覚醒しないのですが
またコールが鳴る。今日は多いなあ。
ミントちゃんは遙か向こうのフロアでキャッキャしてる。
ということで、私は2年目で後輩もいるのに、実質序列最下位である。
他のシフトには妖精じゃ無い新入社員がちゃんと配置されているというのに、何でだろう。
班長がポンコツだからか?
少なくとも、上司なんだからもう少し出来るようになって欲しい。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私はジェレミー・マクドネルという者です。」
「ジェレミー様ですね。ご用件をお伺いします。」
「私、能力を覚醒させて新世代型人になりたいのですが、どうすれば良いのでしょう。」
「ジェレミー様の前世のお名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「宮ノ森和秀です。」
「ミヤノモリ様は、C-RX0078-3D『未来なのに有視界で戦わざるを得ない』世界ですね。」
「はい。電波妨害されていてレーダーなどが使えないんです。」
「でもその世界、映像や音声は普通に送れてましたね。」
「いえ、あれは素粒子を高濃度に散布された空間でのみ電波やレーザーなどを妨害するみたいなんですよ。だから戦闘時以外は通信なんかも可能なんです。」
「さすが未来のテクノロジーですね。」
「まあ、いくら宇宙世紀を生きているといっても、中身は21世紀脳ですので、良く分かりませんけどね。」
「それで、覚醒できないとのことですが、やはり、アッチ方面ですね。」
「はい。第6感といいますか、異様に察しが良くなるアレです。」
「あんなの、無理じゃないですか?」
「そう言わないで下さいよ。アレがあるかどうかで、生存率が大きく変わるんですから。」
「確かに、命に関わるということなら切実ですね。」
「そのとおりです。」
「それを言うなら、それ以前にあの機体、どうして無人機じゃないのでしょうね。」
「多分、電波障害で遠隔操作ができないからじゃないですか?」
「自律型のAIにすればいいでしょうに。機内なら電磁波を遮断できるでしょうし。」
「まあ、基本はヒューマンドラマですからね。主役がAIじゃあちょっと。」
「それにあの大佐、シートベルトせずに乗ってることもしばしばでした。」
「いや、あの人はもっとおかしい所がいろいろある人ですから。」
「ところで、ミヤノモリ様はモブなのですよね。」
「はい。しかも地球出身ですので、覚醒しにくい体質だということは自覚してます。」
「そうですね。スペースノイドに比べると覚醒確率は2割程度に設定されてますね。」
「不可能ではないのですね。」
「ええ、そういう世界ですから。」
「では、どんな訓練をすれば良いのでしょう。」
「効果的な訓練方法についてはデータがありませんね。しかし、剣の達人や修験者に通じるものがあるのでは無いですか?」
「確かにそうですね。では、暗闇で瞑想とかすればよいのでしょうか。」
「何とも言えませんね。それに、宇宙空間で訓練した方が良いようにも思われます。」
「では、演習などの際に・・・いや、高速飛行中にかかるGなどの影響を考えると、訓練中の精神修養は難しいですね。」
「宇宙空間でもGがかかるんですね。」
「ええ、普通にかかりますよ。」
「なのに、シートベルトしてないんですよね。」
「まあ、あの人は特別ですから・・・」
「ちなみに、ミヤノモリ様はどのような機体に搭乗されておられるのですか?」
「ボー○です。」
「あ~無理無理。いくら新世代型人でもあれじゃ無理ですよ。」
「そんなこと言わないで下さいよ。私だって生き残りたいんですから。」
「覚醒なんか目指す前に、戦闘が始まったら一刻も早く戦闘区域から離脱して、終わるまでどっかに隠れていた方がいいと思いますよ。」
「でも、せっかく苦労して養成学校を出てパイロットになれたんです。このために転生したんですから。」
「転生してまでわざわざボ○ルに乗る人なんていないと思ってました。」
「いや、本当はRXシリーズに乗りたかったですよ。」
「艦長のパワハラに耐えないといけませんね。」
「それでも活躍できるなら耐えられると思いますよ。」
「そうですね。○ールなんて自殺行為に等しいですから。」
「言わないで下さい・・・」
「むしろ公国軍の方が選択肢が多かったですよね。あれほど酷い性能の機体もないでしょうし。」
「そうですね。しかし、ニューヤークで軍人の子として生まれたので、連邦軍以外の選択肢は無かったですね。」
「ならば一刻も早く別の機体に乗り換えられるよう、転属願いを出した方がいいですね。」
「やっぱり無謀ですか。」
「あれはパイロットの技量でどうにかなるものではありません。」
「しかし、現実的に私が乗れる機体は2種類しかありませんから。」
「それでも今のよりはずっと生存率は上がりますよ。」
「そうですね。これから宇宙要塞コンペイトウで部隊の再編成が行われる予定なので、上官に相談してみます。」
「あの激戦を生き残ったのですね。」
「ええ、最後まで生き残ってみせますよ。」
「恋人とかは?」
「フラグ立てないで下さいよ。」
「赤とか緑とか足の無いのを見たら、すぐに逃げて下さいね。」
「もちろんです。ありがとうございました。」
通信は終わった。
ため息をつきながら受話器を置く。
「わざわざ戦争の時代に飛び込むなんて、向こう見ずな方は後を絶ちませんね。」
「でも、あの世界はとても人気があるのですよ。」
「未来の世界なのに、とても人の命が軽いです。」
「そうですね。板子一枚下は地獄という環境に人類の過半が暮らしている世界ですからね。そういった刹那的な価値観が支配してしまうのも仕方の無いことかも知れませんね。」
「それはそうかも知れませんが、そこに21世紀人が飛び込む必要はないと思います。」
「ロマンでしょうね。ファンならなおのこと・・・」
「ボー○に乗って戦場に行くくらいですから、きっとそうですね。」
「今回転生できたから次もあるとは思って欲しくはないですけどね。」
確かにそのとおりだ。そんな保証など何処にも無いし、場合によっては地獄落ちだ。
どんな命、生涯でも大切に生きて欲しいと思った。




