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蒼き獣王 ゲラム

 その夜、私たち一行は城を望む開けた場所に野営する。

 周囲は開けていて遮蔽物など一切無いのでやむを得ない。


 そして、勇者には魅了とごく弱い睡眠、弱めの快楽魔法を重ね掛けして大人しくさせておいた。

 これでも騒ぐようなら従属魔法を使ってやる。

 精神魔法の濫用は、対象の精神にダメージを与えるため避けるべきだが、この勇者、今でもぶっ壊れなんだから影響は限定的だろう。



「ナターシャ様、明日はいよいよ四天王、蒼き獣王ゲラムとの戦いです。」

「私たちがいるから心配はいりません。とにかく、身の安全を最優先に考えて下さい。」

「しかし、天使様なら簡単に勝てる相手なら、私たちは必要ないのでは?」

「そんなことはありませんよ。この世界には、魔王を討伐した英雄が必要ですし、遠い未来に世界が危機に陥ったとき、他力本願ではなく、自分たちで何とかする努力は必要なのですよ。」

「不甲斐ないと次は無いということでしょうか?」

「それは神のみぞ知る領域ですね。天使では何とも・・・」

「そうですか。」


「テンちゃん、ゲラムの解析はできた?」

「ああ、ヤツの属性は獣王でこの世界でのレベルは48、天界標準でレベル52相当とのことだ。」

「やっぱりちょっと強くなってるね。」

「きっと全体的にそうなんだろうね。」


「魔王、カンストしちゃってるなんてことはある?」

「してるだろうね。でも、それより問題なのは、カンストしてるはずなのに、まだ能力が上がっている場合だよ。そして恐らく、その懸念は当たってる。」


「それってやっぱりバグなの?」

「多分ね。今からシステム部に上申するから、許可が出たら魔王の強さ調整をやってみるよ。」

「そんなこと、テンちゃんできるの?」

「そりゃやってみないと分からんが、さすがに底の知れないカンスト相手に喧嘩売るのは避けたいからね。」

「そうか。ステータスに表示されてる数値があてにならない可能性があるのね。」

「まあ、魔王と戦うのはまだ先だ。取りあえずゲラムとやらをサクッとやっつけよう。」

「分かったわ。」


 こうして翌朝、城に殴り込みをかける。

 勇者に掛けた魔法は一旦リセットした。

 また騒がしくなるが、今から戦うんだからやむを得ない。


「アンタ、アタシに何をしたのよ。何故だかアンタをちょっと好きになってたわよ。気持ち悪い。」

 相変わらずである。

 私も彼女を相変わらず無視している。


「じゃあ皆さん、城門を破壊して下さい。」

「アンタは手伝わないの?」

「勇者が全力を出すのが一番早いです。」

「そ、そりゃそうよ。じゃあ、行っくよー! グラディアスアターック!」

 彼女が全力でぶつかり、激しい爆発音と殊更大げさな光を発しながら門扉を粉砕した。


「全員、突撃ーっ!」

 彼女が全力で走り出したため、残りもそれに付いていく。

 飛んでる私はどうってことないけど、走ってるミゾグチ様はかなり苦しそうだ。


 そして、勇者は目の前に立ちふさがる魔物を吹き飛ばしながら、前進を続ける。

 もしかしたら精神魔法の反動かもしれないが、とにかく目の前の敵にヘイトを感じているようにも見える。


「おらおらおらおらーっ! 道を空けんかいっ! 人外共がー!」

 この勇者、とにかく怯まないし体力だけは一級品だ。

 口を動かさないと手が動かないタイプではあるが・・・


 そして、城内を2階、3階と上がっていく。

 もちろん、ゲラムが上ではなく地下に陣取っている可能性はあるが、勇者がモンスターの群れに突っ込む形で上の階に攻め込んでいるのだ。

 そして4階もかなり進み、大きな扉の前に来た。


「ここが玉座の間かもね。」

「敵におびき寄せられた、何てことありませんよね。」

「行くぞおりゃーっ!」

 勇者は躊躇無く扉に全力でぶつかって行く。

 みんなで最終確認や作戦を練る暇など与えてはもらえない。


「あれは近いうちに死ぬね。」

「俺たちがいれば大丈夫だよ。多分・・・」

 ドンッ!という破壊音とともに扉が突き破られ、向こう側に倒れていく。

 そして濃い土煙が張れると、遙か向こうに玉座の間と多くの人影が見える。


「良く来たな。勇者よ。」

「アンタが魔王ね。この勇者ミラノ・アスプリアーノが地獄に返してあげるから感謝しなさい。」

「我は魔王では無い。」

「さっさとくたばりなさいっ!」


 勇者が最大戦速でゲラムに迫っていく。

 彼女一人では絶対に勝てない相手なので、私たちも仕方無くこれに続く。

 敵もゲラムを守るように陣形を整え、対抗を試みる。

 そこに聖剣を振りかざした勇者が突っ込むが、さすがに多勢に無勢、はじき返される。


「ダンさん、受け止めて。」

「おうっ!」

 ダンが盾で彼女を受け止める。そして、彼の後方に後衛三名が隠れる。

 私とテンちゃんは前衛として敵を引きつけるとともに、密集している相手に向かって雷と火の範囲魔法を撃ち込む。ザコならこれだけで一掃できる。

 いや、決してザコというわけではないが、天界の住人から見れば取るに足らない存在である。

 瞬く間にゲラム以外の敵を倒し、玉座に迫る。


「ななな、何と、そなたら、天使か?」

「あなたも運が悪かったわねえ。勇者だけなら楽勝だったでしょうに。」

「我は獣の王ゲ」

 相手が名乗り終える前にビームで頭部を貫く。

 まあ、底辺の天使でもこのくらいは寝起きでもできる。


「名乗らなくても知ってるわ。」

 こうして一人目の四天王は問題無く退けた。


「戦闘時間1時間だったね。」

「ここまで来るのに14年かかってるけどな。」

「神の選定ミスよね。」

「いやいや、今のは人間には無理だって。」

「ところで、勇者は大丈夫?」

「気絶してますが無事です。」

「あら残念。」


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