これでもギルド職員ですけど
昨日今日は最悪だった。
昨日はみんな私の剣幕を恐れてか、近寄っても話しかけてもくれなかったし、今日は今日で2時間も説教くらったし。
まあ、班長はあの件で明日、神様にお呼び出しを受けたみたいで微ざまぁだけど。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、転生して8年になる、ドスと言う者です。」
「ドス様ですね。ご用件をお伺いします。」
「私、この世界に転生して以来、ギルド職員としてたむろし、新人冒険者に教育をしてきたのですが、そろそろ転職を考えておりまして・・・」
「ギルドの新人教育担当なのですね。」
「いや、その・・・新入りらしき者に絡む役をしてきたのです。」
「ああ、『何だてめぇ、見慣れねえ顔だな』と挨拶を始める方ですね。」
「そうですそうです。新人をビビらせて冒険者稼業の厳しさを教え込み、時に主人公にのされる辛い仕事です。」
「いますよね。あれの必要性を感じたことは一度もありませんが。」
「いえ、どんな世界の何事にも様式美というか、セオリーは必要ですし、読者に対して主要キャラの強さを提示できるのは私だけだと自負しています。」
「まあ、ものは言いようといいますか、そうではあるのでしょうけど・・・」
「あの役は本当に粗野な人物には務まりません。それに、弱者を必要以上に痛めつけず、強者に命を奪われない程度の実力は必要です。誰にでもできる仕事ではないのですよ。」
「でも、転職したいと。」
「はい。さすがに8年も続けていると、評判が悪くて出禁の店は多いし、冒険者のほとんどに絡んだ経験があるんでかなり恨みを買っています。何よりモテなくて未だ独身です。いくら仕事といっても辛いんです。」
「そうですか。ギルドの待遇面はいかがですか?」
「いつ新人やよそ者が現れるか分かりませんので、年中無休でギルドの営業時間内は拘束されています。それなりに給料はありますし、新人からの臨時収入もありますが、割に合っているかと聞かれると、合ってないですね。」
「それでは冒険してレベルアップなどできませんね。」
「私は身体強化のほか、転生時にギフトを多くもらっていますので、何とかやれています。ぶっちゃけ、新人は弱いですしね。」
「なるほど。それなら冒険者に転職しても何とかなりそうですね。」
「一応、建前上は今でも冒険者です。」
「しかし、その街で暮らすというのは辛いですね。」
「しかし、他所の街に活動拠点を移したら、そこのギルドで絡まれてしまいます。」
「ただの新人ではないのですから、撃退できませんか。それに、ランクだってそれなりなのではありませんか?」
「いえ、ランクは最低です。クエストをここ7年ほどこなしていませんので。」
「それはやられちゃいますね。」
「相手が私みたいななんちゃって冒険者ならともかく、ガチのベテランだったら、いくらギフトがあっても経験の差でのされてしまいます。」
「それなら冒険者以外の職業を考えてみてはいかがでしょう。いずれは引退する訳ですし。」
「そのようなスキルも自己資金もありませんが。」
「しかし、前世の知識を活かせば、何かしらの職には就けると思いますよ。」
「そうですね。そうしようかな。」
「しかし、転生者で新人絡みになるなんて珍しいですね。何かきっかけでも?」
「はい。戦後の不景気だった時期に大量の冒険者希望がギルドに押し寄せ、依頼の奪い合いや新人の殉職率が跳ね上がってしまい、当時新人冒険者だった私にギルドから勧誘があったのです。」
「それは大変でしたね。」
「おそらく、私の顔が新人らしからぬ貫禄があったためだと思います。」
「ああ、そういうの見た目重視ですものね。」
「仕事のためにワザと額に傷もつけました。」
「それはさぞかし女性に怖がられたことでしょう。」
「はい。ドスしか利いていない顔と言われています。」
「モテ要素ゼロですね。」
「冒険者云々より、そっちの方が深刻です。何せ、近寄ってすらくれないのですから。」
「ドスさんが実は優しい、ということが知れ渡ったら、ギャップ萌えに惑わされてくれる女性も一人くらいいるでしょう。」
「騙すこと前提なのは、ちょっと・・・」
「では、正攻法で。」
「無理です。」
「じゃあ、新人絡み仲間と協力して、女性を取り囲むとか。」
「誰がどう見ても犯罪です。」
「これは未亡人しかいませんね。」
「未亡人にも選ぶ権利があると思いますけど。」
「そんな弱気ではいけませんよ。あなたは非常に強そうな見た目をしているのですから、『僕は死にましぇ~ん』とか言って頑強で健康であることをアピールすべきです。」
「お笑いに転向してしまいます。」
「いいですね。お笑い。芸人さんの中にも顔が怖いと言われる方はいます。できますよ、きっと。」
「お笑いを目指す転生だけは聞いたことありませんね。」
「これからは恨まれずに済みますよ。」
「まあ、せっかくの人生ですから、少しでも笑えるように頑張りますよ。」
「そうですね。ご健闘をお祈りしております。」
「有り難うございました。失礼します。」
今日も一人の転生者の運命の扉を開いた。
それが良かったかどうかは神のみぞ知ることだが・・・




