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料理を教えて下さい

 実は、天使だって腹は減る。


 神は食事を必要としないが、食事が必要なシチュエーションでは食事をすることもある。

 天使も常人とは比較できないくらいの忍耐力と頑強な肉体を誇るが、腹は減る。

 特に、ナターシャのシフトだと23:30を過ぎると強烈に夜食が恋しくなる。


 そろそろ神獣のミルクを使ったスープが欲しいなと思っていると、電話が鳴る。



「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、ジャスミン・レインと言います。早速ですが、料理を教えて下さい。」

「料理が得意な方に習って下さい。」

「あっ、いいえ、そうでは無く、天界の料理を教えて下さい。」

「はい?天界の・・・ですか?」


「はい。私は異世界に無い料理での成功を志し、この世界に転生したんですが、すでに沢山の転生者がいて私の知ってる料理や食材はすべて開発済みなんです。」

 ああ、これも先輩から聞いた、最近の異世界あるあるである。


「天界の料理は人間界で再現できません。」

「それは食材の事情ですか。」

「はい。それに、調理法そのものは人間界の方が発達しています。何せ、神は食事を必須としていませんから。」

「そうなのですか・・・残念です。」


「料理チートはお手軽ではありますが、趣味レベルでは模倣されて長続きしないことが、モニタリング調査の結果判明しています。」

「もっと簡単にチートできると思ってました。」

「少なくとも調理師免許取得レベルで無いと、料理人として自立するのは困難だと思います。」

「それって、前世でも料理上級者ですよね。」

「どの世界でも、生きていくのは大変なことなんですよ。」

「天界の方に言われたくないです。」


「天界も大変ですよ。何百年、何千年と生きている間、何一つ悪事を働かずに生きるのは大変な精神力をもって初めて実現可能なことなのですから。」

「確かにそうですね。」

「それに天使なんて、神の小間使いという意味なんです。私のような見習い天使はそれ以下。皆さん的には負け組の最底辺なんです。」

「な、何だかすいません・・・」


「よく転生した方はマヨネーズやチョコレートなど、比較的簡単にできるもので成功を収めることが出来ると思い込みがちですが、料理の道がそんなに簡単で無いことはお分かりのことでしょう。メーカーの方も多大な苦労の末に他社に負けない製品を世に送り出しているのですから。」

「全くそのとおりです。反省します。」

「その上で、まだ料理の道を目指しますか。」

「私にはそれ以外になさそうですから。」


「では、まずはちゃんとした料理人の元で修行し、その間の時間を利用して、どんな食材や料理がすでに存在し、まだお住まいの地域に何が伝来していないのか、まだ開発されていないメニューがあるかをしらみつぶしに当たって下さい。」

「はい。」

「また、調理器具や調理法に改善の余地が無いかを探ることも重要です。」

「確かにそのとおりですね。」


「干物、燻製、蒸す、発酵など、地域毎に発達した分野は異なるものです。そういった所からも突破口は見つかるかも知れませんし、食材とは認知されていなくても、既に発見され、交易品として入手可能な素材があるかも知れませんから、市場を散策して食品以外の店をチェックしたり商人に教えてもらうことも大切です。」


「とても大変そうです。」

「料理バカと言われるくらい没頭しなくては、成功など覚束ないことでしょう。」

「せっかく転生したのに、またしんどい思をするのですね。」

「何も苦労せずに大きな成功を得てめでたしめでたしなんて退屈な物語、誰が読んでくれるというのですか。」


「天使様が厳しい先生のように見えてきました。」

「これはあなたに与えられたセカンドストーリーで、あなたはその主役なのです。気持ちを強く持って不屈の精神で立ち上がるのです。」

「分かりました。熱い気持ちを忘れずに頑張ってみます。」

「そうです。その意気です。」

「ありがとうございました。」


 何だか、感動なのか共感なのか、はたまた自分の立ち位置を思い出した悲哀なのか分からない感情がこみ上げる中、通話を終える。



「そうよね。料理をテーマにしたストーリーでバッドエンドなんて無いから、みんな成功を信じちゃうよね・・・」

「そうね。でもプロでさえ成功者は一握りなんだから、苦労はするわね。」

「そうなんですよ。でも、せっかく選ばれた存在なんですから何とか幸せになって欲しいですよね。」

「そうね。何事も長い年月を掛けて熟成された技と経験が成功に結びつくからね。」

「焦らず、腰を据えて腕を磨いて欲しいものです。」


 この日のスープの味は、ちょっとだけしょっぱかった。


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