モブの王様
一年で最も寒いと言われる2月だけど、天界は関係無く常春。
だから、季節感なんてものは無いが、それを無理矢理演出したいと願った我が儘な神により、食べ物には旬があって、一年中新鮮な野菜がある訳では無い。
わざわざ不便にしてどうするんだよって思う。
だから馬○と書いてカミと読む。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「余は、ラタドームで国王をしておるラルフ16世である。」
「陛下、ご用件をお伺いします。」
「うむ。余は勇者の出身国を治める王であるが、2年前に彼を送り出して以降、暇でしょうがない。何とかならんか。」
「国家運営すればよいのではないですか?」
「そういう物語ならそうしておる。しかし、余がすべき仕事など無い。何しろ、竜王の存在以外、我が国に懸案などないのだからな。」
「結構なことではありませんか。」
「暇でしょうがないのだ。唯一の出番が『おお!しんでしまうとはなさけない』だけなのじゃぞ?」
「もう少しありましたよね。」
「後はオマケみたいなものじゃ。」
「休みも取り放題です。」
「そう思うじゃろ?だが、いつ勇者が死んでも間に合うよう、外出もままならん。」
「そういえば、いつもいましたね。」
「ああ、せめて事前予約をしてもらいたいものだ。」
「意外と大変なのですね。」
「大変な事ならいろいろあるぞ。まずは、台詞が全てひらがなで書かれていることじゃ。」
「まあ、当時のスペックではやむを得ないですよね。」
「何のために漢字があると思っておるのじゃ。それで棒読みじゃと皆が笑うのじゃぞ。仕方無いではないか。読みにくいんじゃし。」
「しかし、台詞の少ない王様はまだマシなのではありませんか。」
「他にもあるぞ。ふっかつのじゅもんを発行せねばならんのじゃ。モブである余が。高貴である余が。」
「あれは大変ですね。」
「20文字じゃぞ。それをダブらずに一瞬で表示せんといかんのじゃ。セーブの度に余はムッとしておるわ。」
「それをメモし損ねるとデータをロードできないんですよね。」
「そうじゃ。しかも自分が書き間違えたのが悪いクセに、八つ当たりでツーコンを投げつけてきたりグーパン喰らうのじゃ。あんまりじゃろ。」
「まさにつうこんのいちげきですね。」
「王を何だと思うておるのじゃ。」
「しかし、陛下は何故この世界に?」
「ここは異世界ファンタジーの原点であり、全ての要素がここにある。ここを選んでおけば間違いなのじゃ。」
「確かにそうでしょうが、陛下のお立場ではそれを堪能できないでしょう。」
「余が勇者になれるなどとは考えておらぬ。ただ、王がこれほど退屈で面白くないものだとは思わなんだぞ。」
「いや、かなり予想できたのではないかと。」
「姫が救出されて帰ってきたら、二人で冒険でもしてみようかの。」
「姫は最後、勇者とともに新たな地を目指して旅立つのではなかったでしたっけ?」
「そうじゃ。そうじゃった。余と国を捨ててあっさりと・・・グヌヌッ!勇者め・・・」
「陛下が一番悪そうな顔になっておりますが。」
「世界は平和でめでたしめでたしとプレイヤーは皆、思い込んでおるが、余と王国にとっては最悪の結末じゃ。何しろ余の子供は娘だけじゃからのう。」
「後継者争い勃発ですか。」
「ああ、甥と又従兄弟が有力じゃ。竜王がいなくなった途端、権力闘争じゃ。」
「それを何とかしなければ。暇なんて言ってる場合じゃありませんよ。クーデターとか内戦とか、色々懸念すべき事があるんじゃないですか?」
「まあ、そこは大丈夫じゃろう。我が国にはほとんど軍事力がないからのう。」
「そうなのですか?」
「フィールドには大したモンスターはおらんし、他の国もない。兵は城にいる衛兵だけじゃ。」
「たったあれだけですか?」
「まあ、国民の数も大した事ないのう。」
「もしかして、本当に画面上で見たあの数しか人はいないのですか?」
「別に隠してはおらんぞ。」
「絶滅寸前じゃないですか。」
「大丈夫じゃ。人というものは、平和であれば勝手に際限なく増えるものじゃ。」
「最大の街でも限界集落並でしたよ。」
「若者が多いから大丈夫じゃ。」
「まあ、人が少ないと平和ではありますよね。」
「つまりじゃ。世界の半分をくれてやると言われても、誰も靡かんのじゃ。」
「竜王、太っ腹に見えて、実は大した事言って無かったんですね。」
「この大陸、淡路島くらいの大きさじゃからのう。」
「もう島って言っちゃいましたね。」
「だから退屈なのじゃ。」
「もっと広い世界に転生すれば良かったですね。」
「来てから分かったのじゃ。仕方無かろう。」
「ご愁傷様です。何か楽しみを見つけて頑張って下さい。」
「うむ。手間を取らせたのう。」
何か、本当に残念な感じで電話は終わった。
世界も色々あるんだなあと思った。
みんな、せめてコントローラー投げつけるのは止めよう。
気の毒だから・・・




