魔王ガランドル
次の朝、私たちは魔王城に急ぐ。
本当は野営地の後片付けとかいろいろあるんだけど、とにかく急ぐ必要があった。
「ナターシャ様、そんなに急いでどうされたのですか?」
「そうだよ。そんなに急がなくても魔王は逃げないと思うぞ。レベル1なら飛行も転移もできないはずだからな。」
「だって、机の角に頭ぶつけたりしたら大変じゃない。」
「ならもうちょっとやりようもあっただろうに。」
「今回は勇者がトドメを刺さないとダメなのよ。癪だけど。」
こうして、まだ日の出から間もない時間だが出発する。
1時間ほどで城門前に到達し、いつものとおり勇者の強行突破で戦いは始まる。
城内は魔物で溢れているが、新旧勇者と二人の天使が道を切り開いていく。
あのポンコツ勇者だって、四天王との戦いを経て、今やレベル54まで上がっている。
そこら辺りの魔物であれば、問題無く倒せるのである。
1時間ほど大立ち回りを演じると、周囲には夥しい魔物だった物が転がり、ついに動く敵はいなくなった。
建物内に入った我々一行は、一路玉座の間を目指す。
そしてお約束どおり、勇者が扉を蹴破ると、遠くの階上に豪華な玉座が見える。
「おい魔王! そこに居るのかっ!」
「随分待たせてくれたではないか。外の魔物を倒すとは、少しはやるようだな。」
「アタシは勇者ミラノ・アスプリアーノ。この世界に平和を取り戻すため、お前の首を頂戴しに来た。」
「威勢だけはいいな。我の名は魔王ガランドル。まずは、貴様らがどのくらいの腕前か見せてもらおう。宰相ゴルドよ、相手してやれ。」
ゴルドと呼ばれた魔物が姿を見せる。
オーガの親玉みたいなヤツだ。
「勇者、ここは私に任せなさい。」
「あら、そうね。最後くらいは天使も仕事してくれないとね。」
いや、私がここまで散々活躍したの、見てなかったの?
ちょっとイラッとしたので、雷を落としてやるとゴルドは爆散した。
「なっ・・・貴様は、天使か?」
「そのとおり。私は天使ナターシャ。魔王の最後を見届けし者。」
「ま、まさか、天界が介入してくるとはな。」
「少々目立ち過ぎたのが命取りになったわね。」
私たちは魔王の元に歩いて行く。
「ねえねえテンちゃん。魔王ってあんなに小さいの?」
どう見ても身長は50cmほどしかない。
何ならちょっと可愛げがある。
「いや誰のせいだよ。」
「わ、私?」
「本来なら、あの巨大な玉座に丁度いいサイズ感だったはずだぞ。」
「見た目だけ調整できない?」
「知らねえよ・・・」
私たちは、玉座に続く階段を上っていくが、あと数段という所で、みんなが魔王を見下ろす形になったので、そこで止まる。
もちろん、同程度の身長しかない私は飛んでいる。
「さあ、もう逃げ場も無ければ味方もいない。敗北は決定的だけど、何か言い残すことはあるかしら?」
「フンッ!此奴らは我とは比べものにならぬくらい弱い者ばかりだ。これに勝ったからと行っていい気になるなよ。」
「それは、天界の使者に対して言っているのかしら。」
「フンッ!」
その瞬間、無詠唱のダークランスが私に向かって飛んで来たが、所詮はレベル1。
痛くもかゆくも無い。
なんて思ってたら、それを咄嗟に避けたミゾグチ様が隣に立っていたタンクのダンさんにぶつかり、二人がつんのめって転んだ。
「あっ、危ないっ!」
「グェッ!」
私は思わず叫んでしまったが、彼らを心配したのでは無い。
盾の下敷きになった・・・・
「あ、あのぅ。」
「ダン様、念のため、盾をどけていただけますか?」
「はい。」
そこには、哀れ下敷きになり既に息絶えたガランドルの姿があった。
一同、しばし絶句する・・・
「あのぅ・・・」
「世界に平和が訪れましたね。」
「いや、何かすいません。」
「いいえ。大変立派な戦いでした。あなたたちの偉業、天界より遣わされし天使ナターシャ及びアレックスが確かに見届けました。勇者ダン、そして勇者ミゾグッチーニに神の祝福を。」
「ま、まあ、そうなるよな。」
「えっ? アタシじゃないの?」
「もちろん、サブ勇者ミラノ、前勇者ディック、大賢者オーリー、聖女レイチェルも長くその栄誉を称えられることでしょう。」
「何でそうなるのよ・・・」
「もうこうなっては仕方ありません。諦めなさい。」
「アンタ天使でしょ。コイツを復活させなさいっ!」
「無理です。魔王の魂はすでに地獄に向けて旅立ってしまいました。」
「そんなぁ・・・」
しーらないっと。




