異世界を守るピンク
さて、今日もそろそろ帰れるかなと思っていたらコールが鳴る。
24時間サポートなので、お客様はいつでも電話してくるが、もうすぐ帰宅できる職員は見逃して欲しいといつも思う。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「僕は、異世界で特撮ヒーローの隊員をやっている赤城勝馬と言います。」
「ではアカギ様、ご用件をお伺いします。」
「僕はこの世界で、魔法戦隊マジレンジャーの隊員として人生を賭けているのですが、今一つ人気がありません。どうしたら子供人気が上がるでしょうか?」
「その世界では戦隊モノが流行ってるのですか。」
「はい、初代の十人戦隊ナナレンジャーから前任の日雇戦隊キョウダケジャーまで47作が作られ、時代を問わず高い支持を受けてきたんです。」
「その中で、不振ということなのですね。」
「はい。これまでより豪華な衣装、ベテランスタッフ、強力なエフェクト効果や斬新な設定など、人気獲得の策を講じてはいるのです。」
「そうですか。アカギ様はあくまで俳優であって、本当に悪と戦っているのではないのですね。」
「はい。前作までは本物の悪の組織と戦っていましたが、今作ではそういう設定を無くしましたので、全く命の危険はありませんね。」
原因そこだと思うよ。
「でも、戦わないなら活躍の場は無いですよね。」
「ありますよ。ショッピングモールとか商店街とか。」
「平和になりましたね。」
「はい。前任が悪を滅ぼしてしまいましたからね。」
日雇い、頑張ったんだ・・・
「しかし、アクションが売りのはずですから、そのシーンが無いのは痛いですね。」
「その代わり、魔法の演出と着替えシーンに力を注いでいます。」
「男性の変身シーンなんて需要あります?」
「そのために、私以外のメンバーは全て女性なんですよ。」
「ファン層は小さな男の子ですよね。」
「いや、お父さんだけでなく、彼らにも結構ウケが良いんです。小さくても男ですね。」
「それで、アカギ様がレッド役なのですね。」
「いいえ、私はマジピンク役です。」
「てっきりアカギ様がレッドだと・・・」
「レッドが百田早希、ブルーが青野望、グリーンが山中緑、イエローが木之元遼子、ホワイトが城田未来、ブラックが影坂泉です。」
「益々アカギ様の違和感が大きくなりました。」
「でも、今時リーダーが男って時代でも無いし、ピンクが女っていうのも時代遅れだと思う。」
「う~ん、それはそうかも知れませんが、人生経験と比較対象に乏しい子供がターゲットなら、マンネリもアリだと思うのですが。」
「子供の情操教育に固定観念は禁物です。」
「でも、売り上げが重要なのですよね。テレビ局とかタカ○トミーとか。」
「バン○イです。」
「失礼しました。それに戦隊シリーズ初の打ち切りなんてことになったら大変です。」
「できたら、今の枠組みを維持しつつ、人気が回復すればいいのですが・・・」
「そうですね。しかし、今の編制では男の子人気を上げるのは難しいですね。グッズ展開はどうなっていますか?」
「マジレンジャーロボというデラックス超合金にマジピンクソードや各マジック杖、大きなお友達に人気のフィギュアとかお面、ヘルメット、パジャマなど、色々です。」
「戦闘が無いのに巨大ロボがいるんですね。」
「ええ、マジフラッシュとかマジパンチなど、攻撃技も充実してます。」
「少しは魔法で戦う努力をした方がいいと思いますよ。」
「ああ、女の子は喜ぶかも知れませんね。でも、女子人気だって意識してるんですよ。それが証拠に、私はニューハーフの設定なんですよ。」
「それはもう割り切って、男子は切り捨てた方がいいですね。」
「しかし、それでは大きな市場を逃してしまいます。」
「いいえ、既に逃していますよ。」
「しかし、男子は重要なんですよ。すでにスポンサーもプロデューサーも私の力不足が原因ではないかと指摘し始めていますからね。」
「最早そういう問題では無いと思います。この際男子など忘れてしまいましょう。女の子のファンを増やしたいならモフモフ要素を増やし、CGもファンシーな演出にするべきです。」
「でも、戦隊モノなんです。」
「アカギ様の最終目標って何ですか?」
「大人が選ぶ懐かしの戦隊ヒーローベスト10入りです。」
「ニューハーフが入れるものでしょうか。」
「いえ、そうなると男性人気が鍵になります。」
「じゃあ、男らしくかっこよさ重視の演技をしてみてはどうですか?」
「素のままですか・・・」
「監督やプロデューサーが何と言おうと、人気が出れば黙らせることができます。」
「じゃあ、それでみんなと話し合ってみます。」
「演者の意見はある程度尊重されるはずです。頑張ってみて下さい。」
「分かりました。失礼します。」
何か、疲れてるときに疲れる相談だった。
ホントはこういう人生相談っぽいの、対応しなくてもいいんだけどなあ。
今日は早く帰ろ・・・




