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ヒロインに怒られたのですが・・・

「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私はゴードン・マクワランという者です。」

「ゴードン様ですね。ご用件をお伺いします。」


「私は友人と共に今の世界に転生させていただいた者なのですが、ヒロインに目を付けられてしまったようで困っているんです。」

「恋のお悩みですか?」


「まあ、恋の悩みというよりはしつこい女性からどうやって逃げ切れるか、ですね。」

「では、ゴードン様の置かれた状況について教えていただけますか?」


「はい。私はベルベット王国という所で子爵家の次男として生まれました。今は17才で将来は騎士になるべく励んでいるところです。」

「もしかして、恋愛モノの世界ですか?」

「そうです。私は恋愛小説に興味は無いのですが、友人がどうしてもその世界がいいと言うもんで。一人で別世界に転生する勇気もありませんでしたし。」


「なるほど。それでご友人はお元気ですか。」

「はい、彼が王子です。」

「では、ご友人も攻略対象なんですね。」

「そうです。王子なんで多分、メインキャラなんですよね。」

「そうでしょうね。王子がいてそれ以外の攻略対象がメインの作品なんて聞きませんね。」

「まあ、彼は喜んで王子やってますし、ヒロインとも相思相愛みたいなんで、そこは別に勝手に盛り上がってくれて構わないんです。」


「ところが、ゴードン様にもヒロインが言い寄って来ているのが気に入らないと。」

「普通、男女問わずそうですよね。」

「ええ、生物学的に正しい感覚だと思います。」

「でも彼女は全く平気なんです。こういうのを逆ハー展開っていうんですよね。」

「はい。そして、こういった物語が舞台の世界では、攻略対象が何の疑いも持たずヒロインに沼っていくものです。」

「信じられませんね。友人関係ならともかく。」

「違うんですよね。」


「ええ、交際を迫って来ます。王子や宰相の息子、隣国の王子、魔法師団長の息子や学校の先生、ヒロインの従兄弟や従者、元盗賊まで9人もの男性と関係を持っています。」

「ゴードンさんが加われば、ピッタリ10人です。」

「いやです。」

「しかし困りましたね。将来、その国を背負って立つ方々と軋轢が生じないように振る舞う必要がありますね。」

「そうなんです。まあ、最高権力者は友人なんで、そこは安心してますけど。」


「一度、はっきりとゴードン様の正直な気持ちをヒロインに伝えてみてはいかがですか。」

「彼女、とてもポジティブですし、鋼のメンタルですからね。意図したところが伝わらないならまだしも、勘違いされるのも怖いんです。」

「ああ、ありますね。『もう、照れちゃって~』とか。『男の子のツンデレはダメなんだからねっ❤』、とか。しかも、障害があるほど燃えてしまいそうです。」

「一人で燃えてるだけならいいんですけど、周囲に延焼させるのは止めて欲しいですね。」


「何であの子の気持ちを受け入れてあげないんだ、何て言う人が出てきますね。」

「それ、本来は私が言う台詞だったみたいです。」

「ああ、設定では熱血漢キャラだったんですね。」

「熱血漢なら、彼女の気持ち以前に彼女の倫理観を気にして欲しいですね。」


「それで、ヒロインからしつこく迫られているのですよね。」

「はい。毎日のように遊びに誘われます。まだ他のメンバーがいるような誘いならいいんですが、二人きりというのも結構あって、断るのもだんだん疲れてきました。」

「でも、基本は断り続けているんですよね。」

「はい。みんなから付き合いが悪いとか、剣術修行バカなんて言われますが、ハーレムの一構成員に人生を賭ける価値が見い出せません。」


「心配する必要はありません。どうせ人生にとって無意味な時間です。」

「そうですね。彼女に甘い言葉を掛ける置物に過ぎませんからね。」

「その通りです。ゴードン様はご自分が気に入った方を探すと良いでしょう。」

「私の周囲で一番魅力的な女性は王子の婚約者の方ですけどね。」

「でも、まだ婚約は継続中なのですよね。」

「はい。それに公爵令嬢ですので、私の身分では無理です。」


「ヒロインからの追求もすごいことになりそうですね。」

「そうですね。王子と二人で『アタシに悪い所があるなら改めるわ』からの『お前何様のつもりだ』までがセットですね。」

「そうなりそうなのですか?」

「確実ですね。」

「重症ですね。」

「正直、彼らは手遅れです。だからこそ、彼らを刺激せずにやり過ごしたいんです。」


「それで、ゴードン様はどんな手を打ったのですか?」

「はい。学校を退学して騎士見習いから始め、すぐに辺境に赴任することを画策しました。」

「それはまた、思い切った手を打ちましたね。」

「ところが王子に却下され、ヒロインに責められたのがつい先ほどのことです。」

「それでお電話下さったのですね。」

「はい。もうどうしようかと思って・・・」


「ヒロインからはどのように責められたのでしょうか。」

「私はみんなと仲良くしたいの。あなたも幸せにしたいの。何故あなただけが分かってくれないの。素直になれるように一緒に頑張ろう。まあ、要点はこんなところでしょうか。」

「しっかり自分ファーストですね。」

「いっそ清々しいです。」

「では」

「いやです。」


「では、他国に武者修行なんていかがでしょう。」

「いいいですね、それ。十年くらい旅に出ましょうか。」

「王子が許可してくれないかも知れませんが。」

「今度はバレないように進めますよ。絶対に好きでもない人のハーレム要員なんてまっぴらです。」

「確かに、好きで無ければ我慢できないですね。」


「どうしてハーレムがこんなに多いんでしょう。」

「好きな人が多いからですね。男女問わず。」

「神が設計したんですよね。」

「ええ、しかし、お客様の要望により作られた物で、天界としては特に奨励している訳ではないんです。」

「まあ、神が浮気OKを大っぴらに言えませんよね。」

「そのとおりです。たとえ浮気する神がいたとしても。」

「えらくぶっちゃけますね。」

「まあ、一番有名な神だって堂々とやらかしちゃってますからね。何千年も前に。」


「しかし、神ならともかく人間にハーレムなんて不可能だと思いますけど。」

「VIP限定でハーレムが可能なプランは存在します。また、数年程度の期間限定でハーレムを可能としている世界は多く存在します。ゴードン様の世界のように。」


「期間限定なのは理由があるのですか。」

「はい。人間にとってあまりに不自然で歪な状態を長期間続けると、プレイヤーも周囲の世界も歪んでしまいます。特にプレイヤーが権力者だった場合、影響が大きすぎますので。」

「それで国が滅んだりしたら、無辜の民が苦しみますね。」

「ですから数年間の期間限定としています。」

「でも王宮にはハーレムとか大奥とかありますよね。」

「あれは神が関与していません。なので特定の人間に精神的な操作はしていません。」

「なるほど、双方納得の上ということですね。」

「はい。待ち受けるドロドロ展開も自己責任ですね。」


「それで、私の世界はどうなんでしょう。」

「ゴードン様の世界のコード番号が分からないので何とも言えませんが、一般的には結婚がゴールで、以後は主要キャラの自由意志というケースが多いですね。」


「分かりました。ではやはり十年くらい姿を眩ませておきます。」

「ええ、ほとぼりが冷めるまで隠れていた方が良さそうですね。」

「ありがとうございました。」

 こうして電話は終わる。



「ハーレムから逃げ出したい方からの相談ですか。」

「実際、そういう方も多いんでしょうね。」

「そうね。そういった人が物語で描かれることは無いけど、みんな替えの効く大勢の中の一人にはなりたくないものよ。」

「そうですね。私は替えの効く大勢の中の一人ですけど。」

「確かにこの組織の天使はみんなそうだわ。でも、私たちに成り代わりたい天使もいないわ。」


 それって、いいことじゃないですよね、先輩・・・


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