不死のスキル
今日はひっきりなしだなあ。
3月は結構ヒマって言って無かった?
なんてぼやいてると、すぐにコールが鳴る。やれやれだ・・・
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「我は異界の帝王ムスラン。前世の名を西本輔と申す。」
「ニシモト様ですね。ご用件をお伺いします。」
「えらくあっさり流されてしまいましたが、我は異界の王です。」
「確かに凄そうですが、本当に凄い方はこんなところに電話なんかして来ないですよ。」
「言われてみればそうですね。」
「一気に親しみやすくなりました。」
「ええ、まあ。今でこそ沢山の配下にかしづかれていますが、元は専業主夫でしたからね。」
「お子さんは元気でしょうか。」
「子供はまだいなかったんですよ。」
「それはお気の毒です。」
「まあ、前世のことはともかく。僕の悩みを聞いてくれますか?」
「実はここ、悩み事相談室ではないのですが・・・」
「でも、カスタマーセンターですよね。」
「沢山の部下の方が相談に乗ってはくれないのですか?」
「これでも私が一番力を持っているのです。つまり、残念ながら彼らはあまり頼りにならないんです。」
「仕方ありませんね。ではどうぞ。」
「僕は今の世界に転生するときに、神様から不死のスキルをいただいたんです。」
誰だよ。そんなバカな壊れスキル与えたのは・・・
「もちろん、実は不死が辛いものだということが理解していましたが、不案内な異世界に行く不安もあって、念のためにいただいたんです。」
「まあ、諸刃の剣ではありますが、最強クラスのスキルですもんね。」
「ええ、しかし、不死のなったのはいいのですが、リッチになってしまいました。」
「リッチって、不死王ですよね。」
「何の前触れもなく、地上に降り立った瞬間、リッチです。その日の朝まで専業主夫だったのに。」
「見た目は、例のアレですね。」
「はい。最初から友人が出来ないことが確定しているアレです。」
「結婚や就職にも大きな支障があります。」
「ですから自分で起業するほかありませんでした。」
「どんな会社を設立したんですか?」
「有限会社ボーン帝国です。僕はココで帝王ムスラン役をやってます。国家形態を取った用心棒集団です。社内には農業や製造販売部門もあり、ちょっとした国ですよ。」
「まあ、元々リッチですもんね。そこいらの軍隊には負けないでしょうし。」
「はい。今や世界の警察です。コソ泥退治から魔王討伐の傭兵派遣までを手広く行う一大企業の社長、それが私です。」
「すごいじゃないですか。しかも不死なら未来永劫、ニシモト様の世界は安泰じゃないですか。」
「でもこれが永久に続くんですよね。」
「ニシモト様だけはですね。」
「そうなんです。まだここに来てから2年なのに、もう将来が見えて憂鬱になるんですよね。」
「でも、たくさんの従業員を抱えておられるのですから、そう簡単に引退なんてできませんよ。」
「そうなんですよ。でもこの不死ってスキル、死なない以外にはデメリットだらけなんです。」
「まあ、チートに大きな制約が課せられていることは珍しくありませんが。」
「まず食事がいただけないんです。」
「そもそも必要ありませんし、胃が無いですし・・・」
「私より年長者が亡くなると、脳内に勝手に寿命ランキングが表示されるんです。」
「そのうち不動の一位に君臨しますね。」
「ライバルを葬るために、定期的に体から病原菌が吹き出すんです。」
「まあ、リッチですもんね。何か存在自体が不吉な気はしてました。」
「こんな厄災を振りまいたら、地獄行きですよね。」
「死なないから問題ありませんよ。それより、従業員の方々は大丈夫なのですか?」
「はい。みんな骨なので無事です。」
「良かったですね。」
「それと、成長期でも無いのに、毎年少しづつ背が伸び続けているんです。」
「そりゃ、リッチって結構巨大ですもんね。ニシモト様だって、いずれは巨大なリッチになりますよ。」
「せめて目立たず恨みを買わず生きていけないものですかねえ。」
「今のところ、神を除いて永遠の命なのは不死王だけですからね。ただでさえ目立つ上、厄災を振りまく存在なんて、雰囲気満点ですね。」
「知っていればこんなの選びませんでしたよ。」
「そうですね。これは、与えた神にも非があると思います。」
「死なないということ以外、良いとこ無しです。」
「でも、リッチになったことによる様々なスキルがありますので、魔王以外ならニシモト様に敵わないと思いますよ。その上、死なないですし。」
「あ~あ、たった一度の選択ミスでこんなになってしまうのですね。」
「転生時の選択はあまりに重い結果をもたらします。でも、神に自動的に与えられた方からの苦情の方が多いですからね。」
「ああ、こんなもの勝手に付けられたら、そら怒りますわ。」
「まあ、天使だって勝手に産み落とされて小間使いさせられて、こんなところに訳も分からず配置されますけどね。」
「皆さん、大変なのですね。」
「ですから、ニシモト様も元気をお出しください。きっと悪い事ばかりじゃないですよ。」
「はい。頑張りたいと思います。」
「それでは、お元気で。」
「はい、失礼します。」
最近会得した「不幸自慢」で何とか乗り切った。
「思った通りの顛末でした。」
「不死なんて、もうかなり擦られて誰も選択しないと思ったら、そうでもないのですね。」
「運命の選択が自らに降りかかるとつい、選んじゃうんでしょうね。」
「でも、明らかにチートなんだから、不自然なものは避けるに越したことは無いわ。」
「全くもってそのとおりです。」
頑張れ、リッチ・・・




