解らないらしく、握った銃の引き金を引き損ねていた。
立ち上がったと同時にレオナから凶悪な殺気が放たれる。感覚的なものだろうが、空気が極寒のそれのようになり、背筋に氷を押し付けられたような錯覚に陥る。……動けなかった。何より怖かった。空気が、この場所が、レオナが。
が、ただ一人、その中でもうっとりとした…恍惚の表情を浮かべる人物がいた。
(キタキタキタキタ――――!姐さんの殺気!一流の、殺人者の殺気!た、たまんない……!)
レオナがおもむろに、隣に立てていた棺の鎖を掴む。そこから、溜めを作ることなく腕を横に振る。
ドジャラララララララ……!
ズシャッ!
棺が空を切り、鎖が伸びていく音。そして何かにぶつかる音。
「あ……あれ……お、オレの……!」
棺は入り口横の壁に突き刺さっていた。その場に居た掃除屋の体を貫通して。半分ほど壁に食い込んだ棺の上に、掃除屋の上半身が乗せられ、その上にジョボジョボと、絶えない水のように鮮血を勢い良く広がらせていた。黒鋼鉄の棺がてかてかと、赤く照らされる。もはやただの「物」となってしまった下半身は、同様に血を滴らせながらドシャリと床に倒れこんだ。
「あ………っはははははは!そ、そんなんじゃ……もう……く、くく……男としての悦びは!一生得られませんね―――――ェ!」
離れた場所で甲高く、心底おかしそうに笑いながら、ユエルが言った。「だーから……ボクが殺してあげますヨ☆」
ガア―――ンッ!
再度ユエルのリボルバーが火を噴いた。今度は両手で構え、背をカウンターに預けた、しっかりとした撃ち方。そのせいで帽子がずれ、顔のほとんどを隠されてしまったわけだが……。
入り口近くの壁に大きな穴が開く。棺の上にいた男は、内部から爆発したかのように吹っ飛び、ただの小さな肉片となっていた。棺には血と、それらの肉が溢れかえっていた。壁にも血と肉の赤が。
「……っひ…ひひ。……アあ―――……バカみてえ~……す、スイカじゃねーんだからよ……んな…見事に吹っ飛んでんじゃねーよ」
表情が完全に帽子で隠されているユエルだが、少しだけ見えるその口元は、大きく上に吊り上っていた。
残った掃除屋連中は入り口付近に目をやる。ゆっくりと首を動かし、壊れたブリキ人形の様に。
それでようやくレオナの殺気から抜け出せれた。入り口近くにいた仲間が殺されたことは、彼らに「逃げられない」という暗示を与え、恐怖心を麻痺させた。
リーダー格であった店主風の男が殺されたことで、指示系統は麻痺し、さらに二人の仲間が殺されたことで、それはますますぐちゃぐちゃになった。
「逃げられないなら、殺るしかない!」
男達の頭はそのような考えに支配される。それが到底叶わぬことで、愚かな考えであることには誰一人気付かない。気付いたにせよ、気付かなかったにせよ、待っているのは絶望なのだが……。
相手は二人。こちらはまだたくさんの人数が残っている。できないことはない!
それだけが掃除屋全員の共通の希望。
一人の掃除屋が震えた声で叫ぶ。
「ぅぅぅううううてぇぇぇぇえええ!!!!!」
それが引き金となり、掃除屋全員の銃から火が噴かれる。
パンパンパンッ!ガンッ!ズガン!ガンガンッ!バーンッ!ズキュン!ギュンッ!バンバンバンッ
………!
十数人の掃除屋が全弾発射し、そこかしこから銃声が響く。
「うひゃあ!」
全く緊張感の無い声を出し、ユエルはカウンター席の向こうへと素早く潜り込む。銃声によりかき消されていたが、どうやら声を出して大笑いしているようだった。
「アハハハハハハ!バカじゃないの!?仲間三人も殺られてようやく反撃なんて、本当にプロかよ!素人だろ!アハハハハハ!アハッ!アハハハハハハ……」
レオナも素早く動いていた。全員が引き金を引くより一瞬早く、手に巻きつけていた鎖を、くん、と手前に引っ張り、棺を壁から引っこ抜く。血肉を飛び散らせながら棺は空中に浮く。その際レオナは鎖を巧みに動かし、その辺りにいた他の掃除屋達に棺をぶつけていく。「ぽぎゃ」「じゅる!」と、声にもならない声を出し、掃除屋の頭部や体の一部が削り取られていった。
パンパンパンパンパンパン……!
店主風の男から奪い取った拳銃の引き金を、狙いも定めず適当に引きまくるレオナ。一点ではなく、色んな方向に銃口を向け発砲するが、それでも視線は棺に向けられたままである。弾切れするまで撃ちまくると、迷うことなくその拳銃は捨てた。
掃除屋達の殺気と銃口はほとんど全てレオナに向けられていて、まるで雨のように、弾丸がレオナへと降り注ぐ。
その様子を、カウンターからひょこりと顔だけ出してユエルが確認、というか見物する。その目は面白い見世物か何かを見る子どもの様だった。
バカだな、本当。
ユエルは店内全体を視界に収めながらそう思う。
撃てば当たると思ってんのかな?当たんないよ。心に決めて、決意した人間だけだよ、人を殺すために撃った弾を当てることができるのは。なんか笑ってるヤツも何人か居るけど……。姐さんが弾切れしたから安心してんのかな。棺だけじゃ戦えないって思ったりして、さ。
だとしたら、マジでマヌケだよね。姐さんのこと知らないの?
「大量殺人課」序列第二位の殺人者なんだよ?
レオナは全く、一歩もその場からは動かなかった。かといって、雨のような弾幕を避けようとも、防ごうともしなかった。ぐいっと、棺を手元に引っ張る。数人の掃除屋を葬った黒鋼鉄の棺は、小さく弧を描いて戻ってくる。その間、どうしても避けられない弾などがあると、一瞬でコートを脱ぎ、それを思いっきり縦に振った。振り終わるとそこからは、カランコロンと弾が転がっていた。
ユエルは知っている。あのコートは、今はもう絶滅してしまった超希少種の昆虫からのみ採れる糸で作られた、レオナしか持っていない超レアアイテム。防寒・防塵はもちろん、防弾だって完璧だ。
死角から来る弾丸もレオナはそれで防いでいたが、そういった場所にいる人間はユエルが次から次へと撃ち殺していった。
ゴ……ズン…ン……!
レオナの前に棺が戻される。これにより前方からの弾丸は全て棺に弾かれていく。それでも男達は撃つのを止めなかった。撃っても無駄だということさえ解らなくなったか、この人数で撃ち続ければどうにかなると思っているのか、もしくはそのどちらかか。ギギギギギギギギギギン……。空しく弾が弾かれる。
レオナは無表情で棺の蓋を見つめ、強くも弱くもない力で、それを殴った。ガン、と。
すると、今まで硬く閉ざされていた棺の蓋が「バンッ」と、内側から開いた。
次回!予告!!
なんだよ!イナズマイレブンって何だよ!最近の子どもってマジにああいうのにハマってんのか!ベイブレードは分かるよ!ポケモンだってデュエマだって分かるよ!(あの黒いボードも分かるよ)でも、イナズマイレブンて……なんだよ!
くっそ~!でも、アニメもゲームも調子が良いようで。デヘヘ。
サッカー自体よう知らんオレにはよう分からん!
次回……ご期待してろよ。