秋の恒例行事
「えっ? お姉さんたち妖精なの? じゃあ、超美人さんの?」
「う~ん、妖精はみんな同じ顔だよ~。」
「じゃあ間違い無いね。お兄さん達と遊ばない?」
「あそぶあそぶ~!」
「シナモンもいっしょにあそぶ~!」
今年の新人はとにかく元気だ。体力だけなら天使を凌駕している。
しかもノリがいい。それも天然だからストレスフリーだ。
つくづく、彼女たちが期間限定なのが惜しい。
「ミントもそっち行っていい?」
「おう、美味しいものもたくさん用意してるぜ。」
「シナモンも、シナモンもいく~!」
どこの世界の住人か分からない人と盛り上がっている後輩をよそに、私は質問コーナーの対応を始める。
質問: どうして槍の方が有利なのにみんな剣を使うのでしょうか。
槍を持つために常に片手が塞がっている状態は、日常回や恋愛パートで何
かと支障があるからです。
質問: ツンデレが現実ではありえないくらい多くいます。
どのパーティーに所属しても満遍なく出会える程度には出現させていま
す。
なお、演技の幅が広いため、声優さんには好評です。
質問: なぜ、好き勝手農業しても連作障害が出ないのでしょう。
魔素のある世界では、土地がそれを吸収すれば問題ありません。
生長促進魔法で育つのがその証左です。
質問: 聖人のような悪役令嬢っていないんですか?
もしいても、あなたは騙されないように注意して下さい。
質問: なぜ王子は王の許可無く勝手に婚約破棄してしまうんでしょう。
大人になりたいのだと思います。
やってることは子供っぽいこと、この上ありませんが。
質問: エルフの奴隷を探しているのですが、見つかりません。
エルフほどの高い能力を持つ種族が、そう簡単に奴隷になどなるはずがあ
りません。
通常はこちらがご用意したキャストです。
質問: 余計な時しかパリィが上手くできません。
私は戦闘では無く、仕事や人間関係をパリィできるあなたが素晴らしいと
思います。
        
質問: チートのせいで熱い展開がありません。
少年漫画は努力、挫折、葛藤、愛情の世界です。
異世界は、チートでライトなハーレム世界なので割り切ってください。
質問: 前座とのエンカウントが、いつも間が悪いのですが・・・
敵に気付くのが遅いだけでは?
質問: 攻略対象なのに、ヒロインに振られてしまいました。
ドンマイ。
質問: モブで目立ちたくないとお願いしたら、ブスにされてしまいました。
たまに親切すぎる神もいます。
でも、確かに目的は達成されているはずです。
質問: 盗賊ってあんなに王侯貴族の馬車を襲うものなのですか?
彼らにも生活がありますからね。
それより、襲われる程度の護衛しか毎度付けない方が油断し過ぎですね。
質問: 何故、錬金術で金以外の物が作れてしまうのでしょう。
そもそも、別の元素から金ができることを不思議に思って下さい。
質問: 召還した女神と付き合っても問題ないのでしょうか?
問題大ありです。
逃げられるなら、すぐに逃げて下さい。
至急、カスタマーセンターにご連絡ください。
質問: 悪魔ってよく喋りますよね。
軽薄さを演出したい場合はそのような設定にしております。
逆に、威厳を出したい場合は無口にしてますよ。
質問: 異世界で天使を見かけません。
理由はいくつかあります。
ブラック過ぎて余暇がない。
お金が無くて旅行できない。
そもそも、そんな所に行きたくない。
いろいろあって人嫌い、神嫌いが多い。
それを照れ屋という仮面で隠すのが面倒くさい。
そもそも、外出用の服を持っていないし、そのまま出たら通報案
「ただいま~、ナターシャお姉ちゃん。」
「あらミントちゃん、早かったね。」
「うん。美味しい物いっぱい食べてきたよ。」
「危ないこと無かった?」
「うん。眠り薬とか飲んだよ。」
「うん、まあ、効かないよね。」
「妖精さんを眠らせるには銀の花と赤い光と虹の滴がないとダメなんだよ~」
正直、何のことやらさっぱりだ。
「でも、下界は悪い人だらけだから、気を付けないといけませんよ。」
妖精に悪さなんて、余程の実力者でも難しいのだが、純粋なだけに心の傷は負ってしまう可能性がある。
「はーい。気を付けるね。」
「じゃあ、ハロウィンのお菓子あげるから、シナモンちゃんも呼んで来て。」
「とりっくおあとりーとだね。」
「はい、そうです。」
その後はフロアの職員全員で持ち寄ったお菓子でパーティーだ。
もう誰も仕事する気ゼロなのだが、この時間帯はエラリー先輩が仕切っているので大丈夫だ。
「ところで、悪さした人をミントちゃんは懲らしめたの?」
「そんなことしてないよ。」
「でも、ミントは飲まされたお薬をおじさんに返してたよ~」
「ちがうよシナモンちゃん。ゆうこうせいぶんだけのうしゅくしてかんげんしただけだよ~」
それって、大丈夫なのかなあ。
妖精って、イタズラ好きと誤解されることも多いけど、だいたいはこんな感じで悪意は無いんだよねえ。
でも、妖精にイタズラは止めようと本気で思った。
 




