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辺境の領主

王様から電話が来たと思ったら、次はこの人。

「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」


「私は辺境で領地を開拓しているマーカス・デリンジャーと言う者です。」

「マーカス様ですね。ご用件をお伺いします。」


「私は元々武門の家系に嫡男として生まれ、剣の道を歩むことを期待されていましたが、スキル下賜の儀でハズレをもらったということで実家を追放され、領地辺境の荒野にたどり着き、そこを開拓しており、そこそこ成功してきたのですが、それを見た実家の介入が激しくて困っており、お電話差し上げた次第です。」

 まあ、こういう世界が多いからこういう相談も多いのだが・・・


「あらかじめ、チートはいただいていたのですよね。」

「はい、そのため儀式ではハズレしか貰えませんでした。」

「ご実家の介入とは、具体的にどういうものですか。」


「直接的には父と次期後継の弟が領内に侵入して乱暴狼藉を働いたり、私に喧嘩をふっかけたり。間接的には往来の邪魔、商人への嫌がらせ、軍事的な威嚇や政治的な孤立を図るなどです。」

「多彩な技をお持ちのようですね。」

「まあ、元々が脳筋ですので、幼稚なレベルですが、なまじ身分が高いので、平民にとっては無視できませんね。」


「正当防衛という手は使えないのですか?」

「私は戦闘系スキルを持っていませんし、軍事力も防衛が手一杯です。数年経てば逆転は可能と見ていますが。」


「そうですか。では、近隣との関係は。」

「はい。私も近隣領主からの信用を高めているところで、父などよりは真っ当な人間という評価を得ているでしょうが、まだ積極的な支援をいただくまでにはなっておりません。」


「では、今は我慢の時ですね。」

「やはりそれが妥当ですか。」

「はい。ですが、今の方針は正しいと思いますので、このまま継続すれば見通しは明るいかと。」

「取りあえず安心しました。ありがとうございます。」


「協力者の方はおられますか。」

「はい、私に付いて来てくれたメイドと元婚約者、新たに馴染みとなった商人や住民など、かなり人材は豊富ですよ。」

「彼らのスキルも合わせれば、大きな力となることでしょう。」

「そうですね。彼らはとても頼りになりますよ。」

「それで、マーカス様はどのようなスキルをお持ちで?」


「はい。私は空間収納、鑑定、トリプル思考、記憶強化、治癒、解呪、無詠唱、複製、絶対検量、魔法反射、精密模倣、イメージ具現化、体力強化、スキル改竄、鼓舞、魔力付与、スキルテイカ-、精霊魔法。これに儀式でもらった伐採です。ちなみに、襲ってきた弟からこっそりスキルテイカ-で剣聖スキルを奪いましたけど、元婚約者にあげてしまいました。」


「普通は一つですよね。」

「はい。私も普通ならきこりにしかなれないはずです。」

「最早、その世界では神に等しいのでは?」

「でも、戦闘はからっきしですよ。」

「でも、弟さん、大変ですね。」


「別にざまぁしたかった訳じゃないんですが、しつこいですし、不意に斬りかかられると困りますからね。」

「スキル無しになってしまったんでしょう。」

「本人も気付いてないでしょうから、父にもバレてないと思います。」

「バレたら追放されるのでしょう。」

「他に跡継ぎはいないんですよ。」


「あなたが剣聖を再取得すれば・・・」

「もう、あの家族とは関わりを持ちたくないですね。」

「しかし、家人や領民がいるのでしょう?」

「家人には儀式の後、手のひら返しされましたからね。」

「よくあるパターンです。そういう設定なのかも知れませんね。」


「領民はすでにうちや隣に移動し始めていますよ。そのうち、あの家は財政的に立ちゆかなくなるでしょう。」

「そうなれば軍事的脅威は無くなりますね。」

「それまでの辛抱ですね。」

「では、ご健闘をお祈りしています。」

「頑張りますよ。それで、せっかくですから色々教えていただいてもよろしいですか。」

「構いませんよ。では、マーカス様の前世のお名前をお聞きしても?」

「浜坂淳基です。」


「ハマサカ様は・・・B-AW2513-3Dですね。ハズレスキル持ちということで追放された俺が辺境の領主となって無双しちゃったぜ、イェイな件、という世界ですね。」

「随分、人に聞かせたくない痛いネーミングですね。」

「そうですね。最初からこうなることが決められていた世界ですね。」


「では、父や弟が本心から悪い訳ではないのですね。」

「いえ、本心から悪い設定です。はっきり申し上げて救いようが無いですし、ハマサカ様がどんなに力を貸しても没落するようにセットされていますね。」

「そこまで決まった世界なんですね。」

「全てが決定されている訳ではありませんが、ご実家の没落、爵位の喪失及び御尊父の困窮の中での死まではデフォです。」


「弟は何とかなるのですか?」

「いいえ、スキルなしですからね。若いですからそう簡単に死にはしませんが、もう浮上することもありません。」

「私が援助してもですか?」


「はい。彼とあなたには距離設定がされていますので、ある程度以上は近い関係にはなれません。あなたが近付けば彼はそれに応じた反発をします。ですから関係修復はできませんね。」

「しかし、弟はそれほどの悪事を働いてはいないと思いますが。」


「いえ、彼は少年時代にすでに二人、同年代の子を殺害していますし、その後もこれまでに6人殺害、更にはあなたの暗殺に失敗した際、大勢の部下が亡くなっています。控え目に言ってク○です。」

「そんなことがあったんですね。」

「これからハマサカ様は国王に呼び出されたり、王女殿下と懇意になるでしょう。その時どういう選択をするかである程度は運命が変化しますが、成功に向かって邁進することには変わりません。」


「まだ運命の分岐はあるのですね。」

「はい。そして、王家との距離が近付くにつれ、ご実家は窮地に立たされ、というより自滅していくわけですが没落し、御尊父は病に伏せ、弟さんは盗賊に身をやつします。」

「盗賊はマズいですねえ。」

「もちろん、スキルがないので頭目では無く一構成員としてです。」


「でも、本人はスキルが無いことを知らないんですよね。」

「はい。頭目の座を狙ってボコられ、下働きになりますね。」

「哀れですが、ヤツが剣聖なんて持っていては何をやらかすか分かりませんから。」

「そうですね。自業自得ですが、更生の可能性は1ミクロンたりともございませんので、くれぐれも情けをかけて災禍を振りまくようなことはなさらないよう、お願いします。」

「分かりました。救えないのですもんね。」

「諦めてください。」

「はい。分かりました。色々ご教示いただきありがとうございました。」

「では、ハマサカ様の成功をお祈りしております。」

「ありがとうございます。では、さようなら。」


 こうして電話は終わった。

 やはり、成功を掴む人は、知的かつ冷静で穏やかな人格を持っているんだなあと思いつつ、帰り支度をする。


 私はちょっと、なれないなあ・・・



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