第3話 日暮れと共に・・・
ようやく村到着……。
サブタイ考えるのがむずいです。
相変わらずレオナ達の歩く道に変化がないまま、また数時間が経過していた。日も暮れかかり、空は黄昏色に染め上げられていく。両脇を木に囲まれているため、時間帯以上に周囲は暗く感じられる。
「ま、まだですか……」
ユエルが疲れきった声を出す。レオナはただ黙って歩く。
目的地である「ダゼル村」に何時着こうが二人には何の問題もないのだが、できることならさっさと終わらせ帰りたいのが正直な気持ち。
「ねえ、姐さん、道……合ってますよね?ね?」心配そうにユエルが訊ねてくる。
「知らん」冷たく言い放つレオナ。
レオナは付き添い……更に言えば、報酬金も一切貰えないのだ。道順が間違っていようがいまいが、レオナを責められない。それをユエルも理解しているのか、レオナの返事に何も言わず、ぐったりとしたまま歩き続けた。
少しすると道が開けてきて、山の景色が二人の目の前に広がった。二人が出たのは小高い丘のような場所で、その眼下にはぽつぽつと明かりが見えていた。山に囲まれた小さな山村「ダゼル村」だった。
「や、やっと……着いたぁ……!」ユエルが感動の表情を浮かべる。
ユエルはすぐに、帽子を押さえながら坂道を走り下りる。中間まで下ると、レオナの方を振り向き「姐さんなにやってんですか!早くしないと日が暮れちゃいますよ!」と、手を振ってきた。
レオナはまだ坂道を下りることなく、じっとダゼル村を見下ろしていた。
なんとか持ちこたえていた夕日が、完全に山の向こう側へと沈んでいく。完全な闇に支配されていく空間の中、ダゼル村の明かりだけが、唯一の光となる。……が、レオナにはその光が一番の暗黒色に見えた。
生暖かい風が頬を撫でていく。目を細め、坂道を下り始める。嫌な感じだった。
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「おじさーん!お酒もらえますか~!二つ~!」
「ハハハハ!そちらの方はともかく、おじょうちゃんはまだ未成年でしょう?お酒は、まだ早いよ(どーでも良いですが、この世界での飲酒は成人してからです。ちなみに二十歳で成人ですよ)」
「ええ~!固いこと言いっこなしですよう!(副音声:どっちにしたってお前らは今日殺されるんだからさー)」
ダゼル村内にある大衆酒場。現在レオナ達はそこの、中央のテーブルについていた。二人が入った時、店の中にはまだ客は少数であったが、二人が入ってくるとそれらの視線が一点に集まった。レオナの背負っている棺。外でも相当目立つというのに、屋内に入るとその存在感は一層高まった。騒がしかった店内がその時だけ静かになる。
しかし、しばらくすればその違和感も薄らいだのか、また店内はガヤガヤと賑わいはじめた。
店はレオナ達以外皆男で、しかもそのどれもが屈強な体つきをしていた。周りが山に囲まれているので、林業関係や猟師が多いためだろうか。
「おじさん、お肉の量サービスしといてくださいね(副音声:じゃないと、あんたらの死ぬ時間が早まりますからね)」
「はっはっはっは!もちろんだとも。ウチはお嬢ちゃん達みたいに若くて可愛い子はなかなか来ないからね。今日はいっぱいサービスしてあげるよ」髭のよく似合うガタイの良い店主風の男が、大きな声で笑った。
いつの間にか店内は客でいっぱいになっていた。そういえば、ちょうど仕事が終わる時間帯だ。後から入ってきた客も、まずはレオナのすぐ横に立てられている棺に一瞥をくれる。
ガタイのいい店主と客がいる店……の割には店は小ぎれいだった。外装も内装もウッド調の落ち着いた造りで、中は明るい。レオナ達のテーブルのすぐ前にカウンターがあり、その奥の棚にたくさんの酒のボトルが並べられている。汚らしさはどこにも無い。
「姐さんまたサーモンサラダですか?前もそうでしたよね。ボクは断然お肉ですけどね~。特に仕事の前は」
テーブルに頬杖をついたままのユエルが、カウンターの向こう側を見ながらそう言った。
「……」
レオナは何も言わず、腕を組み目を瞑っていた。
言わなくても分かるだろうが、レオナ達は今食事をしようとしていた。想像に難くないように、別に食事なんてしなくても良い。村に入った途端仕事を開始しても、全く問題は無くその方が奇襲にもなるし、すぐ終わる。無論そういう殺人者もいる。が、ユエルは違った。腹が減っていたらまずは食う。疲れていたら宿ををとり、一泊してから仕事する。そちらの方が何かと得に思えたからだ。何をしたところで金は払わなくて良いんだから。
レオナもすぐに仕事をするタイプではなかった。今回はユエルに合わせて行動しているが……。
酒場を選んだのは、その村の情報がよく集まるからだった。村のことを知っていれば攻めやすくなるのも事実。ユエルはそんなこと考えていなさそうだが。
しばらくすると二人のテーブルに、注文していた料理が運ばれる。レオナはサーモンサラダ、ユエルはビーフステーキ(数グラムサービス)。
「きたあッ!」よだれをたらし、ユエルが両手にフォークとナイフを装備する。「いただきまーす!」
ガッ!
「え、あ……あれ?」
今頃柔らかな肉にフォークとナイフを突き刺しているはずなのに、ユエルが突き刺していたのはウッドテーブルだった。フォークでつけられた小さな穴が、四つ出来上がっている。
ステーキが消えている。驚きユエルが顔を上げる。すると、すぐにステーキは見つかる。
「ちょっ……!何やってんスか姐さん!」
さすがに怒りを含めた声を出すユエル。ユエルの目の前にあるはずのステーキは、レオナの手に乗せられていた。ミディアムに焼かれ、鉄板の上でジュウジュウと音と肉汁を出すステーキ。その下の木板を片手に置いている。
ユエルの言葉を無視し、レオナはナイフで手際よく肉を切り取り、それを口に運ぶ。
「む。美味い……。いたって普通の肉のようだな」何事もないように料理の感想を述べる。
「当たり前でしょッ!」若干涙目のユエルがステーキを取り返す。「食べたいなら自分で頼んで下さいよ!姐さんお金いっぱい持ってんでしょ!」
払う気など無いくせに。レオナはそう思いつつ、自分のサラダに手を伸ばした。
ユエルはまだ警戒しているのか既に何切れかの肉を口に詰め込んでいた。
「うあー……食べた食べた~」
量的に見ても明らかにユエルの方が多かったのに、先に食べ終わったのはユエルの方であった。レオナはまだもくもくとサラダを食べている。
満腹になったせいかユエルの頭はボーっとする。この後どうしようかなぁ……やっぱりこの酒場からぶっ壊していくかー。そういったことを考える。
と、その時―――……。
レオナ達の斜め後ろのテーブルについていた男が、立ち上がりこちらに近づいて来る。ボーっとその男を視界の端に収めるユエル。その男はレオナの背後にまで来ると、レオナの肩に手を乗せて言った。
「姉ちゃん、この後ヒマかい?」
にやにやとねちっこく笑う男。レオナは男を無視し、相変わらずサラダを食べる。
次の瞬間、「ガシャアンッ!」と何かが割れる音がする。
ユエルの前にあったステーキの鉄板や、ガラスのコップが床に落ち無残に割れていた。
テーブルの上には皿やコップの変わりに、安全靴が乗せられユエルがめいっぱい体を男に近づけている。右手にはリボルバーが抜かれており、冷たい銃身を男の喉元に突き付けていた。
「……おい、汚ない手で姐さんに触ってんじゃねえよ」
口元にうっすらとした笑みを浮かべ、ドスのきいた低い声で凄むユエル。無論目は笑っていない。
さすがにレオナも食事するのを止め、横目だけでユエルの持つリボルバーを見やる。
「……お嬢ちゃん、そんなおもちゃじゃ驚かないよ?」男が宥めるように言った。目線はリボルバーではなくユエルの目に向いている。
「おもちゃかどうか……試してみるッスか?こっちは全然構わないんですけど?」
嘘ではない。この村を壊滅させに来たのだから一人や二人殺しても何の問題も無い。そして、こういうなめた感じが余計にユエルを苛立たせる。
店に居た客全員の視線がユエルへと向き、リボルバーに向く。ざわざわと騒ぎ始める。
「ちょ!ちょっと!お客さん!」
たまらず店主が飛び出して来る。
「店の中で揉め事は……」
必死でユエルと男のいざこざを止めようとする店主。すると、無造作に片方の手をエプロンの裏側に伸ばす。
そして。
「困りますねぇ……」
さっきまでとは一変した口調だった。同時に「カチャッ」と音がし、拳銃がユエルに向けられていた。
「……は?」
状況が理解できず、ユエルが声を漏らす。「なん、スか……これ」
「おっと、動くなよ?ちょっとでも動いたり、おかしなマネしたら……」
店主がそこまで言うと、周りから「ガタッ」という音が次々と聞こえ……カチャ、カチャッ、ガチャッ、カチャッ……という音が続いた。
見回さなくても分かった。今まで酒を飲み、談笑していた男達全員が席を立ち、その全員が拳銃を握りユエル達に向けていたのだ。
「お前ら蜂の巣ってわけだ」ニヤアっと笑う店主。
「い、意味が……」そう言うユエルの手を煩わしく払い、リボルバーを自分から外す男。
「お前ら、『ジャンク・ジャンク』の殺人者だな?」銃口をユエルに向け、笑ったままの店主。
未だ状況の理解ができないユエル。そして、顔色一つ変えないレオナ。今回の仕事、どうやら簡単には済みそうにはなかった―――……。
―――次回!予告!!
暑い!蒸し暑い! そんな夜……皆ならどうする?
おれは・・・・・・・・・・・・我慢できなかったら冷房つける♪
ご期待してな!