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第8話 地獄


 地獄への道のりはかなり厳しかったが何とか到着し、スグに罪人の刑場などを見て回った。

 ここはある意味想像通りの場所だ。しかし、そのあまりの凄惨さに俺もゲツもスグに吐き気を催した。

 

 そんな地獄であの閻魔女王様と再開。閻魔庁での判決通り、犯した罪の償いをした。

 俺の場合は追体験の刑だ。それは己の脳内においてあの女子が受けたモノと同じ苦しみを味わうという刑。

 この刑により俺は彼女の本当の苦しみを知り、改めて深く反省したし、ショックが大きすぎて刑が終わった後もなかなか立ち直れなかった。

 しかし、休む暇もなく次の日から俺は地獄の各職場を回った。もう一つの刑として言い渡された労役の為である。


 そして瞬く間に20日ほどが経過した。


 今日の職場はこの地獄の本部のIT部門だったのだが、そこで一人の老人と知り合った。ウエヤマと名乗った彼もまた犯した罪の最後の刑でこの職場に来たのだと言う。


 そして仕事帰りに、何故か街の繁華街で食事をご馳走になることになった。

 そう、この地獄にはちょっとした繁華街があったのだ。


 相変わらず食欲は無かったハズなのだが……。

 何故か運ばれてくる料理を見たら急に食欲が湧いてきて、どんどん食べてしまい酒も飲んでしまった。


 ウエヤマさんもさらに上機嫌になり、会話も盛り上がる。


 というのも、このご老人はお年に似合わず大のアニメファンだったからだ。

 そして、語る内容は、アニメ愛に溢れている。

 思いがけず好きなアニメの話ができて、異常に楽しくなってしまった。

 さらに、久々のお酒が効いたのか、どうやらかなり酔っ払ってしまったっぽい……。


 その内、ウトウトしてきて……



 …………



 少し、眠ってしまっていたようだが、ふと目覚めると、なぜだか見知らぬ部屋のテーブルに突っ伏していた。

 

 なぜ、そんな部屋にいるのか、さっぱり覚えていない……。


 目の前のウエヤマさんは、ニコニコした顔でこっちを見ていた。


「千造さん、お目覚めですかな?」

「あ、す、すみません、かなり酔ってしまったようで……」


「それなら、これを飲みなされ」

 と、ウエヤマさんから渡されたコップには、どこかで見たような緑の液体が入っていた……。


 あまり深く考えず、それを一気に飲み干す——

「……げ! ……に、苦ぁーーっ!!」


 その苦味を感じた途端、意識が冴え渡った——あ、こ、これ! 死神の大鎌、シャル子だったか…にブッかけられた酔い覚ましの薬と同じやつでは……。


「さて千造さん、意識がハッキリしたところで本題に入りましょうか」

 そう言うと、彼の身なりが一変して真っ白なローブへと変わった。


「え……? ウ、ウエヤマ……さん?」

「すまぬの千造さん。騙すようなマネをして……。先ほどまでの姿はの、ワシがまだ人間だったころのものじゃ」

「は、はい?」


 ウエヤマさんは少し背筋を伸ばし、名乗った。

「わしの正体はのぉ……、ア、アニオタ神……ウエヤーマンである!」


「…………。は?」

 突然の宣言。

 な、なんだって? か、神………? ってかアニオタ神って何!?


 ウエヤマさんは少し顔を赤らめつつも、ニコニコ笑顔で座っていた。


「か、神様……? …………は、はいぃ〜〜??」


 先ほどまで唯のおじいちゃんだったウエヤマさんが実は()()だったという展開に、頭がまだ追いつけずにいた……。


「ハッハッハッハッハー!」

 ウエヤマさん……、も、もとい、ウエヤーマン様は若干大袈裟に大笑いしているように見えた。


「あ、あの〜、こ、これは一体どういう状況なんでしょうか?」


「わしはお主に会うために、お忍びで地獄まで来たのじゃ」

「わ、わたしに会う為に?」


 ウエヤーマン様が神様であることは本当な気がするけど……。


「まぁ、公の場でワシが囚人と会う訳にもいかんしのぉ。まして地獄で会うなど以ての外」

「そ、そうなんですね」

「それでのぉ、まずは周囲を欺く為に囚人に成り済ましてココに潜入したのじゃ」

「な、なるほど……」


 この部屋は彼が作った結界の中にあり、地獄の民に気づかれる事は無いとのこと。

 初めての『結界』体験に、心が躍ってしまったのは言うまでもない。


「さぁ、では、本題に入ろうかのう……」


 そう言って、神、ウエヤーマン様は語り始めた。

「実はのう……、ゴホンッ! ……人類が滅亡する時が、大幅に早まってしまった様なのじゃ!」


「え? …………。は、はいぃーーーっ!?」


 俺はこの唐突で重すぎる話題に、また頭の回転が追いつけなくなった。


「わしの神友(かみとも)に予知夢の神というのがおっての……。彼女がそうなる夢を見てしまったのじゃ」

「よ、予知夢の神様……」

「そして、その大元の原因は現代社会における神仏や地獄軽視の風潮にある、と言ったのじゃ」


「え……、そ、そうなんですか…………。い、いや、でもそんな事で本当に人類が滅亡までしてしまうでしょうか……?」

「神仏や地獄軽視とはすなわち、罪を顧みず悪事や罰を恐れない風潮の事じゃ。その行き着く先が人類滅亡……。この流れは、やはりお主にも信じがたい事かのぉ?」


「……い、いえ…………。実は……その……そういう可能性について考えてみた事があります」

「何! なんと……!? 本当かお主!?」

 ウエヤーマン様は少し驚いたように目を見開く。


 そこで俺は以前考えた事を話してみた。


 ……


 話し終えると、ウエヤーマン様は考え込むような仕草をしたが、腑に落ちたようにウンウン頷きはじめる。そして嬉しそうに目を輝かせて俺を見つめてきた。


「それはもう避けようが無いんでしょうか?」

「うむ……。このまま何もせずに放っておけば、そうなのじゃが……。実は彼女はもう一つ別な夢も見ていてのぉ。それは、お主が出てくる夢だったのじゃ!」


「え? えぇーーーっ!? な……何で……わたしが? って言うか、予知夢の神様は私の事を知ってたんですか?」

「いや、お主の事はその夢の中で初めて知ったと言っておった。無論ワシも、お主の事をそこで初めて知ったのじゃが……」

「で、ですよね……」


 突然自分がそんな夢に登場したと聞いて、動揺すると同時に何か心をくすぐられるものを感じてしまった。


「……その夢の中で、お主はのぉ……」

「ま、まさか……私が人類を救う、とか言うんじゃ無いでしょうね?」

「それがのう…………」


 俺はゴクリと唾を呑み込む。


「……よー分からんのじゃよ……」

「……え……? ええぇーーっ!? な、なんなんですか、それーーっ!?」

 俺は久しぶりにズッコケてしまった。


「いや、彼女が言うには……、その夢は彼女にとっても何とも不思議な体験だったらしくてのぉ。……そしてそれ以来、度々同じ夢を見てしまうそうなのじゃ」

「は、はぁ……」


 ウエヤーマン様が言うには…………、予知夢の神は自ら見ている夢の中で、彼女が以前に見た夢——つまり『人類滅亡の話』をウエヤーマン様に話すらしい。

 すると突然場面が変わり、その夢の中に俺が現れると言うのだ。

 そして……『この夢の存在は人類滅亡の未来を変えられる可能性を秘めている』と彼女が言っているらしい。

 また、『この件について天ノ生千造が大きく関わってくるのは間違いないハズだ』とも。


 た、確かにそうでなければ、そんな予知夢に俺なんかが出てくるハズが無いんだろうけど……。


「……さて……、それで人類滅亡をどう阻止するかなのじゃが…………」

「……ハ、ハイ…………」


 神様が真剣な表情になって俺の目を見つめる。

「実はのぉ……わしが人間界に行って、直接活動するようなコトはできぬのじゃ」

「え? ……えぇっ!? それはどうしてなのですか!?」

「それが現在の神界のルールなのじゃ。神が、現世の地球に降り立って特定の勢力の為に活動する……その様な事は禁じられておるのよ。不文律の禁忌ってやつじゃ」


 神様が続ける。

「……まぁ考えてもみよ。一方を助ければ他方に被害を与える事もある。そこに複数の神々が各々の目的で参戦すれば、カオス状態——いや、いつの間にか神々による大戦争を引き起こし、人類どころか六道や他の世界までぶっ壊れて、正にカオスに逆戻りする恐れすらある!!」


「ひょえ〜〜〜!?」


「……だから、わしの代わりに隠密で働く者が必要なのじゃ!」


「……そ、それがわたし、と言う事ですか……」

「そうなのじゃ! 千造よ、わしの代わりに働いてくれぬか!?」


 ウエヤーマン様は藁をも掴む表情で、それでも僅かな期待に目を輝かせ俺の目を覗き込んできた。


 な、なんか、この流れ、やるしかなさそうだよね……。


 えーい、ままよぉっ!

「わ、分かりました! や、やりますよ……ってか、是非やらせてください!」


「おーーー! おうおう、うんうん。よくぞ申した千造よ! それでこそ我が信者じゃ」

「は、はい……」


 だがしかし……まだ問題がある!


「……あ、あのう…………」

「なんじゃ?」

「あ、あのですね……私には何の力も無いのですが、そんなんで本当にお役に立つ事ができるのでしょうか? ……さらに、結局具体的には何をすれば……?」

 こ、こう言うのって、本来もっと……ヒーローとか、超有能な人材に任せるべきでは……?


「それに私、今は霊魂で、まだこの地獄の囚人で……。刑期を無事に終えたとしても、その後、人間に生まれ変わって現世に戻れると決まっている訳でも無いのですが……その辺りの事はどうなるんでしょう……?」

 そ、そうだ。それに閻魔女王様からは刑期が終わったら使命を与えると言われてたんだった。


アニオタ神は用意周到とばかりに答えた…。

「フッフッフッ……それな……。千造よ……ワシもずいぶん色々と駆けずり回ってのぉ……。そして遂にワシらにとって大きな後ろ盾を得る事に成功したのじゃ!」


 その時、突如この部屋の壁が空間ごと歪み、一人の人物が現れた!


「アニオタ神よ、アンタの結界もまだまだね!」


 ヒッ! ヒョエーーーっ!!! 

 え、閻魔女王様っ!!!


 そうなのだ。アニオタ神の作った結界を安安と突き破り、閻魔女王様が入ってきたのである!


 お、終ワタ……!


 お、俺、絶対ヤバイ。

 地獄の中に張られた結界でアニオタ神様と密会してたなんて……怪しすぎる——!


 しかし、アニオタ神様は怯えもせず閻魔女王様に呼びかけた。

「——おぉ、グランちゃん!」


 え? ア、アニオタ神様……?

 って、なんですか閻魔女王様に向かって『グランちゃん』って!? 


「コラッ、アニオタ神よ! 慣れ慣れしく本名で、それも下の名前で呼ぶのはよせと前にも言ったであろうが!」


 ありゃ? 閻魔女王様の顔が少し赤くなったような……。


 アニオタ神は動じず、ニコニコしながら答える。

「おぉ、おぉ、すみませんのぉ……つい」


 ——し、知り合いだったのか。


「まぁ、よい」

 閻魔女王様は呆れたようにそう言うとスグに俺に向き直った。


 あゎゎ……、や、やはり神々しくて眩しい……!

 最初に地獄で再開した時もそうだったが、今回も閻魔女王様は派手な和風の着物を身に纏っていた。あの閻魔庁での地味なローブ姿とは全く違う。


 俺は一歩後ずさった。


 彼女は少し口元を緩ませ少し間を置いた後、迫力ある口調で宣言した。

「千造、我がオマエたちの後ろ盾だ!」


 え?

 俺は動揺していて、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。


 閻魔女王様は少し苦笑しながら呟く。

「我ものぉ、つい、このアニオタ翁に上手く乗せられたのだ……」


 アニオタ神は満面の笑みを浮かべている。


 閻魔女王様は「フン」と鼻を鳴らし、また威勢よく話し始めた。

「フハハハハー! まぁ、冗談はさておき、予知夢の神の言うことは我も無視できぬのでな、こうなったのだ千造よ! オマエたちの計画を影から……ただし全力で支えてやる! ついでに実戦指導もな……」


 ここで、ようやく俺の頭がこの事態に追いついてきた。

 この状況のあらましを理解し始め、そして破格の後ろ盾を得た驚きと喜びと感謝の念が一気に湧き出てくる。


「ハ、ハハァァーーーっ!!」

 俺は地面に平伏した!


 閻魔女王様が少し姿勢を改める。

「千造、オマエに使命を与える! 現世の人々が地獄に対して畏怖の念を抱くよう活動し、結果的に人類を滅亡から救うのだ!」


「ハ、ハハァーーーっ!! つ、謹んで承ります!!」


 閻魔女王様は少し満足げに頷くと次のステップへ話を進めた。

「その為に当然だが、まず霊として現世に戻る事を許す!」


「………………、ハ、ハハァーーーッ!!! あ、有難う御座いますっ!!」

 ——閻魔女王様公認で現世に戻れる!


「次は、特殊能力の付与だ……。千造、オマエには狐神族のように他人に取り憑く能力を授ける! それにより取り憑いた相手を操ることができ、また、記憶の閲覧も可能になる」


「……ハッ……、ハハァーーーっ!!」

 えっ? ……と……特殊能力……。


「そして、ここからが最も重要なのだが……。オマエには、罪の記録の閲覧能力と裁定官代理の権限を授けよう!」

 そう言いながら閻魔女王様が俺の頭に手をかざす。

 すると光の粒が彼女の手から溢れだし、俺の中へと入って来た。

 その感覚を具体的に説明するのは難しいのだが……それは妙に心地よく、心が冴え渡り、強いパワーが全身に漲るような感覚だ。


 な、何がなんだか完全に理解した訳ではないのだが、とにかく凄いものを授かった事を実感し感動しまくっていた。


「……よし! これで全ての能力付与は終わった。但し、各能力を使いこなすには訓練が必須だ!」

「ハッ、ハハァーーーっ!!」

「とにかく、これでオマエは閻魔法廷を現世において開くことが可能になる! つまりオマエは我の代理執行人だ! 地獄史上、初だぞ! ハッハッハッハッハー!」


 ええっ!?

 な、なんだって〜? え、閻魔法廷!? 代理執行人!?


「そ、それは……どのような……」

「人類を滅びに導く元凶、すなわち、地獄を畏怖せず自ら犯した重罪を隠し通しておる者ども、罪が暴露されても刑罰を免れている者ども、そして多くの被害者を産んでいる悪人どもを見つけ、それらの罪を暴け! 今回与えた特殊能力を使ってな。そして、その者どもを生前のうちに閻魔法廷にかけ、その場で刑罰を与え、さらに被害者の救済も同時に行うのだ!」


「……ハ、ハイッ……! …………す、凄い……。……そ、それを、この私が……」


 正直まだ良く分かってない……! でも、とにかく……唯々……超凄いって事だけは分かる!


 閻魔女王様が話を続ける。

「案ずるな千造よ! 現世での裁判実施方法については我に考えがある」


「ハ……ハイッ……!」


「それになぁ千造、これは我にとっても初めての試みなのだ。オマエもトライアル&エラーの精神で行け!」


「……ハッ……、ハハァーーーッ!」


 …………色々案じてもしょうがない。

 と、とりあえずやってみるしかない!


「では、明日の夜から地獄内の別の施設にて実戦用の訓練を開始する! 教官は死神ニーナが担当する。任務遂行に必要なその他の能力もそこで取得せよ!」

「ハ、ハハッ!」

「昼間は引き続きIT部を手伝い、夜は訓練となる。遊んでいる暇はないぞ、千造!」

「ハ、ハイッ!」


「励めよ!」


 そう言うと閻魔女王様は全てを話し切ったとばかりに踵を返し、壁の向こうへと去っていく。


 俺は消えゆく彼女の背中に向かって誓った。

「ハ、ハハァーーーっ!!! 一生懸命! 一生懸命、励みます!!」


 そして、アニオタ神のほうは相変わらず満面の笑みを浮かべながら「そういう事じゃから、宜しくのぉ!」と言い、去っていく。


 こうして次の日の夜から、授かった能力の実戦用の訓練が開始される事となったのだが……。


 鬼軍曹ならぬ死神軍曹が爆誕してしまう事を、この日の俺はまだ知らずにいた。



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