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肝心なものが錬金できません

「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」


「もしもし。カンタ・コノシロと言う者です。」

「コノシロ様ですね。ご用件をお伺いします。」


「私はこの世界に来て4年。世界一の錬金術師を目指して修行し、まだそれほど知名度はないものの、腕は誰にも負けないくらいになったと感じています。」

「それは大成功を収めたと言って良いと思いますよ。錬金術師になった転生者は多いですが、大成するのはほんの一握りですから。」

「ええ、良い生活ができるようになりましたよ。一応、魔道具なんかも錬成できますからね。」

「取りあえず、エアコンとウォシュレットがあれば文句ありません。」


「そうですね。私の居る国は夏もそれほど暑くなりませんし、地球温暖化も起きてないですけど、エアコンは便利ですよ。一番売れるのは冷蔵庫ですけど。」

「いいですね。魔道具が作れる錬金術師というだけで、大概の世界では大金持ちになれます。」

「はい。しかし、不満としては一番作りたいものが作れないということですね。」

「でも、作りたい物がまだできていないからこそ、生きるモチベーションが起きるというものではありませんか?」


「でも、一番作りたい物なんですよね。」

「何でしょうか?」

「一つはお金です。」

「金は錬成できるのでしょう?」

「はい。でも何故か少量しか作れないんです。」


「大量に作ったりしたら世界に大きな波紋を呼ぶような貴金属類については、製造制限が掛かっていることが多いですし、通貨偽造は犯罪ですので、金貨を始めとする通貨の錬成はほとんどの世界でできないように設定されていますよ。」

「最初からできなかったのですか。」


「まあ、錬金術といいつつ、肝心の金に製造制限が掛かっているなんて本末転倒ですが、これも社会の安定のためとご理解いただければ幸いです。」

「確かに、経済が混乱しますし、恨みも買いますよね。」

「はい。何事もほどほどがいいんです。」


「でも、アダマンタイトやミスリルは結構沢山錬成できますよ。」

「あれも貴金属に分類されることが多い金属ですが、実用的なもので生活や文明の向上に必要ということで制限を掛けていない世界が多々存在します。」

「なるほど、そういう基準があるんですね。」

「中には、自然界に存在しないのに錬金術なら生産可能な世界だって存在します。」

「地球はどうだったのですか?」


「錬金術自体が存在しません。数式で表せないものは一切存在しない世界として作られています。」

「最初にそういう設定をしたのですね。」

「だから他の世界の基準として位置付けられているのです。」

「では、最も厳しい世界ということですか?」

「厳しいと言うよりは、最も神の影響が及んでいない世界とお考え下さい。個人的な意見を言わせてもらえば真っ当な世界ですね。」


「じゃあ、あれでもいい世界なんですね。」

「神の代わりに人が暴走してますけど。」

「確かに。」


「他に造りたいものはないのですか?」

「人間です。とはいってもアンドロイドみたいなものですけど。」

「なるほど。人間を始めとする生物の錬成もほぼ禁止されていますが、機械人形なら作れますね。」

「しかし、頭脳や内臓の機能の再現が難しく、なかなか実用可能なものができませんね。」


「人間と同じような機能にしようと思うと難しいですね。ちょっとした調整の違いが致命的な故障に繋がりますからね。」

「そうなんです。ご主人様の命令に絶対服従させるだけでも頭脳に大きな負担がかかって、他の思考と両立させられないんですよ。」

「確かに、自我を持たせつつ服従をさせるのは困難ですね。しかし、コノシロ様はどうしてアンドロイドなど?」

「はい。彼女兼メイドを作ってハーレムにしたいんです。」

 やっぱそこか。ご主人様呼びだもんね。


「しかし、コノシロ様ならいくらでも雇えるのではないですか?」

「それが、ここに来てからいろいろあって、極度の人間不信なんです。できれば友達アンドロイドも作りたいです。」

「まあ、アンドロイドは製造禁止ではありませんし、他の世界で成功した例もございますので、気長に取り組まれてみてはいかがかと・・・」

「そうですね。それまで彼女はお預けですが・・・」

 それを彼女とは言わないと思うが・・・


「まあ、どの物品が製造禁止に当たるかは、過去の書物を紐解いて、先達が実現できなかったものを一覧にすればおよその傾向が分かりますよ。禁止理由もごく真っ当なものですから想像し易いですし。」

「分かりました。参考にさせていただきます。」

「では、彼女ができるのを楽しみにしております。」

「ありがとうございます。失礼します。」

 こうして錬金術師との通話は終わった。



「実に錬金術師らしい方でしたね。」

「彼女をつくるという、とても崇高な理念をお持ちでした。」

「そうですね。錬金術ほど人の欲を具現化した職業はございません。」

「でも、その錬金術師であっても、物語の主人公は無欲な方ですよね。」

「そういう人物は希少だからこそ、その輝きが人を魅了するのかも知れませんね。」


 次は、どんな珠玉の輝きを私たちに見せてくれるのだろう。

 そう、良い感じに浸っていたら、別の先輩から明日、出勤後速やかに班長の所に来るよう言われた。


 一気にテンションは下がった・・・


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