赤の吸血鬼
あれからバスク帝国に入った我々は、真っ直ぐに吸血鬼が住むという北西部のゲジュドーという所に向かう。
そして、約20日かけてやって来たのは、古びた黒い洋館。
ここだけは昼間だというのに、陽の光が一切差し込まない紫の空が広がっている。
「やっぱり吸血鬼と言えばこれね。」
「どうして吸血鬼はこういった所に住むのでしょう。」
「テンプレよね。たまには白くて可愛い建物に住めばいいのに。」
「そう言えば、服装も黒のタキシードに山高帽、裏地が赤のマントですよね。」
「いつも服が同じなんて不潔だし、センスが無いと言っているようなものね。」
これは勇者に同意だ。
「でも、今回は違う出で立ちで出てくるかも知れませんわ。」
そんな下らないお喋りをしながら門の前まで来るが、誰もいない。
そして、遠くからかすかに剣戟の音が聞こえる。
「中で誰かが争っているのかしら。」
「行くわよっ!」
勇者が門扉を蹴飛ばして中へ走り込む。
アンタだっていつも同じ行動してんじゃん、なんて思いながら屋敷に侵入する。
玄関を突き破ると、いきなりハッキリと金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。
足下には夥しいコウモリの死骸が落ちている。
そして、玄関ホール正面から続く階段の上で、二人が戦いを繰り広げている。
「ハッハッハ!その程度ですか。やはり出来損ないでは暇つぶしにすらなりませんね。」
「黙れルデル伯爵!皆の恨み、今こそ果たしてくれる。」
「何アタシを無視してのよ!勇者ミラノ・アスプリアーノ見参っ!」
勇者はジャンプして2階の上がり、ルデルに攻撃を加える。
やっぱりというか、格好がテンプレなので、短慮な勇者でもどちらが倒すべき相手かが分かったみたいだ。
「何だ、貴様は。」
「一度名乗って覚えられないバ○に二度名乗るのは時間の無駄っ!」
勇者は構わず斬りかかる。
確かに勇者の主張にも一理ある。
「ハッハッハ。やっと面白くなってきましたかねえ。では、我の眷属にももう一働きしてもらいましょう。出でよ、我が可愛い子供たち。」
ルデルが手を振ると、夥しい数のコウモリが空中に姿を現す。
「みんな、アレを打ち落として。テンちゃん、屋敷のどっかにある棺を壊してきて。」
「あんな物、どうしてだ?」
「嫌がらせよ。」
「・・・分かった。」
テンちゃんは不承不承、吸血鬼の寝室を探しに行った。
吸血伯爵ルデルと戦っていたのが誰かは知らないが、人間にしてはそこそこ鍛錬しており、剣術そのものは勇者以上の力量があつように見える。
そして、二人は果敢に挑んでいるが、ルデルにはまだ十分な余裕がある。
恐らく、現役を引退したも同然のイエローを除けば、四天王が実力者だったことは間違い無い。
「ハッハッハ。そこの天使も見てないで、加わってやったらどうですか?」
「吸血鬼ごときの指図は受けません。」
「そんなことを言っていていいのですか? 私はこの準備運動をいつでも終わらせることができるんですよ。」
「どちらにせよ、あなたの命は今日限りです。精々イキってなさい。」
「そうですか。ならば、遠慮なく」
「おーいナターシャ、これでいいか?」
テンちゃんが棺の蓋を担いで登場する。
「ハッハッハ。さすがはテンちゃん。いい壊しっぷりだね。」
「いやあ、蓋ごと取れちゃったし。」
「な、なな何をっ!」
「大丈夫だ。本体は粉々にしといた。」
「馬鹿な、何と言うことをしてくれたんだ。」
「隙ありーっ!」
「ぐわっ!」
勇者の突きが炸裂し、ルデルは胸を押さえながら後退する。
「何のこれしき。私はいくらでも再生できるだ。」
「朝が来るまではね。」
「ここは陽の光が降り注ぐことのないゲジュドーの地。つまりお前たちに勝ち目はない。」
「それは嘘だろ。だったらどうして棺があるんだ?」
「そうね。光が当たらないなら、あの中で震えて眠る必要ないもんね。テンちゃん、どっかに天界から盗まれた装備品があるはずよ。探して回収するのがエンジニアの仕事じゃない?」
「確かにそうだな。」
「まま待て待て、辞めろっ! そんな物は無い。」
「五月蠅いわね。」
私が光魔法を展開すると、あれだけいたコウモリは姿を消し、吸血鬼の再生も止まった。
「グワーッ」
勇者達は相変わらず攻撃を続ける。
ルデルはさっきまでの元気はどこへやら、息の絶え絶えで防戦一方だ。
「何で、このようなことに・・・」
「吸血鬼の弱点なんて、子供でも知ってるわよ。」
「ナターシャ、あったぞ。なんちゃって天候イルミネーションだ。」
何だろう、その青メカの道具っぽいネーミングは・・・
「じゃあそれ、本社に転送しといて。」
「や、やめてくれ。そんなことされたら。」
シュッという音と共に、魔道具が亜空間に吸い込まれる。
と同時に、今まで暗かったのが嘘みたいに、窓から陽光が差し込んでくる。
「ギャーッ!」
言葉にもならない長い叫びとともに、吸血鬼は息絶え、灰となってしまった。
「やっぱり聖剣グラディアス、凄いわ。」
いや、断じてアンタのお陰じゃ無い。
「ディック!」
「・・・レ、レイチェル、なのかい?」
「ディック、お会いしたかったです。」
聖女とディックと呼ばれた男性が駆け寄り、熱い抱擁を交わす。
「ごめんなレイチェル。僕が不甲斐ないばかりに・・・」
「もういいのです。あなたが無事なら、それで・・・」
「失礼ですが、そちらの方は?」
「はい。元勇者のディック・トレバーです。」
「ああ、かつて聖剣の試練を受けた方ですか。」
「はい、私が世界を救えなかったせいでこのようなことになってしまい。せめて、少しでも世の中のお役に立とうと、無謀にも四天王に挑んでおりました。」
「いいえ。そこの考え無しより、ずっと立派だと思いますよ。」
こうして四天王は全て片付けた。
いろいろ伏線はあるんだろうけど、そんなのすっぽかして早く終わらせよう。




