天使VS勇者
「さて、俺の研修ノルマは終わったぜ。先に帰るけど頑張れよ。」
そう、昨日最新の受信機を設置し、この世界に内包されていたバグは取り除かれた。
テンちゃんの研修内容は僅か半月で終わり、晴れて天界の帰国条件が整ったのである。
「ちょっと待ってよ。私を置いて帰っちゃう気?」
「だってもうやることないしさ。まあ、ちょっとだけ息抜きしたりお土産買ったりするからあと2日くらいはいるけど、もうここに用も無いしな。」
「私のも手伝ってよ。」
「お前この半月サボってたんだから、そろそろ働けよ。」
「だってテンちゃんのは機械の取り替えだけだったじゃん。私の課題は魔王討伐よ。なんでソルジャーでもないのにそんなことしなきゃいけないのよ。第一、エンジニアと難易度違いすぎない?」
「俺に言うなよ・・・」
「それに、魔王がバグって強くなり過ぎてるかも知れないのよ。テンちゃんいないとバグの処理とか魔王の強さの調整とかできないよ。」
「俺だってまだ魔王の強さ調整まではできないと思うぞ。」
「天界のエンジニアに連絡する必要があるじゃない。」
「連絡だけならお前だってできるぞ。普段やってるだろ、バグ報告。」
「ヒドい・・・こんないたいけな0歳児を・・・」
「何言ってんだ。小学生の頃は俺の方が良く泣かされてたじゃないか。」
「昔!昔の話だよう。私はあれからちっとも成長してないんだから。」
「こんなときだけ0歳児を悪用すんじゃねえよ。お前結構強かったじゃ無いか。」
「テンちゃん、こんな見てくれの天使を魔王の前に突き出して、罪悪感とか、無い?」
「あ~も~分かったよ。付いていくだけでいいならそうしてやるよ。」
「えっ?ホント、やったーっ!」
こうしてテンちゃんを巻き込むことに見事成功した。
「それで、勇者と合流するんだよな。」
「そうね。勇者の現在地は相変わらず分かんないけど、吟遊詩人のミゾグチ様が同行してるはずだから、彼の位置情報を頼りに向かうわね。」
場所はすぐ判明し、二人で向かう。
そんなに、いや、結構近くにいる。
多分、こんなにデカい世界なのに、200kmも離れていない・・・
ハナ神殿で聖剣を受け取ってミゾグチ様が合流したのって半年くらい前だったよね。
四天王の一人くらい倒してくれてればいいんだけど、なんでこんな近くに?
しばらく飛んでいると、街道を歩いている冒険者パーティーを発見する。
「もし、あなたたちは吟遊詩人ミゾグチ様のパーティーでしょうか?」
「うん? あっ! なになにアレ、天使じゃーん。受ける~!」
ああ、コイツが勇者だ。間違い無い。
「私たちはあなた方のサポートのため、天界からまいった者です。」
ホントは研修生なんだけど、威厳って大事よね。
「天使様でございますか。」
「はい、ナターシャと申します。」
「うん?」
ああ分かる。
この「何かこれじゃ無い感」。まさかあの声でこの見た目とは思わないわよね。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「あーっ!」
ミゾグチ様と勇者が同時に叫ぶ。取りあえずは信じてくれたようだ。
「ご納得いただきありがとうございます。この度は、危機的状況に陥ったこの世界を救うために派遣されて来ました。どうぞよろしく。」
「私は付き添いのアレックスといいます。よろしく。」
「あんた、あの生意気な天使なの?」
「生意気ではありませんが、あの天使です。」
「こんなちんちくりんに文句言われてたの。何か腹立つわね。」
「これでも19才です。」
「何よ、アタシは前世で28才、勇者歴2年だけど永遠の15才よっ!」
「あなたこそ、BBAのクセに人間ができてないじゃないですか。」
「黙れ年下!」
勇者が殴りかかってきたので華麗に躱し、無詠唱で雷を落としてやった。
ドンッ!
「キャッ!」
「あなたの髪の毛をお望どおり、ちんちくりんにしてあげました。これでも人間ごときには負けません。」
「アンタねえ、暴力反対よっ!」
「勇者なんて人間界を代表する暴力兵器じゃないですか。」
「クソゥ、この暴力天使め・・・ あら、こっちはいい男ね。」
目が合ったテンちゃんは後ずさりする。
「決めた!アタシ、アンタだけでいいわ。そこのちんちくりんは天に召されなさい!」
「そうですか。ではアレックス殿、後はよろしくお願いします。」
「おいナターシャ、いつもと呼び方がって、そうじゃない。なんでお前が帰っちまうんだよ。」
「お客様のご要望です。」
「お前の研修じゃねえかよ。」
研修って言っちゃったし・・・
こうして口論すること10分。
私もテンちゃんに同伴することになった。
「だからお前と一緒はいやだったんだよ。」
「多分、長い天使生でこれが最後だから、許してね❤」
「お前のハートなんかいらねえよ・・・」
「では、この世界最強の私から❤」
「いやそれも・・・」
こうして彼らの世界を救う旅が始まる。
いや多分、そんな大層な物にはならない。




