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ゾンビになったからしたい100のこと

「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、元パトリックという者です。」

「モトパトリック様ですね。」

「いえ、パトリックが死んだので、元パトリックです。」

「ああ、なるほど。」

 正直、何の事かは分からないが、テキトーに相づちを打っておく。



「それで、死んでしまったのでどうしようかと思いまして・・・」

「それは神に相談されなかったのでしょうか?」

「いえ、神にお願いして勇者として転生したのですが、魔王に敗れて命を落としてしまい、今は元パトリックとしてアンデッドになってしまったようなんです・・・」


 ああ、いくら何でも元パトリックとして転生する人なんていないでしょうね。

 リッチになった方はいたけど・・・


「それでは、ご用件をお伺いします。」

「どうすればいいでしょう。」

「・・・では、現状を教えて頂けないでしょうか。」


「私は20年前に勇者となる使命を帯びて転生し、7年前に魔王討伐の旅に出ました。そして、幼馴染みのタンク役ジョニーとヴァルキリーのローリア、旅の途中で知り合った賢女、聖女、シーフ、ポーターでパーティを組んでいました。」

「7名ですね。」

「はい。ちなみに、私とジョニー、ポーターのユダが男性です。」

「もう既に名前がアウトな人物がいますね。」

「まあ、お察しの通りです。魔王戦にまでたどり着き、戦闘開始という所で、私とジョニーだけが取り残され、見事魔王に敗れたという次第です。」


「おお、しんでしまうとはなさけない、とはならなかったのですね。」

「ああ、死ぬことすら出来ないのか、という感じです。」

「しかし、最近はポーターが裏切るのですね。」

「ええ、非常にトラブルが多いです。荷物を盗まれるくらいならまだマシです。最近はポーターは幼馴染みか親に頼め、と言われるくらい確保が困難です。世知辛いもんですね。」


「でも、元パトリック様の場合、相手の名前である程度は予防線が張れたのではありませんか?」

「いやあ、名前で虐げるなんて、とてもとても・・・」

「さすが勇者です。」

「まあ、やけに聖女と距離が近いよなあとは思ってたんです。一応、婚約してましたので。」


「それで、ジョニーさんは今そこにおられるのですか?」

「いえ、彼はちゃんと昇天したようです。何故か私だけがアンデッド化してしまいました。」

「勇者ですからね。元パトリック様がいないといろいろ世界が困るのでは無いかと思います。」

「まあ、世界より先に私が途方に暮れてますけどね。」

「上手いこと言ってますね。」

「ありがとうございます。でも、この先どうすれば、いや、何をすべきかすら分からないのです。」


「まだ、この裏切りの世界でお客様の成すべき事があると。」

「いやあ、後で神様に怒られるのだけは恐いですからね。」

「ああ、恐らく神は何も気にしてませんよ。無責任だし。」

「じゃあ、気楽に第二、いえ第三のの人生を送ってみようかな。」


「魔王やユダに恨みは無いのですか?」

「まあ、思う所が無いと言えば嘘になりますが、生まれてこの方ずっと全力疾走し続けた挙げ句、これですよ。」

「今後、お考えが変わるかも知れませんが、取りあえずはゆっくり心と体を休めることが必要かもしれませんね。」

「そうですね。ジョニーを守れなかったことだけは心残りですが・・・」


「ところで、魔王は放っておいてはマズいのでは無いですか?」

「でも、聖剣を奪われてしまいました。これは世界の歴史上、初めての事態です。」

「もう人類に抵抗する術は残されていないのですね。」

「次の勇者がチートをもらって何とかするのでは無いのですか?」

「もしかしたら元パトリック様は死亡認定されてないかも知れませんから。」

「いやあ、これは絶対死んでると思いますよ。骨ですし。」

「いいえ、死体は喋りません。絶対に。」


「ということは、幽霊って生きているのですか?」

「はい。あれは皆さんが霊体と呼ぶものですが、再生工場に行けばたくさんあります。新鮮さがとても重要なんですよ。」

「生きてますね・・・」

「はい。単に道に迷って三途の川へ行き損なっただけだとお考え下さい。」

「もっとスゴい事が私の身に起きたのだと思ってました。」


「でも、勇者だからそうなったという可能性は充分にございますよ。」

「なるほど。では、それは心と体を休めた後、じっくり考えるとします。」

「その前に世界が滅んでしまうかもしれませんけどね。」

「でも、アンデッドなら一安心ですね。」

「それはそうです。しかも、魔王に次ぐ実力者です。」

「でも、骨だから人前には出られません・・・」


「魔法で何とかなりませんか?所詮、身体はうたかたの形代に過ぎないですよ。」

「言われてみればそうでした。」

「ゾンビになっても出来ること、ゾンビだからこそ出来ること、いろいろ挑戦しつつ、楽しんで下さい。」

「そうですね。お化け屋敷のスターにもなれますし、魔王一味に偽装することも、死なないことを逆手に取ったモンスター狩りとか、とにかくできることだらけでした。」


「悩んでいる暇などありませんでしたね。」

「そうですね。せっかく第三の人生を手に入れたのですから、前向きに生きなくては損ですよ。」

「実は、生きているうちにやってみたいことが沢山あったんですよ。」

「生きていれば何でもできますよ。」

「美味しい物を沢山食べて、綺麗な奥さんを娶って、ああ、夢は歌手デビューすることでした。ボイストレーニングしないとですね。」

「あの~、霊体では難しい事ばかりかと・・・」

「いやあ、やりたいことが100は簡単に出てきますね。夢が広がります。」

 まあ、生きがいがあるのはいいことだ。可能な事から実現させて欲しい。


「子供好きですから、最低三人は欲しいですね。」

 できるだろうか・・・


「でもまずは住むところからですね。どこがいいかなあ。湖が見える一軒家なんていいですよね。」

「ああ、必ずお屋敷がありそうな場所ですものね。」

「小さくていいんです。ささやかでも落ち着いた、笑顔溢れる家族が欲しいですね。」

「そうですね。生きている方とは難しいかも知れませんが、霊体は老若男女意外に多いものです。みんなこれ以上死ぬことはありませんので、長く楽しめますよ。その気になれば、魔王に再挑戦してもいいですし。」

「はい、頑張ります。アドバイス、ありがとうございました。」

 最後はとても良い感じで終わった。



「悲しい事を乗り越えたようですね。」

「まあ、とても危機的な世界での出来事ですけど。」

「きっと聖剣を取り戻せば勝てますよ。死ぬはずの勇者がアンデッドなのですから。」

「ああ、魔王なら十中八九、浄化できませんものね。

「ええ、実は魔王は詰んでいます。ただし、その方が魔王討伐を行うかどうかは未知数ですね。」

「世界が滅んでもお客様は無事でしょうからね。」


 まあ、いずれにしても一つの人生、最大限楽しんで欲しいものだと切に願う。


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