癒やし系?
ある日、コールが鳴ったと思ったら、受話器がプカプカを宙を舞った。
ミントちゃん、取るんだ・・・
「は~い。お客様のご願いを何でも聞いちゃうミントだよ~。」
すでに、隣の妖精は神の力を超えている。
「私、異世界で騎士団員をやっているジェリー・ウィンキッドという者です。」
「ジェリー君ね~。よろしく。あっ、隣にいるのはシナモンお姉ちゃんだよ~。」
「よ、よろしく。」
「そうだっ。大好きなナターシャお姉ちゃんもいるよ~。」
彼女たちが取ると、本題に入れずに終わってしまうことも多い。
まあ、私たちが電話に出たからといって、解決しないことの方が多いのだが・・・
「あの~、カスタマーセンターって、こう、何と言いますか、緊張感の無いほわっとした空気、いえ、アットホームなものなのでしょうか?」
「きんちょー感のないWHATはよく分からないけど、皆様のお客様だよ~。」
これでは話が進まないので受話器を耳に当てる。
「お待たせしました、担当のナターシャです。ジェリー様、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「ああ、今のは店番のお子さんだったのですね。」
「も~、子供じゃないよう~。」
「そうだよ~、シナモンは42才だよ~。」
「ミントもお姉ちゃんのレディなんだからね~。」
「申し訳ございません。二人は鏡の妖精なのです。では、気を取り直してどうぞ。」
「はい。私はとある王国で騎士団員をやっているのですが、いろいろ大変な割に変わり映えしない毎日で、その、そろそろ異世界で活躍してみたいのです。」
「どうして騎士を目指したのでしょうか。」
「はい。私は転生したら冒険者か騎士になって魔物や悪人と戦いたいと思っていたんですよ。騎士になったのは、取りあえず安定と肩書きを得るためです。いずれ冒険者になって自由に活躍の場を選べればと思っています。」
「それは立派な目的がお有りですね。それなら特に悩むことはないと思いますが。」
「ところが、騎士になったはいいものの、最低5年は在籍しないと騎士団に在籍した証明を発行してもらえないのです。もちろん、年金も無しです。」
「そうですね。一定期間在籍してもらわないと国も困りますし、訓練や実績に乏しい者に元騎士団員を名乗られては団の沽券に関わります。」
「でも、毎日同じ訓練の繰り返しです。」
「軍事組織はどこも大体はそうだと思いますが。」
「レベルが低いんですよね。」
「お強いのですね。何かスキルをお持ちですか?」
「はい。この世界にはスキルが存在しないのですが、私だけ特別に槍術、体術、身体強化と自動回復のスキルを与えてもらいました。」
「きっと、その世界においてはチートに等しいのでしょうね。」
「はい。でも、コネがないので今でも一兵卒です。」
「しかし、あまり出世されると辞めづらくなりますから、今のままでいいと思いますよ。」
「確かにそうですね。」
「それで、どのような任務が多いのでしょうか。」
「魔物退治です。」
「では、魔法のある世界なのですか?」
「いいえ、火を吐いたり有毒の魔物はいますが、魔法は無い世界ですね。」
「それなら、お客様のスキルはさらに有効ですね。」
「はい。それについては神に感謝しています。」
この方はまあまあ運が良かったらしい。
「訓練が退屈なのは修行だと思うしかないですね。」
「あと、男ばかりなのも我慢ですね。」
「出会いは無いのですか?」
「夜の酒場くらいですかね。上官に女性を薦められることもありますが、受けてしまうと騎士団に骨を埋めることになりますので。」
「なるほど。あとは趣味とか食事を始めとする日常生活に彩りを持たせると良いと思います。」
「こっちは酒か賭け事くらいしか娯楽が無いので、やっぱり退屈ですね。料理も不味いし。でも、お陰で野営時の食事があまり苦にならないのはいいですね。」
「あとは命の危険ですか。」
「医療技術は無いに等しいですが、私は自動回復があるので随分マシです。ただ、結婚間近の団員の死亡率がやたら高いのは気になりますね。」
「俺、この戦いが終わったら彼女に告白するんだ、ってヤツですか?」
「そうですそうです。あれって明確にフラグなんですか。」
「それが禁止ワードになっている世界は存在しますね。」
「じゃあ、念のため彼女を作るのは退団後にします。それと訓練中、やたら剣を弾き飛ばしたり飛ばされたりします。実戦ではほぼ起きない現象です。」
「ああ、それは尺の都合であったり安全機能が作動した時に起きる現象ですね。刃先が折れて飛ぶと危ないですからね。」
「そうやって目に見えないところで守られているのですね。」
そう解釈してくれると有り難い。
「そうですね。特に皆さんお気づきにならないですが、虫歯にはならないようにプロテクトが掛かっている世界が多いです。」
「あの~、同僚はよく虫歯になってますけど。」
「一般の方は普通になりますね。しかし、転生者が虫歯になった話は寡聞にして聞きません。特に旅や野営の多い職種の方が多いにも拘わらず。」
「確かに、歯を磨いているシーンなんて見たこと無いですね。私は磨かないと気が済まないタチなので丁寧に磨きますけど。」
「甘い物がほとんど無い世界なら、虫歯の危険性も下がりますけどね。」
「たまに食べたくなりますけどね。」
「あまい食べ物ないの~。」
「つかれたときはあま~いおかしがいいんだよ。」
「ミントはチョコを毎日鏡で増やしてお腹いっぱい食べてるよー。」
もちろん、妖精は虫歯になんかならない。
「羨ましいです。こっちにはカカオは無いですし、砂糖も貴重でなかなか手に入らないんですよ。」
「冒険者になって成功すれば、きっと食べられるようになりますよ。」
「ジェリー君、が~んばれ、が~んばれ。」
「が~んばれ、が~んばれ。」
「ありがとうございます。何だか癒やされますね。」
「お役に立てたなら光栄です。」
「はい。いろいろ吐き出して良かったです。ありがとうございました。」
「では、お大事に。」
「ジェリー君頑張ってね~。」
「バイバーイ。」
通話は終わった。
何だろう、いつもと違う・・・
「ねえねえ、ナターシャお姉ちゃん。ミントたち、上手だった?」
「うん。とっても良かったよ。お客さん、元気出てたもんね。」
「褒められちゃった。」
「シナモンもがんばれ~って言った。」
「うん、二人とも最高だったよ。」
何かこの二人、私よりクレーム対応上手い。
というか相手の毒気を抜いてしまう天才だ。
見た目だけは私も癒やし系なのに・・・
どうにも複雑な思いが晴れないまま夜は更けていく。




