真の仲間ってどのレベルなんです?
先ほどのお客様のように、心を揺さぶられる方は多い。
人生色々とは言うが、転生者はその中でも飛び抜けて数奇な運命を背負って生きている方ばかりだ。
中にはとんでも無い人間もいるが、ほとんどはその善良な心を次の世界に持ち越して苦労している人たちだ。
そう思って一人で耽っていると、かならず愛らしい妖精が元気づけるために来てくれる。
「ナターシャお姉ちゃん、が~んばれ、が~んばれ!」
「シナモンからも元気が出ちゃうが~んばれだよっ!」
「ありがとう。二人とも本当にいい子。」
「褒められちゃった~」
「どうしてずっといてくれないのかねえ。」
「ミントたちはどこに行ってもナターシャお姉ちゃんの妹で後輩だよ。」
などと励まされたところで次のコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、この世界に来て5年目を迎えました浅野一真と言います。」
「アサノ様ですね。少々お待ち願えますか。A-AA5110、目指せ!愛と青春と熱血のグランドフィナーレ、という世界ですね。」
「私の祖父の時代です。」
「昭和40年代頃の設定ですね。学生さんですか?」
「はい。周りの暑苦しいノリに付いて行けない高校生です。」
「よくスマホの無い時代をチョイスしましたよね。」
「異世界転生ってそういうものだと割り切ってましたので。」
「しかし、男子生徒が全員、竹刀か木刀を所持していた時代ですよね。」
「いくら何でもそれはあんまりなイメージですね。まあ、何でこれで戦争に負けたのか分からないくらいバーサーカーは多いですけど。」
「そうですよね。窓ガラスは割るために存在してますからね。」
「まあ、それはそうかもしれないですね。」
「それで、どのようなご用件でしょうか。」
「私は親友のいるチームに所属して喧嘩に明け暮れているのですが、正直、命がけなんですよね。仲間に背中を預けるといいますか、そうして何とか毎日を生き延びています。」
「ファンタジー世界に旅立った方々も似たような生活を送っていますよ。」
「こっちはグレた少年相手ですけどね。それで、親友の明信からお前は真の仲間だっていってもらえたんですが、正直良く分からないんですよね。」
「まあ、ジェネレーションギャップですよね。」
「はい。この時代の人たちはどのくらい人を信じ、仲間とどう接するか、その距離感が分かりません。」
「肩を組んで歩く、とか?」
「ああ、確かにそれはあります。令和じゃ無いですよね。」
「飲み会が異常に多いです。多少の問題はアルコールで解決します。」
「私、好きじゃ無いんですよね。」
「あとは自転車やバイクは二人乗りが基本ですね。」
「ああ、みんなやってますね。本当にモラルが低いと思います。」
「全般的に人同士の距離が異様に近いですから、それを自然にこなすことが相手に仲間だと認識してもらうために重要になってきますね。」
「その割に、男女の距離は非常に離れてます。」
「基本は硬派です。興味はあるのにそうでないフリをすることが大切です。」
「ツンデレなのですか?」
「いいえ、かっこつけているのですよ。」
「ああ、素ではなく演技なんですね。」
「はい。そこが後年のツンデレとの大きな違いですね。」
「では、真の仲間と令和の若者はどれほど差があるのですか?」
「基本的には同じですよ。ただ環境が違うだけです。それはファンタジー世界においても同じことです。」
「なるほど、では、素のままの私を出していけばいいんですね。」
「はい。この時代にもお客様のような方は必ずいるはずですよ。」
「分かりました。他にこの時代の若者の特徴を教えて下さい。」
「足でネコ踏んじゃったを弾きます。」
「無理です。ピアノに対する冒涜です。」
「あと、入手のしやすさなら断然鉄パイプです。」
「野球経験者じゃないのに金属バットをメインに使っている人がいます。」
「握りやすいですからね。あと、たまに英語を喋ると受けますよね。」
「This is a penレベルですけどね。ああいった一発芸は中身よりジェスチャーが重要ですよ。」
「恥ずかしがってはいけませんね。」
「いろんな意味でハードルが高いですね。でも、どうして人の距離が近いのでしょう。」
「それは簡単です。人はどんな形でも繋がっていないと一人では生きていけません。スマホがあればいつでもどこでも繋がってしまいますが、それが無い世界だと、相手を探して物理的に近付く必要があります。」
「ああ、みんな人混みの中で友達を見つけるの早いですよね。」
「まず目線が違いますから。」
「そうですね。私も前世では手元ばかり見てましたね。」
「それで、今はどちらにおられるのですか?」
「今、警官に追われて何とか逃げ切ったところです。」
「補導からの少年院にならないよう、ほどほどにして下さいね。」
「ええ、元々そういう暴力的なのは苦手なんで、やってるフリなんですけどね。」
それって真の仲間では無いのでは?
「まあ、将来も見据えて頑張って下さい。」
「大学進学するヤツもほとんどいないんで、気楽にやりますよ。」
そう言って通話は終わった。
まあ、愛と熱血のグランドフィナーレを迎えられそうに無い雰囲気だったが・・・
「では副班長、ミントちゃん、シナモンちゃん、これで上がりますね。」
「今日もお疲れ様でした。」
私は残業なんてしない。
まあ、さっきのお客さんと似たようなものだ。




